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守りたいもの

この物語は、私の頭の中でふくらんだ妄想をそのまま形にしたものです。

「こんな世界があったら面白いな」

「こんなキャラクターたちが動き回ったらどうなるんだろう」

そんな軽い気持ちから書き始めました。


気づけば登場人物たちが勝手に喋り、勝手に動き、気づけばそこそこ長い話になっていました。

難しいテーマや深いメッセージはありません。これからも続けていくつもりです。

初投稿なので至らないところも多々あると思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

入学式の朝――朝焼けの街並みを背に、朝倉陽翔(あさくら はると)は重いリュックを肩に掛けて歩いていた。今日は訓練学校の入学式。期待と不安が入り混じった心臓の鼓動を感じながら、彼は新たな一歩を踏み出す。


通りには同じように制服を着た若者たちが集まっていた。彼らの顔は様々だ。憧れに満ちた者、緊張でこわばる者、冷静に周囲を観察する者。陽翔もその一人だ。


しかし、そんな穏やかな朝の空気は、突如として耳を裂くようなサイレンの咆哮で引き裂かれた。


「――警報! ()()出現!!」


街全体が息を止めたかのように静まり返る。次の瞬間には、人々の顔から血の気が引き、慌ただしい足音と悲鳴が入り混じった。


その混乱の中、陽翔の視線は路地の奥――そこから立ち上る、黒い霧のようなものに引き寄せられた。

霧はただの煙ではなかった。何か生き物のように(うごめ)き、凝縮し、やがて人型とも獣型ともつかない輪郭を帯び始める。

煤のようにざらついた表面、ところどころから覗くひび割れ、その奥には底知れぬ闇が渦巻いていた。


「……あれが、穢魔(えま)。」


教科書の挿絵で何度も目にした"それ"は、実物では比べものにならないほど――巨大で、重く、そして、()まわしかった。

足元から冷たいものが這い上がり、胸を締め付ける。喉が渇き、息が浅くなる。


だが陽翔は、震える拳を握りしめ、かすかに呟いた。

「こんなものと戦うために……俺は、ここに来たんだ。」


その瞬間、黒ずくめの部隊員たちが視界を横切った。

防弾服に身を包み、鉄製の長槍や銃を構える彼らの動きは一切の迷いがなく、連携は機械のように正確だった。

穢魔が放つ咆哮が耳をつんざき、建物のガラスが(きし)む。だが部隊員たちは怯むことなく、包囲を狭め、一斉に武器を突き出す。


一瞬、穢魔の眼窩(がんか)の奥に光が宿ったように見えた。それが陽翔の視線と交わった刹那、心の奥底を掻き乱すような悪寒が背筋を走った。


穢魔の体は裂け、黒煙と共に崩れ落ちた。

残されたのは、わずかな硫黄の匂いと、張り詰めた静寂だけだった。


陽翔は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

心臓の鼓動が、先ほどよりも確かに速く、大きくなっている。


――始まりがあるとしたら、多分、この瞬間だ。


胸の奥に芽生えた小さな決意が、静かに灯る。


戦いの爪痕が残るその場所で、陽翔は深く息を吸い込んだ。

胸の奥で鼓動がまだ激しく鳴っている。

だが、その震えの中には、恐怖だけではない何か――確かな熱があった。


体の内側から、力が満ちてくるのを感じる。


「……やっぱり、ここで俺は――何かを変えなきゃならないんだ。」


静かに、しかし揺るぎなく。

そんな決意が、胸の奥に灯った。


やがて、戦いを終えた|部隊員たちが周囲の警戒を解き、こちらへ向かってくる。

重たい足音とともに、一人の男が陽翔の前で立ち止まった。


黒ずくめの装備に身を包んだその男は、陽翔の顔をのぞき込むようにしながら、低く、柔らかな声で言った。


「大丈夫か? 怪我はないか?」


予想外の優しい声音に、陽翔は一瞬だけ目を見開いた。

だがすぐに、軽くうなずく。


「……うん。大丈夫、です。」


そのやり取りの中で、緊張の糸が少しだけ緩む。


陽翔の中で、世界が確かに変わりはじめていた。


陽翔は受付を終え、列に並んで入場の順番を待っていた。

背中のリュックの重さが、これから始まる新たな日々を象徴しているように感じられる。


新たな一歩を踏み出すための場所――蒼穹第一(そうきゅうだいいち)訓練学校(くんれんがっこう)

