第8話:「偽りの浄化式典と、最高の招待状」
資金源を絶たれ、悪評に追い詰められた第一王子ルードヴィヒは、起死回生の一手を打つ。それは、民衆の不安を拭い去り、自身の権威を回復するための大規模な「聖女による浄化式典」の開催だった。
王都中に、王宮からの触れが回った。
『明日正午、大聖堂前広場にて、聖女マリア様による大規模な浄化式典を執り行う』
名目は、最近王都を騒がせている「悪役令嬢の怨霊騒ぎ」を鎮めるため。
だが、その真の目的は、聖女の奇跡を民衆に見せつけ、地に落ちかけた王家の権威を回復させるための政治的パフォーマンスだった。
スラム街の薄暗い工房で、その知らせを聞いたヴィルヘルミナの生首は、これ以上ないほど優雅に微笑んだ。
「あら。私のために、これほど盛大な『葬儀』を用意してくださるなんて。ルードヴィヒ殿下も、マリアさんも、律儀な方々ですこと」
彼女の膝の上に置かれた生首が、クスクスと楽しげに笑う。その様子に、情報屋のザハは部屋の隅で震え上がっていた。
(おいおい、完全に罠だぞ。お前をおびき寄せて、近衛騎士団の総力で叩き潰す気だ)
俺が念話で忠告するが、ヴィルヘルミナの胴体は、壁に立てかけた俺の刃を愛おしそうに撫でるだけだ。
「ええ、存じておりますわ。彼らは、私がノコノコと現れるのを待っている。……でしたら、期待に応えて差し上げませんと」
彼女の声には、一点の曇りもない狂気が宿っていた。
彼女は、自分を罠に嵌めようとする敵の思考すらも、復讐のための舞台装置としか見ていないのだ。
「最高の舞台ではありませんか。王族、貴族、そして多くの民衆が集まる大舞台。これほど、私の『無実』と彼らの『罪』を証明するのに相応しい場所はありませんわ」
(……ハッ。証明するって、どうやってだ? 弁明でもする気か?)
「まさか。言葉で語るなど無粋ですわ。……ねえ、ギロチンさん。あなたの『質量』は、どれくらいまで増やせまして?」
唐突な質問に、俺は少し考え込む。
(魔力を食えば食うほど増えるが……今の蓄えなら、そうだな。王城の城門を粉砕するくらいは余裕だぞ)
「充分ですわ」
ヴィルヘルミナの生首が、蒼い瞳を爛々と輝かせた。
「明日の正午。聖女様が奇跡を起こそうとする、その瞬間に。……空から『ご挨拶』に伺いましょうか」
彼女が思い描いた地獄のプランを聞き、俺は思わず鉄の刃を震わせて笑ってしまった。
(最高だ。お前、やっぱりイカれてるよ。……いいぜ、乗った。そのクソったれな式典、俺たちの重さでペちゃんこにしてやろうぜ)
薄暗い工房で、首なし令嬢と処刑刃の、楽しげな笑い声が重なった。
王都を揺るがす最大の復讐劇が、幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
敵が仕掛けた罠を、最高の復讐の舞台として利用する。ヴィルヘルミナの狂気と覚悟が決まった回でした。次回、いよいよ大勢の観衆の前で、伝説となる「ざまぁ」が実行されます!
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