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第二十一章 ナイトパーティー 中編 その4 乙女の夢






                           《綾崎 紫苑》







 アレ公がパチンと指を鳴らす。

 瞬間、ホールの中心がゴゴゴゴゴという文字を背負って、少しずつせり上がってくる。

 瞬く間に舞踏場のようなものができあがると、円舞曲の演奏が始まった。

「ウヒャヒャヒャ! 庶民のキミにダンスが踊れるかな? 踊れるかな? ヘラヘラヘラリン!

まあ、このボクのような選ばれし特権階級にはダンスなんて御茶の子さいさい、へそが茶を沸かすさ! ウヒャヒャヒャヒャ!」

 化鳥のような哄笑に眉をしかめる。。

 アレ公は歪んだ暗い笑みを顔中いっぱいに刻みながら、四方八方にバラを撒き散らしている。

「り、陸……ッ」

 不安げに陸の名前を呼ぶ。

 私やアレ公のすっとこどっこいのように……俗に言う金持ち連中なら、嗜みにダンスを踊れるかもしれない。

 だが、陸はこういう宴に出ること自体初めてなのに、まして踊りを踊るなどとは、何をか言わんやだ。

 軽率な自分の行動に恥じた。

 そう……陸を窮地に追い込んだのは――――ただならぬ私なのだ。

 ど、どうしよう……!

「紫苑、そんな顔するなよ」

 思いのほか言葉に力が漲っている陸の声音に、驚いて顔を上げる。

 迷惑をかけて、淫乱、痴女、アバズレとなじられてもおかしくない状況なのに……

 それなのに、顔を上げた先にはいつもの穏やかな陸の微笑があった。

「大丈夫。この曲なら……」

「さあ、未来のボクの花嫁! 荒廃した大地のひつのボクだけのオアシス! 天から遣わされたボクだけの天使! ミラクル・スーパー・ゴージャス・ガール・シィィオォォォンッ! 今日もキミは綺麗だ可憐だ、嘗め回したいッ! さあこのボクと踊ってくれ! どうよ!?」

 陸の言葉を遮って意味不明なことをほざくアレ公に、鋭い一瞥をくれてやる。

「断る」

 そう簡潔に答える。

「ゲハァァァァ!?」

 盛大にずっこける音が聞こえてきたが、無視無視。

 それよりも陸の方を振り向く。

 目の前の少年は丁寧にお辞儀をする。

 それは別人のようで、暫し瞠目する。

 そのお辞儀に見惚れていると、少年は私の右手を取り、その甲に軽く触れるくらいの口づけを落とす。

「……~~~~~~~ッッッ!!!!??」

 瞬間、湯沸し気のように私の両頬が赤く染まる。

 お、おおおおおおぬしそれはいささか反則でござらんか!?

 心の中で《とき☆めき》の弾丸が私の心臓をズギュ~ン! と射撃する。

 そう――――私の心の《とき☆めき》の導火線に火がついた瞬間だった。さながら私の心のBGMでふしぎ遊戯のED《ときめきの導火線》が流れ出す。

 私は絶叫した。


(撃たれたッッッッッッッ!)


――――何にだと? 決まっておろう!

(恋の凶弾にだッッ!)

 私はまさに今、目の前の少年に二度惚れた。

「よろしければ、今宵……刹那の間で構いません。俺の――――花となってくれませんか?」

 そっと目の前に少年の――――陸の手が差し出される。

「よ、喜んで……」

 頬を染め、恥ずかしさと嬉しさで顔を伏せながら、緊張を隠しつつ、差し出された陸の左手に、自分の右手を重ねる。

 陸は私の右に立つと、突然の変貌に戸惑う私をよそに、手慣れた仕草で舞踏場にエスコートしてくれる。

 後ろからアレ公の呪詛めいた叫び声が聞こえてくるが、アウト オブ 眼中だ。

 いつものように穏やかな微笑を湛えてくれる陸もいいのだが、少し強引で強気で、それでいてミステリアスな陸も、なかなかどうして……! 凄く魅力的だ!

 ヤバい! 惚れる!

 いや、惚れているのだけど、なおいっそうに! 留まることを知らず! 天高く舞い上がる昇竜の如く!

 だ、ダメだ!

 す、好きになる! 好きになってしまう!

 周囲に人がいなければ、陸に身体を支えられていなければ、赤い顔を両手で隠して、首をいやんいやんとして、座りこんでいたかもしれない。

 完全に腰砕けの状態だ。

 最終ラウンドのボクサーだ。

 テンカウント寸前。

 洗練された陸の動きに《心配》の二文字は消えていた。

 そして、私たちは舞台場の上に立った。


 今、乙女の時が始まる!





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