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第二十二章 ナイトパーティー 後編 その1 夢の叶った夜








                      《綾崎 紫苑》






 舞踏場の真ん中に立つと、陸と私は音楽に合わせて踊り出す。

 今――――まさにナイトパーティーが始まった。

 穏やかだが、心が湧き立つワルツの曲は、今の私の心情を表しているように弾んで聞こえた。

 シャンデリアが放つ煌びやかな光の泡の中、私たちは重なり、少し離れ、また重なる。

 手を取り合い、重ねた手のひらにぬくもりが伝わる。

 その温かさは掌を通して腕へと登り、心臓に伝わるようだった。

 それは少女の頃。

 つたないただの妄想でしかなかった――――お姫様になりたかったという想い。

 愛しい陸の(かいな)に抱かれ、ロマンスの階段を登っていく。

 私が小さな頃に憧れた夢。

 それが今、現実としてここにある。ここに形という輪郭を伴って、今まさにある。

 たとえ、これが今のパーティーの刹那の間だったとしても……待ち望み、焦がれていた時を体験したことによる興奮が総身を包む。

(あぁ……っ!)

 目の前で陸が私を見て、穏やかに微笑んでいる。

 その笑顔は子供の頃と変らない。幼い頃に魅せられたその笑顔がそこにあった。

 繋がれた掌は暖かくて、重なった視線は確かで、触れ合う心は震えている。


 夢が――――叶った。


 リズムに合わせてターンし、私の腕を引いて、私をリードするように陸は滑らかに踊る。

 談笑のざわめきが遠い。霞みがかかった頭の中でワルツの音を頼りに、掻き分けていく。

 もうほとんど陸のリードにまかせっきりだった。

 白い煌びやかな光が降り注ぐ中、きらきらした光に包まれながら、私たちは踊る。

 踊り続ける。

「凄いな……陸。踊れるなんて知らなかったでござる」

 感嘆した私の呟きに、陸は微笑する。

「実はさ……種を明かすと、学校のオリエンテーションの催しで習ったんだ」

「そうなのか……」

 そこでツキンと湧き上がっていく胸の痛みを感じた。

「なあ、陸……」

「ん?」

 俯きながらの小さな私の呟きは、周りの音に消し去られること無く陸の耳に届く。

「学校の催しの……その時――――」

 よせ、無粋な。とまれ私の唇。

 そうは念じながらも、私の口は止まらない。

 今更、問うてもしかたないことだというのに……わかっているのに……顔を上げた。

 きっと情けない顔を私はしているだろう。

「その時、陸の隣にいた女子(おなご)は誰だ?」

「あ……クラスメイトだけど……」

「そう、か。ふっ……何故かな。私はその女子が……少し羨ましい」

 顔を横に逸らし、緩く笑みを浮かべる。浮かべようとした。

 それはひどく脆い笑みの仮面で、そうでもしないと私は……まともに陸の顔を見れない。

「できれば……できれば私がその時――――陸の隣にいたかったな」

 後悔が胸を衝く。

 不意に夜会の煌びやかさがこの身から遠ざかったように感じた。

 きっとシンデレラも0時の鐘を聞いた瞬間、こんな気持ちだったに違いない。

「なんでやねん」

 だが私の王子様は関西人だった。

 陸は右の人差し指で、私の額を軽くデコピンする。少し痛かった。

 叩かれた額に手を添えて、驚いて陸を見上げると、陸は逸らせないくらい真っ直ぐに私を見て言った。

「紫苑は今、俺の隣にいるだろう」

 今初めて気が付いたかのように瞳を見開く。

 そう今、私の隣にいるのは紛れもなく陸だ。

 この瞬間は陸のクラスメイトの女子ではなく、私が陸を独占しているのだ。

「……そう――――だったな」

「もう……もう紫苑以外を隣に立たせたりしない」

「……~~ッッ!」

 その真摯な告白に私は喉が干からびたように乾く。

 視線をどこに定めて良いかわからなくなる。顔が……凄く赤くなっているのがわかった。

 まるで全身を駆け巡る血が一箇所に集まってしまったのではないかと思うほど。

 この男はたったそれだけの言葉で私を支配する。

「や、約束だぞ!」

 なんとかそれだけを陸に言う。

「ああ、約束だ」

 その約束を誓ってくれた陸の確かな声にどれほど私の心が震えたか……どれだけ嬉しいか、それは恋した乙女でなくては、わかるまい♪







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