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第十三章 《海でドッキリ急接近♪》 始動編







                             《天堂陸》




 俺と海は海水浴場の着替え場を利用するのはめんどくさいので、下に水着を穿いてきた。

 したがって、紫苑と母さんの女性陣は着替えに、俺たち男性陣は場所取りに砂浜へと急いだ。

 俺はウォータークーラーと食物などが入ったバッグを持ち、海はパラソルや浮き輪、そして海お気に入りの《コバンザメ君GP01》と命名された浮き袋の一種を担いでいる。

 すでに砂浜は、先に海水浴に来た人々のパラソルで埋まっている。

 なんとかちょうど良い場所を確保すると、他の人に取られないうちにさっさとパラソルを砂場に打ち込む作業を開始する。

 クーラーのきいた車内とは違い、砂浜は焼けるようなという表現がふさわしい暑さだ。流れ落ちる汗がTシャツに吸い取られてゆく。

「ふー、暑いな……」

 青く輝く海へと視線を移す。

 刹那、海の匂いを含んだ風が頬をかすめて吹き抜けていく。

「フフフ……」

 目を細めて視線を海に向けていた俺は、海の不気味な笑い声に動きを止める。

「……何だよ? その闇の属性にこれでもかーってくらいに入り込んだ笑いは?」

「フ、紫苑ちゃんの水着は凄いぞ~。なにせこの俺が選んだんだからな!」

 踏ん反り返る海。

 両腕を組み、瞳は自信満々の光を放っている。

「それなんだがな……白いビキニってのは――どう言うことだ?」

「ん? なんだ陸、聞こえてたのか?」

 そりゃ、あれだけでかい声を出せばな。

 咎めるような俺の視線などどこふく風という具合に、海は高笑いをして肩をバシバシ叩いてくる。……関西のオバさんか、おのれは?

「大丈夫、大丈夫! 悩殺悩殺! 股間が暴れん坊将軍さ! 今日こそ陸は男子から漢だな!」

 何でこんなに不安になる台詞をはくんだ、コイツは?

 そもそもなんつー下品なことを平気で言えるんだろうか?

 本当に俺の血族か?

 なまじ一卵性双生児で顔はもちろん海と似ている。雰囲気や声までそっくりなので、まるで海が言っていることが、自分が喋っているような気になる。

「やれやれだな……」

 これからおそらく絶対確実に待ち受けるであろう展開に頭を抱えた……。











                                    《綾崎紫苑》








「全く、やれやれだな」

 先程のナンパの嵐にため息を吐く。

「まあ、仕方ないさ。紫苑ちゃん可愛いし、スタイルもいいから、男たちはここぞとばかりにナンパしてくるさ」

 海殿はそう言うが、陸以外の男たちに言い寄られても全然意味がない。

 というかうざいだけだ。

「まあ、ナンパの件はさて置き……頑張れよ、紫苑ちゃん!」

「うむ。全力で陸を落とーすッ!」

 右拳を握り締め、雄大な青空を仰ぎ見る!

「この青空に私は宣言する。陸は私のモノだッ!」

「勝手に人を私物化するんじゃありません」

 ナンパ男達に手を振っている空音殿を引きずって、陸は半眼で呟く。

「む、陸」

 ちなみに私に群がっていたナンパ男たちを追い払ったのは陸だ。

「おつかれ~」

 陸のほうを振り向くと、ほぼ同時に海殿が、陸にねぎらいをかけに行く。

「しかし、母さんもやるな~。何人からナンパされたの?」

「テヘ♪ 六人よ~」

「おお~、六人切りかー……」

 海殿は感嘆のため息を吐き出す。

 陸は何かに耐えるかのような、そんな表情をしていた。

 しかし顔はそっくりだが、どこまでも対照的な二人でござるなぁ……

「もちろん、ケータイの番号もゲットよ~」

「おお~、抜かりなしー」

 海殿と空音殿は、そろって右の親指をビシッと立てる。

 次の瞬間!

