第10話:「極大質量と、空から降る『真実』」
大聖堂前広場に降り立った、首なし令嬢と巨大な処刑刃。数万の民衆と近衛騎士団を前に、ヴィルヘルミナは優雅に、そして残酷に王太子の罪を暴き始める。
「な、何を呆けている! 近衛騎士団、その化け物を直ちに討ち取れ!」
ルードヴィヒの悲鳴のような命令が広場に響き渡った。
ハッと我に返った数百名の近衛騎士たちが、一斉に剣を抜き、瓦礫の上に立つヴィルヘルミナの胴体へと殺到する。
(おいおい、数が多すぎるぞ。お嬢ちゃん、全部ミンチにしていいか?)
俺が念話で尋ねると、足元の瓦礫に置かれたヴィルヘルミナの生首は、ふふっと上品に笑った。
「無駄な殺生は好ましくありませんわ。彼らも命令に従っているだけの駒。……ですが、少しばかり『お灸』を据える必要はありますわね。ギロチンさん、重力結界を」
(了解だ。潰れな、お前ら!)
殺到する近衛騎士たちが、ヴィルヘルミナの間合いに踏み込んだ瞬間。
彼女は巨大なギロチンの刃を、石畳に向かって軽く突き立てた。
ズゥンッ!!
目に見えない超重力のドームが、ヴィルヘルミナを中心に放射状に展開された。
「な、ぐぁっ!?」
「身体が、重……っ!」
襲いかかろうとしていた数百の近衛騎士たちが、まるでカエルのように一斉に石畳に這いつくばった。
重い鎧を着ている者ほど、その自重と重力魔法の相乗効果で身動き一つ取れなくなる。骨が軋む音が広場中に響き、誰一人として彼女の指一本に触れることすらできない。
「ば、馬鹿な! 我が国の精鋭たちが、一瞬で……!」
ルードヴィヒが腰を抜かし、ガチガチと歯の根を鳴らして震えている。
「さて、殿下。野蛮な余興はこれくらいにして、本題に入りましょうか」
ヴィルヘルミナの胴体が、空いている左手で懐から分厚い書類の束を取り出した。
ダミアン商会から奪った、第一王子と偽聖女の裏帳簿の束だ。
「これは?」
ルードヴィヒが目を見開いた。
「あなたが私の部屋に『聖女暗殺用の毒薬』を仕込むよう、ダミアン商会に依頼した証拠。そして、マリアさんが裏社会の人間を使って、邪魔な貴族たちを社会的に抹殺してきた資金の流れを記した帳簿ですわ」
「なっ……! き、貴様、なぜそれを!」
「あら、心当たりがおありのようですわね」
生首のヴィルヘルミナが、底冷えのするような視線をルードヴィヒに突き刺す。
(おい、お嬢ちゃん。ただ見せるだけじゃ後ろの連中には見えねぇぞ。俺の風魔法で派手にばら撒いてやろうか)
「ええ、お願いしますわ。皆様にも、この国の『真実』をご覧いただきませんと」
俺は重力操作の応用で局地的な突風を巻き起こした。
ヴィルヘルミナの胴体が書類の束を空高く放り投げると、突風に乗って、無数の紙片が吹雪のように大広場へと舞い散った。
「ああっ! やめろ、拾うな! それを見るな!」
ルードヴィヒが半狂乱になって叫ぶが、遅い。
舞い落ちてきた紙片を拾い上げた民衆や貴族たちの顔色が、次々と驚愕、そして怒りへと染まっていく。
「こ、これは……殿下が国庫の金を横領している記録じゃないか!」
「聖女様の孤児院への寄付金が、全部ダミアン商会に流れてるぞ!?」
「ヴィルヘルミナ嬢の毒薬は、殿下の自作自演だったのか!」
数万の民衆の怒りの矛先が、一瞬にしてルードヴィヒとマリアへと向いた。
「さあ、殿下。私に濡れ衣を着せ、断頭台へ送った代償……きっちりと払っていただきますわ」
瓦礫の上の生首が、この世の何よりも恐ろしく、そして美しい微笑みを浮かべた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
圧倒的な暴力で近衛騎士を制圧し、ついに数万の民衆の前で王子の悪事を暴き出しました!逃げ場を失った王子と偽聖女はどうなるのか……!?
次回、クライマックスへ向けて加速します!面白いと思っていただけましたら、ぜひ☆評価とブックマークをお願いいたします!




