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第一四章 《海でドッキリ急接近♪》 乱入編









                                海上のクルーザー 


                           《アレックス・バグネット》









「イ~~ッ……ィィィィエロォォォォーモンキィイイイイイイイイイーーーーーッッッ!?」

 サマーなブルースカイに、ボクの怒美声が吸い込まれてゆく。

 完全欠落生物リクは、あろうことかシオンにあんなハレンチでセクシーの上に、羞恥心煽りまくりのとんでもない薄布のようなナイスを着せよってえぇぇぇ~!?

「おのれ~、あの庶民が~!!!」

 次に下等生物のリクは、ボクのフィアンセ・シオンの身体にこともあろうか、サンオイルを塗っている!? 塗りしだいている!

 おそらく嫌がるシオンの身体を無理矢理に、無能な庶民どもに見せつけるかのように、蹂躙しているに違いない! クソッ、三流のAV男優が!

 なんという下劣で羨ましい男だ! なんという卑劣で最高な男だ! なんという破廉恥でナイスな男だ!

 あまりの驚きに南斗水鳥拳だッ!

 そもそも、そもそもだ!

「このボクでさえ、シオンの体に触れたことないのにーーーーッ!?」

 何というヤツだ!

 ボクですらキスは愚かハグもまだ。シオンの手すら握ったことないどころか、半径五m以内に入らせてもらったことがないというのにッ!

 それなのに、あのイエローモンキー・ボッキー・ポンキッキーときたら!

 ゆ、許さん。許せるわけがない!

 バラバラに刻んで豚のエサだ!

(いやいや! そんなんじゃ手ぬるいッ!)

 凄絶な感情を美しいこの美貌に浮き上がらせる。

「お尻ペンペンだッ! ペンペンしてやるッ!」

 これはボクのお父様が、お父様の大切にしていた万年筆を壊してしまった時に、ボクにした最も重いお仕置きの一つだ。

 あの時の痛かったこと……! 今でも思い出せば、涙が出てくる。

 あぁッ、お尻が……ッ、お尻が痛いよ、パパ!

 おっと、懐かしい幻痛にお尻を震わせている場合じゃない。

 今は何よりも早くシオンの元に駆けつけねば!

「エドワード、西の砂浜に全速前進だ!」

「かしこまりました、坊ちゃま」







                                  《天堂陸》






 サンオイルを塗り終わった俺は、早まったことをしたなと、今更ながら疲労に濡れたため息を零す。

(なにせ紫苑のやつ……人の股間を凝視するんだもんな)

 今、紫苑はかなり不満と不安の表情で股間を見続けてる……凝視していると言っても差し支えはない。勘弁してくれ……。

「おのれ……やはりここは《海でドッキリ急接近♪》しかないか……ッ」

 ただならぬ熱情に支えられた紫苑の独白には剣呑すぎる呟きを、決っして聞き逃さない。

「陸、海に入るぞ! 押し付けてやるぞ!」

 内心の感情ただ漏れに紫苑は叫ぶと、今にも海に引き摺りこむ勢いで俺の身体を束縛する!?

(あああー!? ヤバい、浮気現場を見つけられた夫の如くヤバい!?)

「さあ……ゆこう?」

「ちょ、ちょっと待て! じゅ、準備運動をしてからだ!」

 瞳に狂おしいものを潜ませる紫苑に本気で怯え、何とか時間稼ぎをしようと虚しい努力する。

 たとえ無駄とわかっていても、俺は生きる努力を放棄しないッッ!

「む、確かに準備運動は大切だな。仕方ないさっさと終わらせるか……」

 紫苑は激情をなんとか自制してくれると、手早く準備運動を始めた。

 紫苑が準備運動をし始めて、俺はすぐに後悔した。


 なぜかというと――――


 紫苑はかなり真面目に準備運動をしている。

 それこそ汗をうっすらとかくくらいだ。

 その……真面目にやることはいいことなんだが、いかんせん紫苑の露出度の多い水着と、そのスタイルの良さが原因だ!

 野郎ども、想像してくれ。

 半端じゃない美少女が露出度の高い水着で準備運動する様子は、紫苑自身が望もうと望むまいかかわらず、艶めかしい媚態を演じるようなものだ。グラビアアイドルのイメージ画像が目の前で展開中なのだ。

 しかも、砂浜にいる男たちのほとんどが、紫苑の身体を感嘆の声を上げながら食い入るように見入っている!?

 揺れる胸の動きの顔が上下してますよ、皆様方ッ!

 それもオジサンやら大学生、俺と一緒の高校生やら……が、我慢できるかッ!

「馬鹿! 紫苑、真面目にやりすぎだ!」

「む……フン! ふっ……フン! ん? ……何がだ?」

 無防備に胸筋の運動をしている紫苑に我慢できず、

「乳ィ揺れとんじゃあぁぁぁぁぁぁー、アホーーッ!?」

 真っ赤になりながらつっこみを入れる!

 そこで紫苑は周りの男たちの劣情溢れた視姦に気がつき、ふと何事か考える素振りを見せる。

 つーか恥ずかしくないんかいッ!?

 むしろ俺のほうが恥ずかしいわッッ! 羞恥で身悶えするわッッ!

 と、紫苑は俺の顔を下から覗き込むように見ると……

「……悩殺されたか?」

 そう――――訊いてきた。

 俺の視界には、ため息が漏れるほど整った紫苑のアップの顔と……む、胸の谷間が……

「~~ッッ!? うわああああああああああああッ!」

 即行で紫苑に背を向けて、海へと疾走する!

