母の枝
廃屋になった
崩れかかった障子のように
母の手は乾いた枝
俺は水をすくうように
両手で持ち上げる
樹皮がかさかさ鳴って
今にも剥がれそうだ
体温はまだあった
どうしてこんなにも軽いのか
老いた冬の枯れ枝は
本当にこの内側に淡い色をした
血が
流れているのだろうか
それでも枝は
空中の光を掴んだまま
死を離そうとしない
俺は枝をさすった
さすることしかできなかった 俺は
親孝行をした記憶なんてなかった
俺はいつだってないものを求めてきた
風がさわさわと吹いた
俺のいなかった世界から
俺を迎え入れた大樹が
俺のいない世界に迎えられていく
俺は生まれて久しく
自分から母の手を握った
母はなにも言わず
目も開けず
まだそこで眠っていた まだ
俺の手の中で生きていた




