第12話:「生首の晩餐と、血塗られた幕引き」
王太子を喰らい、数万の民衆を恐怖のどん底に陥れる巨大な魔族。圧倒的な力を持つ異形に対し、ヴィルヘルミナと喋るギロチンが選んだのは、常軌を逸した「自滅への誘い」だった。
「ギィヤァァァァァァッ!!」
魔族——かつて聖女マリアだった異形の肉塊が、耳を劈くような咆哮を上げた。
広場の石畳を黒紫色の巨大な触手が叩き割り、逃げ遅れた近衛騎士たちが次々と血の海に沈んでいく。
「さあ、ヴィルヘルミナ! あなたも私の血肉となりなさい! その誇り高い顔が絶望に歪むのを、一番特等席(胃袋のなか)で味わってあげますわ!」
魔族の腹部にある巨大な顎が、涎を垂らしながらヴィルヘルミナを威嚇する。
「下品な口の利き方ですこと。……ですが、特等席というのなら、遠慮なくお邪魔させていただきますわ」
ヴィルヘルミナの胴体が、瓦礫の上に置かれていた『自分の生首』を拾い上げた。
(おい、ヴィルヘルミナ。まさか本気でやる気か!? いくらアンデッドでも、魔族の胃袋で溶かされたら再生できねぇぞ!)
俺の焦る念話に対し、彼女の生首は美しい蒼い瞳を細めて笑った。
「ふふっ、信じておりますわよ。私の最高のパートナーさん」
次の瞬間。
ヴィルヘルミナの胴体は、自身の生首を、まるでボールを投げるように魔族の巨大な顎へ向かって全力で放り投げた。
「なっ……!?」
魔族が驚愕に見開いた目玉の先で、生首は美しい放物線を描き——。
「馬鹿め! 自ら餌になりに来るとは!」
バクンッ!!
魔族の巨大な顎が、ヴィルヘルミナの生首を空中で丸呑みにした。
鋭い牙が閉じられ、彼女の顔が暗闇へと消える。
(……今だ!! やれ、お嬢ちゃん!!)
俺は、ヴィルヘルミナの胴体が握りしめているギロチンの柄を通して、ありったけの魔力を放出した。
魔族の体内に飲み込まれた生首。
その口が、暗闇の胃袋の中でニッコリと微笑み、紡ぐ。
「——質量展開」
ゴゥンッ!!!!
魔族の体内、その中心部から、数万トンにも匹敵する『超重力』が爆発的に発生した。
魔物にとって、外部からの攻撃には耐性があっても、自らの内臓から発生する極大質量に耐えられるはずがない。
「ガ、ギィ……!? ヂィィィィィィッ!?」
魔族の巨大な身体が、内側から風船のように異常に膨れ上がり、そして。
ブチャァァァァァァァァァァァァァッ!!!
数万の群衆が見守る中、巨大な魔族の肉体は、内側からの重力圧に耐えきれず、完全に破裂した。
黒い血と肉片が、大聖堂の広場に土砂降りの雨のように降り注ぐ。
圧倒的な静寂。
誰もが息を呑む中、飛び散った肉片の山の中から、コロン、と銀髪の生首が転がり出てきた。
「……少し、髪が汚れてしまいましたわね」
生首のヴィルヘルミナは、不満げに唇を尖らせる。
その生首へ向かって、首なしの胴体が優雅な足取りで歩み寄り、大切そうに拾い上げて小脇に抱えた。
「終わりましたわね、ギロチンさん。王家が隠していた魔族を討伐したのですから、これ以上の『潔白の証明』はないでしょう?」
(……お前、本当にイカれてるぜ。だが、悪くない)
血の雨が降る広場。
崩壊した大聖堂と、散乱する魔族の残骸、そして王太子の亡骸。
その地獄の中心で、血塗られたドレスの首なし令嬢は、巨大な処刑刃を肩に担ぎ、この世の何よりも美しく、そして恐ろしい微笑みを浮かべていた。
かつて悪役令嬢と呼ばれた少女の、血塗られた反逆の第一幕。
ここに、堂々の完結である。
これにて完結です!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
自らの首を食わせて内側から粉砕するという、常識外れの戦術で強敵を打ち破ったヴィルヘルミナと処刑刃。王都をめちゃくちゃにした二人の行く末は……?
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