「あんた人妻やろーーーーッ!?」

 陸のパパ殿に代わって、陸は空音殿につっこみを入れる。

「あ~……ああ、うん。うんうん。そうだったわね~」

「そ、そうだったわね? な、何や、それは!? 忘れてたってことか!?」

 今ようやく己が人妻だということに気が付いた素振りを見せる空音殿に、陸は半泣きつっこみを入れる。

「大丈夫、大丈夫~。私、啓太さんの事ラヴだから~」

 右の親指を再度ビシッと立てる空音殿に、陸は絶叫する。

「父さんの名は、大地だーーーーッ!! そもそも啓太って、母さんがナンパされた時に貰ったケータイの持ち主の名前やんけーーッ!?」

「……テヘ~☆」

「……何でかな? 俺、涙が出てくるよ……」

 陸は諦めたかのように――――いや、諦めてパラソルの方に空音殿達と一緒に戻って来る。

 つまり、私のいる所へやってくるということだ。

 うまくやりなよと、海殿が陸に分からないようにサインを送ってくる。

(よし! 女は度胸でござる!)

 私は腹を決めると、過去グラビア雑誌とやらで見たモデルのポーズを脳裏に思い浮かべる。水着姿の女性モデルのポーズ――――通称女豹のポーズを真似て、陸に聞いてみる。

「どうだ陸? ……この水着……似合うか?」











                              《天堂陸》







 正直、ピンチだった。いや大ピンチ。

 巨大隕石が地球に落ちると分かった時に浮かべる天文学者の如しだ。

 だいたいにしても、俺の想像よりも遥かに露出度が――――凄まじい。反則だ。イエローカードどころの話ではない。真っ赤だ。血まみれだ。ブラッディカードだ。

 紫苑の着ている白のビキニはほとんど胸と股間の最重要な部分しか隠していない。

 動くだけで、これヤバすぎないか?

 何と言うか、ウルトラマンで言うなら胸のカラータイマーが激しくピコンピコン鳴っている状態だ。

「どうなのだ? ムラムラくるか?」

 紫苑の問い掛けるような視線に、俺は追い詰められたかのように口を開く。

「ああ、その…………ちょ、ちょっと露出度高いけど……」

「終わったあぁぁぁぁ……ッッ!」

 いいんじゃないかと言おうとするよりも早く、紫苑の絶望的な嘆きに遮られる。

 まるで紫苑は敗戦した事実を、天皇陛下から聞かされた日本国民のようにガックリと砂浜に膝をつく。

 あまりの紫苑の憔悴ぶりにかなり動揺してしまう。

「いや、違うって! 似合ってるよ! ホント、マジだって!」

 慌ててそう紫苑に言うものの、

「……でも陸はこの水着、露出度高くて気に入らないんだろう?」

 紫苑は自虐的な笑みを浮かべる。

「フ……こんな薄布を纏う淫乱女など、糞尿まみれの公衆便所に落ちたトイレットペーパー並みに、どうでもいいと言うことか。フフ……涙が零れてきやがる」

「そ、それは確かにどうでもいいが」


(なんでやねぇぇぇぇぇぇん!?)


 俺は俺で心で絶叫している。ホント、俺の胸が張り裂けそうだ!!

「陸……」

「陸ちゃん……」

 海と母さんが、罪悪感を煽る口調と声音で俺の名を呼ぶ。

「な、なんですか……!」

 そもそも、俺はそんな紫苑を傷つけるようなことをしたのか!?

(だが、とりあえずフォローだ!)

 即実行ーッ!

「違うんだ、紫苑!」

「……何がだ?」

 虚ろな視線を向ける紫苑に必死で説得する。

「さっきは、そのちょっと恥ずかっただけなんだ。その露出度高いからさ……」

 そこで、俺は言葉を切ると……

「だから……その水着、似合ってる。……可愛いと思うよ」

 おそらく赤くなっている頬を気がつかないふりをする。頭の上にまで湧き上がってくる羞恥をなんとか抑え込むことに成功した。

「……本当か?」

「ああ……」

 視線を落としながらも、しっかりと答える。

「では……キスしたいくらい可愛いか?」

「ハアッ!?」

 強烈で突然な紫苑の問いに俺の声は裏返る。

 紫苑は俺のリアクションに半眼を持って応じると、ため息を吐き出す。

「やっぱり口からでまかせということか……。あーあ、私は今とても三角座りをしながら、ドナドナを歌いたい気分でござる」

(俺もだよ!!)

