第9話:「断罪の祭壇に、生首は微笑む」
運命の正午。大聖堂前広場には、王族の権威回復のため、そして「悪役令嬢の怨霊」を鎮めるため、数万の民衆が集められていた。厳粛な空気の中、偽聖女マリアによる浄化の祈りが始まろうとしていた。
雲ひとつない晴天。大聖堂前の巨大な石造りの祭壇には、着飾った第一王子ルードヴィヒと、純白の聖女服に身を包んだマリアが立っていた。
広場を埋め尽くす民衆は、固唾を飲んで彼らを見守っている。
「民よ、恐れることはない! 私と聖女マリアが、この地に巣食う邪悪な怨念を祓い、再び王国に安寧をもたらそう!」
ルードヴィヒが高らかに宣言し、割れんばかりの拍手が起きる。
完璧な演劇だ。これで王家の支持率は回復する。ルードヴィヒがほくそ笑む横で、マリアがしずしずと祭壇の中央へ進み出た。
「……哀れな魂に、女神様の慈悲がありますように」
マリアが嘘泣きしながら、祈りを捧げるために祭壇に置かれた聖杯へと手を伸ばす。
その時だった。
「あら。マリアさん、涙の流し方が少し雑ではなくて? 前はもっと上手でしたのに」
「え?」
マリアの動きが止まる。
聞き覚えのある、凛とした冷たい声。
声は、目の前の「祭壇の上」から聞こえた。
マリアがおそるおそる視線を下ろすと——聖杯の横に、見覚えのある美しい銀髪の『生首』が、ちょこんと鎮座していたのだ。
「ひっ、いぃぃぃぃっ!?」
マリアの喉から、聖女らしからぬ悲鳴が漏れた。
尻餅をついて後ずさる彼女を見て、広場がざわめき始める。
「マ、マリア!? どうしたんだ、儀式の最中に!」
駆け寄ってきたルードヴィヒもまた、祭壇の上の「それ」を見て凍りついた。
「な、な、な……ヴィルヘルミナ、の首!? ば、馬鹿な、なぜここに!」
祭壇の上の生首——ヴィルヘルミナは、蒼い瞳で二人を見上げ、優雅に微笑んだ。
「ごきげんよう、殿下。私の『葬儀』に招いていただき、光栄ですわ。特等席で拝見しようと思いまして、先に『首だけ』お邪魔しましたの」
「ひぃっ、お、お祓い! 早くこの悪霊を祓え!」
ルードヴィヒが錯乱して近衛騎士たちに叫ぶ。
だが、ヴィルヘルミナの生首は、クスクスと楽しげに笑うだけだ。
「ふふっ、慌てないでくださいませ。主役は遅れて登場するものですわ。……ねえ、ギロチンさん?」
彼女が空を見上げた、次の瞬間。
ヒュォォォォォォォッ!!
上空から、空気を切り裂く凄まじい落下音が響き渡った。
民衆が悲鳴を上げて空を見上げると、太陽の光を遮る「巨大な影」が、一直線に祭壇に向かって落ちてくるのが見えた。
「え——」
ルードヴィヒが間抜けな声を上げた直後。
ズドォォォォォォォォォォンッ!!!
数トンの質量と化した超重量のギロチンの刃が、祭壇のど真ん中に突き刺さった。
爆発のような衝撃波が広がり、石造りの祭壇は粉々に砕け散り、土煙が舞い上がる。
ルードヴィヒとマリアは衝撃で無様に吹き飛ばされ、地面を転がった。
「ごほっ、がはっ……な、なんだ!? 何が起きた!?」
ルードヴィヒが瓦礫の中で顔を上げると、土煙が風に流され、その中心に立つ影が露わになった。
砕け散った祭壇の残骸の中。
血に染まったドレスを着た『首なしの胴体』が、巨大なギロチンの柄を片手で握りしめ、凛と立っていた。
そして、その足元の瓦礫の上には、傷ひとつないヴィルヘルミナの生首が、変わらぬ微笑みを浮かべていた。
「さあ、皆様。楽しい断罪劇の時間ですわ」
数万の民衆が見守る前で、処刑されたはずの悪役令嬢が、王家への反逆の狼煙を上げた瞬間だった。
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祭壇に生首が置いてあるホラー展開からの、超質量ギロチン落下による物理粉砕。これぞヴィルヘルミナ流の「挨拶」です。
ついに公の場で牙を剥いた二人。ここから怒涛の「ざまぁ」本番が始まります!
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