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第十八章 ナイトパーティー 中編 その1









                         《アレックス バグネット》








 シオンのドレス姿は後の楽しみにとっておくとして、先に愚鈍で浅薄なイエローモンキーの滑稽なスーツ姿を見て、ボクとの格の違いを思い知らせてやろう。

 そう考えたボクはリクの着替え用に宛がってやった部屋へと優雅に……それでいて華麗で高貴にムーンウォークで移動する。

 今のボクは歩くだけで、黄金の燐分を撒き散らす《蝶存在》だ。

 女性を失心させる程の鮮麗さと優美さを持ち合わせて、持ち合わせまくりの状態だ!

 それは当然というか、必然だ。

 そうこの、ナイスでチョベリグで、繊細かつ大胆で華麗なワンンダフォーな白のタキシードを着たボクは、この地球上で最も美しい生命体だ!

「フフ……格の違いを思い知らせてやる!」

 ボクは優美を塗り込んだ手つきで扉のノブを回す……回す……ん?

 とロックがかかっているらしく、開かない。

「ん、何だ? ロックがかかっているじゃないか……」

 このボクの入室を拒むとは!

 これがジャパンでウワサの心の障壁。ATフィールドというヤツか!

 信じられない駄目態度だ。ペケ、ワン ハンドレットだ。

 所詮は庶民だが、礼儀と言う言葉をその少ない脳のしわに、叩き込みやがれ! っという感じだ。

 だが、扉から聞こえてくる声にボクは驚愕する。

 あくまで美しく、そう――――バラを口にくわえながら……!

 両手を腰に当て、九十℃の角度で手をピンと伸ばし、脚はガニ股にガッチョーンと驚く。


『むう、アレ公のヤツか……!』

『た、助け! 助けてぇぇえええええッ!』


 防音効果の高い扉なので、何を言っているのか良く分からない。

 だが、今わかっていることは――


 ロックしている扉 → ドレスアップしたこの世界で最も美しくて気高く、それでいて……〈略〉……激抱きしめてあげたいプリチーなボクの子猫ちゃんのシオン → 糞汚い万年発情駄犬……〈略〉……お前は死ぬのがふさわしいんだよ、愚民ボーイ・リク → 密室に二人だけでいる。


――――天才は僅かこれだけの材料で、全てを把握することができる。


 ナサのスーパーコンピューターにも負けない明晰なボクの頭脳が、マキシマムな回転を生み出し、恐ろしくもハレンチな解答を高速演算する!

「シ、シオンが……ッ! ボクのシオンがあの最下級ボーイ・リクにレイプされている!?」

(なんと言うことだ!)

 恐らくドレスアップして、鼻血ブーなほどお色気たっぷりでセクシー満点のシオンの姿を見て、あの糞ジャップ・リクは辛抱堪らず、いきり立つ下半身の衝動に身を委ねて、嫌がるシオンを無理矢理部屋に引きずり込み、その柔らかな果実を彷彿とさせる妖艶な肢体を欲望の誘いに応じるように、思うがさま貪るように味わおうと……!


「ィィイイイェロォォォォォォォモンンキィィィィィィィーーーーーッッ!!」

 溢れんばかりのボクのオーラに白いスーツの上下が内から弾け飛ぶ!

 それはさながら一子相伝の暗殺格闘術を極めた世紀末覇者の如し。だがボクのオーラは留まるところを知らない。ケンシロウなどとは違い、ボクの場合、その闘気の凄まじさはズボンまで破くほどだ。

 スーツのボタンが弾け飛び、中のシャツを雄雄しく引き裂き、逆立つ金髪にエメラルドグリーンに染まった瞳は憤怒に輝く!

 あっという間にボクは白いブリーフ一丁となる。

 クールな怒りによって目覚めたゴージャス育ちの高貴人の激情が燃え上がる!

「ギルティィィィィィッ!」

 ロックされた扉を血走った双眸でギラリと睨み、凄絶な笑顔でボクはリクに有罪判決を言い渡す。

 ブリーフから愛銃の大口径のグロック19カスタム――《ゴールデン・ライオン》を取り出す。

 特殊改造されたバレッドの炸薬は、ボクのその時のオーラに感応し破壊力を増す!

「イエローモンキー! 貴様に相応しいバレットは決まった!」

 まずは一発目。

 同じくブリーフから一発目のバレッドを左手の親指と人差し指で摘むように取り出す。

 取り出したバレットをピーンと音を立てて宙に放る。

「秘められし――静かなる欲望の叫び デザイア・ヴァーミリオン!」

 ボクのオリジナル愛銃ゴールデン・ライオンに装填できるバレッドは三発。

 宙に浮いた一発目をアグレッシブに左手で掴み取り、一発目を装填。

 続けて二発目を取り出して、ピンと宙に弾く。

「限りなき――エロスへの探究 アルキメデス・バイオレット!」

 落ちてきたバレッドを掴み、二発目を装填。

 最後の三発目を取り出し、ピンと宙に弾く。

「そして――高貴なる魂の叫び ゴージャス・ゴールド!」

 流麗な弧を描くラストバレッドを掴み、装填。

 込められたバレッドはさしずめ燃料。

 このボクの愛銃ゴールデン・ライオンのカートリッジの中で高速回転。三発の炸薬が雄雄しく配合され混ぜ合わされる。

 そうさながら科学と魔術が交差する時、物語は始まるのだ!

 ドクンドクンドクンドクンと脈打つ愛銃ゴールデン・ライオン


「吠えろ――《ゴールデン・ライオン》!」


 特殊内燃機関によって一発に形成されたバレッドが扉に突き刺さり、爆破!

 粉砕、玉砕、大喝采!

 跡形もなく扉を破壊する!

 ボクは華麗なステップと前回りで爆煙の中を突っ切り、ハリウッドの俳優のように、《ゴールデン・ライオン》をピタリと構える。

 あくまで気高く、そう――バラを口にくわえながら華麗に優雅に気高く繊細に――――ブリーフ一丁で。

「フリーズ!」

 しかし瞳に映った光景は、半裸状態で半泣きのリクと、舌打ちして忌々しげにボクを睨むシオンだった……。


(一体全体どういうことだ?)



謎めく迷宮入りした事態を前に、ブリーフ一丁のボクはエレガントにクシュンとくしゃみを一つした。










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