 股間がどうなってるなんて、知りたくもない!

 知らない! 知らないよッ! 俺はいつまでも純粋無垢な子供でいたいんだ!

 ピーターパンシンドロームに駆られた俺は海に向って、やや前屈みに全力疾走する!

「むう!? 待つのだッ! 陸どこへ行く!」

 追って来る紫苑の気配を背中で感じつつ、俺は海に飛び込む!

「逃すか!」

 すぐさま獲物を追うヒョウが如く、海に飛び込んでくる紫苑の気配と波音。

「フフフ! 陸、逃げられると思うなよ! この両生類式緑生物泳法で紫苑ちゃんの虜にしてくれるわ!」

「のわあああああああああああッ!?」

 すぐそこまで迫り来る紫苑に悲鳴を上げる。

 こ、この状態で紫苑にワケのわからん作戦で抱きつかれたら!? 俺は!?


 顔を引き攣らせる俺!

 確信の笑みを浮かべる紫苑!


(捕まる!?)

 と、その瞬間、紫苑がゆっくりと海に沈んでゆく……

「は?」

 戸惑いに振りかえる俺とは違い、紫苑は悲鳴だ。

「ぐああああぁぁぁぁーーーッ!? ゲバゲボゴバガボ、あ、足がつったでござるぅぅ~~ッ! お、おぼれるうぅぅ~!?」

 どうやら紫苑は、俺を捕まえるその寸前で足が吊ったらしい。ま、マジかよッ!

「な、なんでやねん!? お前ちゃんと準備運動したやろーーッ!」

 気が付けば、安堵を覚えるより先につっこんでいた。

 い、嫌すぎる。こんな時でも反応する自身のつっこみの本能……これが関西人の血に流れる業というものか?

 けれどそんなつっこみをしてる場合ではないと気が付いた俺は、すぐさま紫苑に泳ぎ寄り、紫苑を抱えて砂浜まで上がる。

「ぐ……ゴホッゴホッ……」

 俺も泳げるが、人並みに泳げる程度なので、紫苑を助ける際にかなりの海水を飲んでしまった。

(まあ……紫苑よりはマシだけどな……)

「ううう~……げ、ゲロゲロでござるぅ~……」

 気分悪そうな表情の紫苑を、お姫様抱っこをして、海と母さんのいるパラソルへ戻る。

「……陸ぅ~」

 しんどそうな口調で、息も絶え絶えに語りかけてきた紫苑に注意を向ける。

「どうした?」

 苦しいのかな? と不安になる。

 が、


「これで……陸の貸し一つだな……」


 ……

 …………

 ……………………は?

「そ、それは俺のセリフだ!」

 想像していることとは全く違うことを言われ、今更だが、頭が痛くなってくる。

「ふふふ、な、ないすぅつっ、こみだぁ……うぐふっ!?」

 しんどい思いまでしてボケるとこか!?

 なんていうか恩を仇で返された時は、こんな気分なのだろうか?

 というかまさに、今それか!

(まあ、ようやく一難去ったかな……)

 そう安堵のため息を吐き出した瞬間!

「キャアアアアアアアァァァァァー、な、何!?」

「うををををををおお!?」

「突っ込んでくるぞ!?」

 人々の悲鳴が轟き、驚いて後ろを振り向く。

 そして顎が外れそうなほど口を開ける。

 クルーザーが突っ込んできていた!

 海を真っ二つに割るが如く凄まじいスピード。跳ね飛ぶ水飛沫はまるで弾丸。呆けてる場合じゃないぞ! 真っ直ぐに俺たちのほうにに向かってきやがるでありませんか!?

「な、何だあぁぁッ!?」

 俺の疑問に答えるかのように、クルーザーの甲板の上にいる金髪の青年が拡張器越しに答えてくる。

「私のゴージャス・ハイパー・スイート・ハニー・シオンからその汚らわしい手を離したまえ! そこの無品性の下々の一般ピープル以下のイエローモンキー・蛆虫太郎・豚のエサがッ! すぐさま離さないと貴様ら下種で下衆な下郎どものファミリーは、そろいもそろって、ファッキンだ! ジャーップめ! 判りやすく言うなら、お尻ペンペンだーーーッ!」

 ハンサムな容貌を、妻を取られた嫉妬深い夫のように歪めに歪めまくって、金髪の青年は怨嗟の咆哮をあげる。

……半径二〇〇メートル以内の者なら誰でも聞こえそうな大音量。

 あまつさえクルーザーは砂浜に突っこんできて、優に一〇メートルくらい砂浜に暴虐の跡を残す!

「し、知り合いか紫苑?」

 できれば人違いで会って欲しいと痛切に思ったが、


「……いや。あいつは私の……その……………………婚約者だ」


 素晴らしき、お約束。あ、やっぱり知り合いなのデスね。

 俺は眩暈を感じ…………停止する。

 憮然としながらも、紫苑の台詞にある一つの単語に心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。

 スー……と。

 真夏なのに暑さを感じず、心が酷く無感動になる。

 いや――――心は焼け付くくらい熱いのに、頭は冷水でも浴びたかのように冷静だ。

 嫌なくらい……冷静だ……

 紫苑は言った……


『……いや。あいつは私の……その……………………《婚約者》だ』


 と。

 そしてなにかが……俺の中で悲鳴を上げた……










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