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第九章 アレックス・バグネット







                         《アレックス・バグネット》




                               バグネット邸宅





 ボクの名前はアレックス・バグネット。

 世界的に有名な複合大企業にてバグネット財閥の長男にして後継者であり、美貌と知性を兼ね備えた

究極生命体だ。

(ああっ……ボクは美しい!)

 絨毯の上でスピンを舞う。そう、美しい白鳥(キグナス)のように。

 星々も割れんばかりの拍手でボクを称えてくれるだろう。それアンコールアンコール!

(ああ、ボクは完璧だ!)

 ボクのハートはウキウキのしゃかりき。

 このハートの熱さは意識しなくても高まり、狂ったようにボクはタップを踏み鳴らす。

 それは某国の農民のケチャと言う踊りを思わす激しさだ。オゥ、イエェーッ、ケチャ! モンキィーダァンスッ!

(ああ、ボクは素晴らしい!)

 パーフェクトなボクには、愛しい婚約者がいる。

 名前はシオン・アヤサキ。

 その美しさは女神だ。天使だ。小悪魔的プリティーだ。

 抑えきれない下半身の衝動に狂いそうだ! 

 下半身が好きだと自己主張、もう止められないッ!

「ハッハ~ン!」

 胸元から取り出したクシで優雅な金髪のマイヘアーをアグレッシブかつ繊細に整える。

 神が奏でる奇跡は、やがてボクの髪に降りるだろう。

 カリスマ美容師などボクの前では一セントの値打ちもない。

 そうゴッド美容師のボクの目の前では、な!

(ああっ、ボクは何て素敵なんだ!)

 純白のスーツを身に纏い、情熱の紅のネクタイを締めて、バラを口にすれば…………ほら完璧。



――ボクは美の集結体となる!



 輝かしいオーラに、全てを兼ね備え、美男子で、紳士で、資産家で、高貴で、万能で、マーベラスかつエクセレントでエリートなこのボクにもなかなか手に入らない存在が、たった一つだけある。

 それが、シオンだ。

「わかってるさ子猫ちゃん。照れて、そしてボクの素晴らしさに、ためらいを覚えてるんだね? 心配しなくていいよ。ベッドでは優しく闘争行為がボクのモットーだからね。愛の聖騎士と呼ばれたこのボクが、燃え上がるラヴでメロメロさ、ウヒ」

 愛しい婚約者に熱いラヴを加速させる。

 マシンガンの如くラヴの弾丸をキミに全弾命中させてあげる所存さ。

 そしてゆくゆくはキミをボクの愛の奴隷にしてあげる☆

「おっと、そういえばシオンから手紙がきていたな」

 ボクは机の上に置いた手紙を開けてみる。

 きっと溢れんばかりのラヴが詰まっているに違いない。

 まったくもうプリティーなのだから! 切ない想いでボクが欲しくて、体が夜鳴きしているに違いない。全く、ビバ十八禁行為だ。ウホ!

「えーと、何々……」



『婚約破棄内容


 どこぞの資産家アレックス・バグネット。

 単刀直入に言うが、婚約破棄だ。そもそもアレ公、私はあまりお前が好きでない。

 婚約も私のお爺様とお前の父上が決めた問題だ。そんな婚約承諾することはできん。

 もう一度言う。婚約破棄だ。

 私は日本に住む天堂陸と言う幼馴染のことが好きなのだ。

 故に、お主とは婚約はおろか結婚などしたくはないと言うことだ。

 まぁ、そんなわけだからさらばだ!





          お前のことなどまったく愛していない 綾崎紫苑より






                         PS・むしろ地獄に堕ちろ』



「オゥ、ジィィィィイイイザァァァァァアアアアアアアースッッッ!?」

 自室のベッドのような柔らかさを持つ高級絨毯の上に両膝を付いて叫び声を上げる。

 い、一体何!? 何コレ!? 夢? 幻覚!? 嘘か真は夢うつつか!?

 その驚きたるやノブナガ・オダがミツヒデ・アケチに謀反を起こされた時の如し。ランマルはどこですか!?

 高潔にして気高く、美しい。おおよそ完璧を兼ね備えたボクには、この醜態あってはならないことだ。

 だが、今回ばかりは仕方が無い。例外的措置。不可抗力というものだ。

「Why my angelッ!?」

 この文面から察するにボクの許から婚約者であるシオン・アヤサキが日本へと行方を絶ってしまったということになる!

 当然、彼女の親族の方はもちろん、婚約者であるボクにも今の今までシークレットでだ!

 何とガッデムなのだ! ガッデムフォーエバーだ!

 こんなことが許されていいのか!? いや許されない。

「エドワード!」

 我がバグネット家に代々仕えてくれるこの道四十年のベテランの執事を呼び出す。

「はい、坊ちゃま」

「このジャップのリクと言うこのワールドで最も劣ったイエローモンキーのことを調べてくれ! あと写真も欲しい!」

「すでに用意しております」

 優秀なエドワードはすでにリクとやらの写真を用意しており、ボクに手渡してくる。

 書類には、ボクから愛しい恋人を奪った憎々しい少年の写真がある。

 こいつがリク・テンドウ! 

