エピローグ:「廃墟の玉座と、首なし令嬢のティータイム」
巨大魔族との死闘、そして王国の崩壊から数日後。瓦礫の山と化し、静寂だけが支配する王城の最奥で、あの二人は変わらぬ日常を過ごしていた。
かつて栄華を極めた王国の中心、王城の玉座の間。
しかし今や、豪奢なステンドグラスは砕け散り、天井は崩落し、吹き抜ける風が冷たい砂埃を運んでくるだけの巨大な廃墟と化していた。
その崩れかけた玉座の真ん中に、一人の少女が腰掛けている。
魔族の返り血を浴びて赤黒く染まったドレスを着た、『首なしの胴体』。
そしてその膝の上には、銀髪の美しい『生首』が、ちょこんと鎮座していた。
「……ふぅ。やはり、この茶葉は少し香りが弱いですわね。ダミアン商会の倉庫から拝借したものですけれど」
首なしの胴体が、優雅な手つきでティーカップを傾け、膝の上の生首の口へと紅茶を注ぐ。
生首のヴィルヘルミナは、不満げに小さくため息をついた。
(おいおい、国を一つ物理的にぶっ壊しておいて、紅茶の文句かよ。お前の神経、どうなってんだ)
玉座の横。崩れた石柱に立てかけられた巨大なギロチンの刃から、呆れ返った俺の念話が響く。
あの大聖堂での死闘の後。
王太子も近衛騎士団も失い、魔族の恐怖にパニックに陥った王都の機能は完全に停止した。生き残った貴族たちは我先にと財産を持って他国へ逃げ出し、民衆もまた王都を捨てた。
今、この王城に生きている人間は一人もいない。
「あら。公爵令嬢たるもの、どのような状況であれティータイムの質は落とせませんのよ。……それに、この国のお掃除はもう『終わった』のですから」
生首の蒼い瞳が、廃墟となった玉座の間を見渡す。
彼女を陥れた第一王子は魔族に喰われ、その魔族も俺の超重力で内側から木っ端微塵に粉砕した。彼女の復讐は、文字通り王国を巻き込んで完遂されたのだ。
「私に濡れ衣を着せ、誇りを汚した罪。……少々、高くつきすぎましたわね」
ふふっ、と。
生首のヴィルヘルミナが、この世の何よりも恐ろしく、そして美しい微笑みを浮かべた。
(で? いつまでもこの廃墟にいるわけにもいかねぇだろ。次はどうするんだよ、お嬢ちゃん)
俺が問いかけると、ヴィルヘルミナの胴体はゆっくりと立ち上がり、玉座の横に立てかけられた俺——血塗られたギロチンの柄を、しっかりと握りしめた。
「そうですわね。この世界には、あの愚かな王子や偽聖女のように、分不相応な悪意で他者を踏みにじる者がまだまだ沢山おりますわ。……少し、外の世界を見て回るのも悪くありませんわね」
(ハッ。他国の悪党どもも、不運なこった。空から巨大なギロチンが降ってくるなんて、悪夢にも思ってないだろうぜ)
「ええ。せいぜい、首を洗って待っていただきましょうか」
ヴィルヘルミナの胴体が、小脇に自身の生首を抱え直す。
そして、巨大なギロチンの刃を軽々と肩に担ぎ上げ、廃墟となった玉座の間に背を向けた。
かくして、王都を滅ぼした「悪役令嬢」の姿は、歴史の表舞台から完全に姿を消した。
しかし、彼女の噂は瞬く間に大陸中へと広がり、裏社会の悪党や腐敗した権力者たちを震え上がらせる『都市伝説』として語り継がれることになる。
——夜道には気をつけろ。
もしも自分の罪から目を背ければ、どこからともなく『首なしの令嬢』と『喋る処刑刃』が、極大の質量と共に空から降ってくるのだから。
これにて『断頭台の悪役令嬢は、喋るギロチンを引っこ抜く』は完結となります!
最後まで二人の狂気的な復讐劇にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。皆様の応援のおかげで、最後まで走り切ることができました。
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また次の作品でお会いしましょう!




