闇バイト試験会場
俺、霊能力とか無いんですよ。
マジで、そーゆーの全然無いんで。
だからアレは見間違いだったと思うんですよ。うん、見間違い聞き間違いです。……それでもいいって言うんなら話しますけど。
えっと、あの日俺、部活の帰りだったんです。
通学路の路地をちょっと入ったところに小さな祠があって、試合近いからお参りしとこうかなって、角を曲がったのが間違いだったと思うんです。
だってアイツがいたんです。
アイツは同中で、でも同級生でも先輩後輩でもなくて、んん? 先輩にはなるのかな? OB?
俺が入学する前に卒業したヤツなんです。
でも噂は聞いてました。遊びで暴力振るうヤツだって。なんか学校いたときに、猫の親子を蹴り殺したことがあるんだって。
顔を知ってたのは、部活の先輩が近寄るなよって教えてくれてたからです。
そんで……ヤバイなって思いました。
そんとき、すぐ逃げれば良かったんですよね。だけど目が離せなくなっちゃって。
アイツ、祠を壊してたんです。
だれかと話しながら、嬉しそうに。
フツー祠壊します? 俺も警察にでも電話すれば良かったんだけど、体が震えちゃって。
だってね、アイツが祠を壊すごとに黒いモヤみたいなのが出てくるんです。
離れた位置にいる俺ですら、その黒くて細長いモヤから威圧みたいなのを感じてたのに、アイツ全然楽しそうに祠壊してモヤに絡みつかれてたんです!
……あー、えっと違います。それは見間違いです。あんなの現実なわけないし、俺、霊能力とかなんも無いから妙なものが見えるはずないし。
見間違いでもいい? とにかくそのとき見たと思うことを話してくれ?
んー……はい。
そのときのアイツ、闇バイトの試験中みたいでした。
え? いきなり話が飛んだ?
ああ、そうですね。
アイツ祠を壊しながら、ずっと大声で話してたんですよ。手に持ったものに向かって。その話の相手が闇バイトの雇い主だったみたいなんです。
──壊してるッスよ。ジジババなんか、この祠よりも簡単に壊せるッスよ。マジで大金が手に入るんスよね?
とかなんとか言いながら、ずっと祠を壊してました。
さっきも言ったけど、祠を壊すごとに黒いモヤが出てきてアイツに絡みついてました。
なんていうか、モヤなんですよ。実体の無い……あ、いやモヤって水蒸気なんだっけ? とにかく掴んだり掴まれたりするようなもんじゃないですよね?
なのにそのモヤはアイツに絡みついて、こう、締め付けたり、水分を吸収したりしてたみたいなんです。
アイツの皮膚がカサカサの鱗みたいになっていくのがモヤ越しに見えました。
黒いモヤは半透明? だったんです。だから透けて見える鱗状の皮膚がモヤのもののようにも見えて、蛇とか……竜みたいな……俺、全然霊能力とか無いですけどね!
見てる俺はビビってるのに、アイツは全然平気な感じで。
つっても皮膚が鱗状に見えるほど水分無くなってて平気なわけないですよね。
気がつくとなにも持ってなかったほうのアイツの腕はだらんとぶら下がってて、蹴りの高さも低くなってました。祠はもうボロボロになってて、最後には地面に転がった破片を踏み潰してたと思います。
最後にアイツは叫びました。
──ねえ! これで合格ッスよね!
そのころにはもうアイツは全身が黒いモヤに覆われていて、人間なのかすらよくわかんない状態になってました。
あ、ううん。そう見えたってだけです。
きっと俺疲れてたんです。部活の帰りだったし、目の前で暴力行為見るのなんて初めてだったし。
そうだ! きっとアレ祠に溜まってた埃だったんですよ!
うん、そうだ。それが壊されたことで舞い上がって、アイツに纏わりついてただけなんですよ。
なーんだ。そうだよな、俺、霊能力なんか無いもん。
あ、ごめんなさい。
えっと、それで、叫んだアイツは倒れちゃいました。
倒れてそのまま動かなくなったので、俺、慌てて電話したんです。警察と救急車両方にしました。
倒れたショックで纏わりついてた埃が落ちたみたいで、アイツはもう黒いモヤに覆われてませんでした。
でも皮膚は乾燥して鱗状になったままで……祠を壊したときに木の破片とかが飛んで、肌が擦り傷でいっぱいになってただけだと思います。
電話をかけてたら、アイツが手に持ってたものが俺のところまで転がって来ました。
最初はスマホだと思ったんです。
四角かったし、アイツずっとそれに話しかけてたし。
だけどそれ、かまぼこ板だったんです。アイツ、最初からおかしかったんですね。熱中症だったのかな、俺も気をつけないと。
それだけ……うん、それだけです。
かまぼこ板からニャーニャー鳴いてる声が聞こえたような気がしたのは、ただの聞き間違いです。
だって俺、霊能力とか無いんですから。
<終>




