第11話:「偽聖女の嗤いと、広場を覆う肉塊の影」
数万の民衆の前にばら撒かれた裏帳簿。完全な証拠を前に、ルードヴィヒとマリアは逃げ場を失った。しかし、追い詰められた偽聖女の口から漏れたのは、謝罪ではなく、禍々しい哄笑だった。
「う、嘘だ! これは精巧な偽造だ! 私は騙されている!」
ルードヴィヒが石畳に散らばった帳簿を掻き集めながら、見苦しく叫んでいる。
しかし、民衆の怒りの声はもはや収まらない。「悪徳王子!」「偽聖女を引きずり下ろせ!」という怒号が、大聖堂の広場を埋め尽くしていた。
「マリア! お前からも何か言え! 聖女の奇跡で、この暴徒どもを黙らせろ!」
ルードヴィヒが縋るように振り返った、その時だった。
「……あーあ。つまらない」
純白のドレスを着たマリアが、冷たい声で呟いた。
その声には、先ほどまでの甘ったるい聖女の面影は微塵もない。
「マ、マリア……?」
「本当に、人間の感情というものは御しやすくて、そして脆いですわね。せっかく私が『絶望』と『信仰』のスパイスを丁寧に振りかけて、極上の『餌』を育てていたのに……台無しですわ」
マリアがゆっくりと顔を上げる。
その瞳は、もはや人間のそれではなかった。白目がどす黒く染まり、瞳孔が爬虫類のように縦に割れている。
(……おい。ヴィルヘルミナ、あいつの魔力、異常だぞ。人間じゃない)
俺がギロチンの刃から警告を発するのと同時に、マリアの純白のドレスが、内側から膨張し始めた。
メチャァッ、グチャァッ!
肉が裂け、骨が軋むおぞましい音。
マリアの背中を突き破り、黒紫色の巨大な触手が何本も飛び出した。美しい顔の半分が崩れ落ち、そこから鋭い牙が並んだ巨大な顎が姿を現す。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
最も近くにいたルードヴィヒが、腰を抜かして絶叫した。
「バカな王子様。あなたのおかげで、この王都には最高の『負の感情』が満ちました。……最後くらい、私の血肉として役に立ちなさいな」
マリア——いや、マリアの皮を被っていた高位の魔族は、巨大な顎でルードヴィヒの半身に喰らいついた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
王太子の断末魔が広場に響き渡る。
それを合図に、数万の民衆は恐慌状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。
「さあ、食事の時間ですわ! 逃げなさい、足掻きなさい! その絶望が私を——」
「うるさいですわね」
魔族の哄笑を遮るように、凛とした声が響いた。
瓦礫の上に立つヴィルヘルミナの胴体が、肩に担いでいた超質量のギロチンの刃を、魔族に向けて真っ直ぐに突きつける。
その足元で、彼女の生首が、ひどく冷酷な笑みを浮かべていた。
「私の復讐の舞台を、下品な食事会で汚さないでいただけます? 醜悪な肉塊さん」
(ハッ! 言ってくれるぜお嬢ちゃん。……さあ、あのバカでかい的当て、俺の重力でミンチにしてやろうぜ!)
逃げ惑う群衆と、血肉を啜る巨大な魔物。
その地獄絵図の中心で、首なし令嬢と喋る処刑刃だけが、一歩も退かずに獲物を見据えていた。
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政治的なざまぁ展開から一転、偽聖女が本性(巨大な魔族)を現し、パニックホラー展開へと突入しました!王太子はあっけなく魔族の餌食に……。
次回、第1章完結!首なし令嬢と巨大魔族の死闘です!
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