第7話:「王宮の混乱と、偽聖女の黒い影」
ダミアン商会の壊滅と、バッカス伯爵の突然の資金援助打ち切り。王都の裏側で起きている不可解な事態に、第一王子と偽聖女の周囲はにわかに慌ただしくなり始めていた。
王城の奥深く、豪奢な装飾が施された第一王子ルードヴィヒの執務室。
そこには、苛立ちを隠せない王子と、純白のドレスに身を包んだ『聖女』マリアの姿があった。
「どういうことだ! バッカス伯爵からの支援が打ち切られただと!? それに、ダミアンの屋敷が何者かに破壊されたとは!」
ルードヴィヒが声を荒らげながら、分厚いマホガニーの机を強く叩いた。
「殿下、落ち着いてくださいませ。きっと何かの間違いですわ」
マリアが甘ったるい声で王子にすり寄るが、ルードヴィヒの焦燥は収まらない。
「間違いなものか! ダミアンは私とマリアの……その、様々な『裏の資金』を管理していた男だぞ! 奴が消えれば、お前の聖女としての慈善活動の資金も底をつく!」
ルードヴィヒは頭を抱えた。
ヴィルヘルミナという目の上のたんこぶを処刑し、すべては順風満帆にいくはずだったのだ。
それなのに、昨日から歯車が狂い始めている。
「それに、街で妙な噂が流れている。『ヴィルヘルミナの処刑は不当であり、彼女は怨霊となって王都を彷徨っている』などと……馬鹿馬鹿しい!」
(……怨霊、ですか)
ルードヴィヒの背後に立つ近衛騎士が、顔を青ざめさせて口を開いた。
「殿下。実は、処刑場からヴィルヘルミナ嬢の『遺体』が消えております。現場には、台座ごと引き抜かれた巨大なギロチンの痕跡と、粉砕された兵士たちが……」
「黙れ! そんな作り話を信じるというのか! あの女は死んだ! 私の命で首を落とされたのだ!」
ルードヴィヒが怒鳴り散らす中、彼に抱きついているマリアの瞳が、一瞬だけ不気味な赤色に濁った。
「殿下。もしや、ヴィルヘルミナ様が本当に悪霊となって復讐に来たのでは……? 私、恐ろしいですわ」
怯えたふりをして王子の胸に顔を埋めるマリア。
だが、その唇の端は、三日月のように歪に吊り上がっていた。
(ふふっ、本当にアンデッドになったというのなら……好都合ですわね。私の『愛玩動物』として、永遠にこき使ってあげますわ)
マリアの足元の影が、まるで意思を持っているかのように、ドロリと黒く蠢いた。
彼女から発せられる気配は、もはや聖女のそれではなく——深淵の魔力の匂いを帯びていた。
「怯えることはない、マリア。私が必ずお前を守る。……近衛騎士団長を呼べ! 王都中をくまなく探し、不審な者はすべて斬り捨てろ!」
王宮に渦巻く疑心暗鬼と、聖女が隠し持つ黒い秘密。
ヴィルヘルミナとギロチンの刃が向かう先には、ただの政治劇では終わらない、どす黒い闇が待ち受けていた。
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王宮サイドのパニックと、ただの小悪党ではない「偽聖女マリア」の裏の顔が少しだけ見え隠れする回でした。いよいよ物語は、単純な復讐劇から異能バトルへと加速していきます。
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