「ふぅ~~む……」

 庶民にしては美男かもしれないが、男らしさの見えない顔つきだ。

 パッと見て女の子と間違うような女々しいベビーフェイス。

 所詮このボクの美貌と比べれば、王と奴隷。天と地。ダイヤモンドと石程の差がある。

「オゥ、シィィーット! イエロージャァップッ!」

 書類を空中に投げ出すと、ボクは胸元の拳銃を抜き様、絨毯に落ちる前に書類の写真へと乱射する。


 ズキューン、ズキューン、ズキューン!


 主のボクに代わって鋼の怒号を上げ、突き刺さる弾丸が写真のリクを撃ち抜く!

 穴だらけになって足元に落ちてきた写真をさらに踏みつけ、踏みにじり、踏み潰してやる! フハハハッハ! こうだ! こうしてこうやってこうしてくれるわッ!

「オゥ、サノバビッーチッ、ファッキン、メン!」

 一体、この男はななな、な何のつもりだ!? たかが庶民の分際で、このボクの婚約者に手を出すとは……!

神をも恐れぬ大胆不敵で厚顔無恥! ハレンチ満開、サムライ、フジヤマ、スシ、ゲイシャ!

「おのれぇええええええ~ッ! しょ、庶民の分際でっ、このリッチ・プリンス・アレックス様に盾突くとは!」

 おそらくリクは言葉巧みにシオンをそそのかしたに違いない!

 いやもしかするとシオンはリクにエッチな弱みを握られていて無理矢理従わされているに違いない! 

 なんて狡猾で陰湿でうらやましいやつなんだ! ある意味尊敬する!

 しかし、さすがボク! 灰色の脳細胞は今日も冴えまくっていて、最高にぃハイってやつだ!

 乱れた髪を胸元から取り出したクシで丁寧に整える。

 紳士たるもの常に身だしなみには注意を払わなければならない。

 そもそもボクとシオンとの出会いは運命的なものだった。思えばボクたちの幸せはあそこから始まったのだ……。



 とあるパーティー会場で、ボクはシオンと出逢った。

 我がアメリカの白人女性に無い繊細で可憐な容姿は、一目でボクを釘付けにしてイチコロにした。

 そう……さながらゴキブリホイホイのゴキブリのように……。

 ダイヤモンドにも負けない輝きを放つ神秘的な黒瞳に見つめられた瞬間、ボクの背筋にビリビリと1.2ジゴワットの電流が走った。

 一目で確信したね、これは神がボクに遣わしてくださった女神だと。

 美しさを塗り込めた鼻筋のラインに、少女の清楚さと女性のセクシーさを兼ね備えた形の良い唇……毎日毎晩あの唇が夢に出る。あぁ……っ。

 ボクにあの唇を独り占めさせてくれないだろうか?

 そして明るいオレンジのカラーの、それこそ無意識に手を伸ばしてしまうサラサラのショートカットの髪は同じ量の黄金の価値がある。いや、それ以上だ!

 さらに、目を奪うような深紅のドレスに身を包んだシオンは、十六歳とは思えない均整のとれたモデル並のスタイルをしていた。ムラムラバディにハラショーロシアだ!

 あの胸を鷲掴みたい! 収穫祭だ! サンバのリズムでドンドコドン!

 まさにボクの生涯の伴侶とするのに相応しい女性だ! 夜のパートナーだ!

 そう! 彼女には美しいボクこそが相応しいッ!


 決っして――


「――あのどうしょうもない程の庶民で下賎の生まれの極貧家庭で、ろくな情操教育を受けておらず、無教養の非常識な最下級の者にはシオンは全く似合わない!」

 そう!! この高貴で気高いボクこそが、シオンを幸福絶頂に導けるのであり、間違ってもあの少年ではない。

 絶対、ない。断じて、ない! マジありえない!

 そう!!! この神が設計し、神すらをも越えてしまった無敵完璧超人アレックスの前に立ち塞がっていいものは何人たりとも存在しない。

 いや、してはいけないのだ!

「きた! きたぁっ、きたきたきたああぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 ボクのインスピレーションが囁く。

 すばらしいイックがボクの口から奏でる寸前のこの昂奮が全身に駆け巡る!

「カッコイイ あぁ超絶美形が 滴り落ちる。五・七・五」

 ボクは全季節いつでも美しいから、それが即ち季語!

「さすがでございます、坊ちゃま」

「ふふふ、よせエドワード。照れるじゃないか」

 よぉーーしみなぎってきた!

 こうしてはいられない! 彼女にとって誰が相応しいか……リクに教えてやらねばならないだろう!

「エドワード!」

 近くに控えていたエドワードに鋭い視線を向ける。

「はい、坊ちゃま」

 ずいと一歩エドワードは前に出て、慇懃な態度で一礼する。

「エドワード、ボクはシオンに会いにすぐさま日本に行く。出国の準備と自家用のジェット機の用意を頼む」

「かしこまりました」

 エドワードはもう一度慇懃に礼をして、静かに退室する。

 広い部屋にはボクがただ独り……

「待っていておくれ……愛しのスイート・エンジェル・シオン! ボクの花嫁。すぐに超カッコイイボクが迎えに行くからね……」

 夜に輝く月を見上げながら呟いた。






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