第4話:「裏社会の闇医者と、生首の交渉術」
王都の地下に広がる悪臭漂うスラム街。追っ手を撒いた二人が身を隠す拠点として選んだのは、死体すら解体して売り捌くという、悪名高き闇医者の工房だった。
王都の地下水路を抜け、光の届かないスラム街の最奥。
錆びた鉄扉を蹴り開けると、むせ返るような薬品と血の匂いが鼻を突いた。
「ひぃっ!? な、なんだテメェら!」
薄暗い工房の中で、怪しげな死体の解体作業をしていた小男——裏社会の闇医者ザハが、メスを取り落として尻餅をついた。
無理もない。
彼の目の前に立っているのは、返り血で赤黒く染まった巨大なギロチンの刃を背負い、自分の『生首』を小脇に抱えた銀髪の女なのだから。
「夜分遅くに失礼いたしますわ。あなたが闇医者のザハでよろしくて?」
ヴィルヘルミナは優雅な足取りで工房の中央へ進み出ると、解体用の作業台の上に、ドンッと自身の生首を置いた。
生首の蒼い瞳が、怯えるザハを見下ろしている。
「あ、あぁ!? く、首が喋って……アンデッド!? なんでこんな高位の魔物がスラムに!」
(おいおい、裏社会の人間ならもう少し肝を据えろよ。ま、ビビらせた方が交渉は早いか)
俺はヴィルヘルミナの背中から念話で呼びかけつつ、自身の『質量』を少しだけ増加させた。
ギロチンの刃が軋み、石造りの床にミシッ、と亀裂が走る。
圧倒的な暴力の気配に、ザハの顔面から一気に血の気が引いた。
「ひぃぃっ! わ、悪かった! 臓器の不法投棄ならもうやらねぇ! だから命だけは!」
「勘違いなさらないで。私はただ、当面の『潜伏先』と『王都の最新情報』を提供していただきたいだけですのよ」
作業台の上の生首が、にっこりと完璧な令嬢の微笑みを浮かべる。
「あ、あんたら、一体何者なんだ……」
「私はヴィルヘルミナ。昨日、無実の罪で断頭台の露と消えた、元公爵令嬢ですわ」
その名を聞いた瞬間、ザハは目を見開いた。
「ヴィルヘルミナ……って、あの『聖女暗殺未遂』の悪役令嬢!? 処刑は終わったはずじゃ……って、だから首が無いのか!?」
「ええ。ですが、少しばかり未練が残りまして。這い上がってきましたの」
首なしの胴体が、背負っていた俺——巨大なギロチンの刃を下ろし、ザハの足元の床にズンッ! と突き立てた。
数トンの質量が床を割り、工房全体が地震のように揺れる。
「ひっ……!」
「さて、ザハ。私に協力していただけますわね? 拒否権はありませんけれど」
生首のヴィルヘルミナが、首を傾げて愛らしく問いかける。
断れば、あの巨大な刃でミンチにされる。それを本能で悟った闇医者は、ガクガクと震えながら何度も頷くしかなかった。
(よし、これで仮拠点と情報源は確保できたな。悪役令嬢らしくなってきたじゃないか)
俺の言葉に、作業台の上の生首は満足げに目を細めた。
王室への復讐劇は、この薄汚れた地下工房から始まるのだ。
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無事に裏社会の拠点を手に入れたヴィルヘルミナと口の悪いギロチン。次回から、いよいよ自分を陥れた者たちへの反撃準備が始まります。
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