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第5話:「偽証の代償と、深夜の訪問者」

闇医者ザハから情報を引き出した二人は、最初の標的を定める。ヴィルヘルミナに「聖女毒殺未遂」の濡れ衣を着せるため、偽の毒薬を用意した悪徳商人ダミアンの屋敷へ。深夜の訪問者がもたらすのは、交渉か、それとも蹂躙か。



 王都の高級住宅街に建つ、豪奢な石造りの屋敷。

 その最上階にある執務室で、ダミアン商会の会長ダミアンは、上機嫌で金貨の山を数えていた。


「ひっひっひ。第一王子殿下からの特別報酬、それに公爵家が取り潰されたことで空いた利権……笑いが止まらんわい」


 ヴィルヘルミナ・ヴァレンタイン公爵令嬢。

 彼女の部屋から見つかったという「聖女暗殺用の毒薬」は、他でもないダミアンが第一王子の側近から依頼されて用意したものだった。

 あの高慢な小娘が断頭台の露と消えたことで、ダミアンの富はさらに膨れ上がるはずだった。


「さて、そろそろ極上のワインでも——」


 ダミアンがグラスに手を伸ばした、その瞬間。


 ドゴォォォォォンッ!!


 爆発のような轟音と共に、執務室の分厚いマホガニー製の扉が、蝶番ごと吹き飛んだ。

 いや、吹き飛んだのではない。

 外側から叩きつけられた『何か』の規格外の質量によって、木っ端微塵に粉砕されたのだ。


「な、なんだ!? 賊か!?」


 ダミアンが腰を抜かして叫ぶと、土煙の中から、一人の人影がゆっくりと姿を現した。


「夜分遅くに失礼いたしますわ、ダミアン会長。少し、お話ししたいことがありましてよ」


 凛とした、しかし背筋が凍るような冷たい声。

 ダミアンの目は、信じられない光景を映し出していた。


 血に染まったドレス。

 肩に担いだ、大人の背丈ほどもある巨大なギロチンの刃。

 そして何より——彼女の首から上は存在せず、代わりに左脇に『銀髪の生首』を大切そうに抱えていたのだから。


「ひ、ひぃぃぃぃっ!? あ、アンタ、昨日処刑されたはずの……ヴァレンタイン公爵令嬢!?」


「ええ、その節は私のために『素晴らしい毒薬』をご用意いただき、感謝いたしますわ。おかげで、このような浅ましい姿になってしまいました」


 小脇に抱えられた生首が、蠱惑的に微笑む。

 ダミアンは恐怖で失禁し、後ずさりしながら壁に背中を打ち付けた。


(おい、ヴィルヘルミナ。こいつが偽の証拠を用意したクソ野郎で間違いないな?)


「ええ。顔の造形も、魂の濁り具合も、ザハから聞いた特徴と完全に一致していますわ」


 喋るギロチンの刃から響く野太い男の声に、ダミアンはさらに錯乱した。


「ば、化け物! 誰か、護衛の者はいないのか!」


「無駄ですわ。あなたの雇った粗暴な傭兵たちは、すでに私が全員『お休み』させましたから」


 ヴィルヘルミナの胴体が、肩からギロチンの刃を下ろし、ダミアンの顔のすぐ横の壁にドスッ! と突き立てた。

 刃の重圧だけで壁にヒビが走り、ダミアンの顔から血の気が引く。


「さあ、ダミアン会長。第一王子ルードヴィヒとの裏取引を記した裏帳簿……どこに隠していますの?」


「し、知らん! わしは何も——」


(おい、しらばっくれる気だぞ。……一発、重力で足の骨を粉砕してやろうか?)


「あら、野蛮ですわね。ですが、交渉において多少の『痛み』は必要不可欠。……やっておしまいなさい」


「ひっ!? 待て、待ってくれ! 金庫だ! 絵画の裏にある隠し金庫に全部入ってる!」


 命の危機を感じたダミアンは、あっさりと全てを吐いた。

 ヴィルヘルミナは生首の状態で満足げに頷くと、ギロチンの柄を握る胴体に指示を出す。


「よろしい。では、開けていただきましょうか」


 ヴィルヘルミナはギロチンの刃を引き抜くと、隠し金庫ごと壁を分断するように、圧倒的な質量で振り下ろした。

 轟音と共に壁が崩落し、中から証拠の束が散らばる。


「さて、証拠は手に入りました。……次は、あなたの罪の清算ですわね?」


 生首の蒼い瞳が、獲物を狙う捕食者のように細められた。

 悪徳商人の絶叫が、夜の高級住宅街に空しく響き渡った。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

最初の標的である悪徳商人から、王子を追い詰めるための決定的な証拠(裏帳簿)を物理的な脅迫で奪い取りました。順調に復讐の牙を研ぐ二人ですが、次なる展開は……?

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