「陸……」

「陸ちゃん……」

 海と母さんが、罪悪感を煽る口調と声音で、再度俺の名を呼ぶ。

 ちくしょー、てやんでぃ、バーローッ!(泣)

 その時紫苑の方から何か、カチリと音がして、俺は紫苑を見る。

「ドナドナ、ド~ナ、ドナ~」

 人でも呪えそうな紫苑の歌声に俺は、あえなく撃沈。

「キスしたいくらい、可愛いよッ!」

 チラリと紫苑は探るような視線を俺に向ける。

 こ、これでやっと俺は自由だ! 大空を飛び回る鳥なんだ!

「では――――押し倒したいくらい……可愛いということだな?」

 思考が止められる。心臓すらも……

「陸……」

「陸ちゃん……」

 海と母さんが、羞恥心を破壊する口調と声音で、俺を脅迫する。

 今ここで、引けばさらに状態は悪化することまちがいなしだ。

 かといって、進んでも目の前には破滅しかない。

 悲しいが、それが現実さ……

「押し倒したいよーーーッ!」

「誰をだ?」

「うぐっ……!」

 冷静な紫苑の問いかけに歯噛みする。

 もう売り言葉に買い言葉だ。とことんやったらーーー!

 両目を閉じながら、自身の最大音量で叫ぶ。

「紫苑のこと、押し倒したいくらいに可愛いよッッ!!!」


 カチリ。


 さっきも聞こえた何かスイッチ音に目を開けると――――そこにはiPhoneで俺のシャウトを録音している紫苑の姿があった。

 その光景を見て、俺は慄然を顔面に走らせる。

 悪魔と契約しちゃった時ってこんな気分?

「よし! 既成事実二つゲットでござる♪」

 iPhoneを頬に寄せ、大切そうに抱える紫苑を見てかすれ声で呟く。

「何か……俺、またまた騙されてないか?」

「いや、気のせいだ。どうでもいいことを考えている時くらいどうでもいいぞ」

「それは確かにどうでもいいが……」

 釈然とせずに首を捻る。

(うう……仕方ないか……)

 ここで変につっこんでも、無駄にダルくなるだけだからな……

 そう自分を納得させる。

 そうでもないと生きていけない。こんな嘘と裏切りと偽りで塗り固められた世界で生きていくにはさ……

「そんなことよりも……」

 紫苑は手元のバックをゴソゴソとあさる。

 つーか、《そんなこと》で片付けられてしまうことで、俺はあんなに慌てていたのか!?

 疲労感が両肩にのしかかってきた。

「さぁ陸、サンオイルを塗りたくってくれ!」

 デパートで買ったらしいサンオイルを突き出して、紫苑は脅迫に近い懇願してくる。

 だが海が言っていた色気とやらは、どうも紫苑は忘れているらしいな。

「紫苑ちゃん、色気は!?」

 怒り半分悲しさ半分の海の声に、紫苑はビクリと雷にうたれた時の如く、体を硬直させる。表情は『抜かったーッ!?』と叫んでる時にそっくりだ。

(つーか、年頃の娘が目を見開きながら、大口を空けたまま硬直するなよ……)

 けど、このまま放っておくわけにもいかないので、紫苑の名を呼んでみる。

「紫苑?」

「あ、う……ぬう?」

 うめき声を上げて、なんとかしようと必死に考えている紫苑を見ていると、つい笑みを

こぼしてしまう。

 強引で直情的。決めたら迷わないその行動力。そんな彼女だから、こういう時に放っておけない。

 紫苑の持っているサンオイルを手に取る。

「俺でよかったら、塗ってやるよ」

 驚いた顔をする紫苑に、照れくさいけどそう言った。





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