その入学式は、朝の澄んだ空気の中、静かに、しかしどこか緊張感を伴って始まろうとしていた。


整列した新入生たちは、式の会場である大講堂へと足を進める。

その足音一つひとつが、まるで未来への決意を刻むようだった。


講堂は高い天井と厳かな雰囲気に包まれ、空気はぴんと張り詰めている。

静寂を切り裂くように、壇上へと一人の男が歩み出た。


年配で落ち着いた風貌のその人物に、自然と会場の視線が集まる。

マイクを通さずとも通る声で、静かに、しかし力強く語りはじめた。


「皆さん、ようこそ。」


「この蒼穹第一訓練学校の学長を務めております、黒川修司(くろかわ しゅうじ)です。

この場に立ち、皆さんと出会えたことを心から誇りに思います。」


「ここでは、ただ力を鍛えるだけではありません。

強い意志。揺るがぬ責任感。

そして――仲間と生き抜くための“絆”を学んでいただきます。」


「君たちは今、世界を背負う可能性の最前線に立っています。

これから幾多の困難と向き合うことになるでしょう。」


「しかし、それを乗り越えた先にあるもの――それこそが、真の成長であり、未来そのものなのです。」


「君たち一人ひとりの努力と覚悟が、この世界の希望となる。

どうか、自信と誇りを持って、共に歩んでまいりましょう。」


学長の人物の言葉が終わると、会場には大きな拍手が沸き起こり、新入生たちの顔に決意の色が浮かんだ。


演説が終わると、しばしの静寂の後――

講堂いっぱいに拍手が鳴り響いた。


新入生たちの表情が変わる。

緊張に曇っていた目に、少しずつ光が宿り始めていた。


陽翔もまた、その言葉に心を揺さぶられていた。

胸が熱くなる。

昨日までの不安が、じわじわと“覚悟”へと形を変えていくのがわかる。


彼は、まっすぐ前を見据えながら小さく頷いた。

――俺は、ここで強くなる。


その決意はまだ小さく、だが確かな熱を帯びて、静かに彼の中で燃え始めていた。


入学式が終わり、校舎の外に新入生たちが散らばっていく。陽翔は人混みの中を歩きながら、ふと視線を感じて顔を上げた。


そこには、鋭い眼差しで彼をじっと見つめる少年が立っていた。少し背が高く、整った顔立ちでどこか冷たさを漂わせている。


陽翔が近づくと、少年が声をかけてきた。


「おい、入学試験で見かけたな。お前、けっこう目立ってたよな。」


陽翔は少し苦笑いしながら答えた。


「あ、ああ……まあ、そうだな。」


「俺はお前があまり好きじゃない。」


少年はそう言って、鋭い視線を送った。


その時、明るい声が横から割って入った。


桐谷(きりたに)くん、ちょっと落ち着いてよ。せっかくの入学式なんだから。」


振り返ると、元気いっぱいの少女が笑顔で歩み寄ってきた。肩までの髪を揺らしながら陽翔に向かって手を振った。


「桐谷くんが迷惑かけてごめんなさい!」


「私は高宮紗英(たかみやさえ)。これからよろしくね!」


そう言って、紗英は深くお辞儀をした。


陽翔は少し戸惑いながらも、ぎこちなく微笑み返した。


「あ、ああ……いや、全然……大丈夫です、紗英さん?」


桐谷は二人を見て、少し眉をひそめぶっきらぼうに言い放った。


「…よろしくな。」


こうして陽翔の新しい日々は、桐谷と紗英──正反対の二人との出会いから静かに幕を開けた。


陽翔は重い荷物を抱え、男子寮の廊下をゆっくりと歩いていた。

床に反射する窓からの光が、長く彼の影を伸ばす。

部屋番号の前で立ち止まり、深呼吸を一つ。

ノブを回し、中に足を踏み入れた。


ベッドの上で体育座りをしていた少年が、ぱっと顔を上げる。

そして少し間をおいてから、にこやかに手を大きく振った。


「おー……! 新入り、来たな!」

その声に部屋の空気が少し明るくなる。

「お前、朝倉陽翔だろ? 俺は榊原隼人(さかきばらはやと)。今日から同じ部屋だ、よろしくな!」


陽翔は軽く頭を下げながら返す。

「あ、うん。よろしく……って、なんで名前知ってるんだ?」


隼人は短く息をつき、くすっと笑った。

「入学試験で目立ってたからな。あんな動きする奴、忘れられるかっての。」


そのやり取りを聞きながら、机に向かって書類を整理していた長身の少年が顔を上げる。

眼鏡の奥の瞳がじっと陽翔を見据える。


田嶋蓮(たじまれん)だ。」

言葉を選ぶように少し間を置く。

「規律第一。物は決まった場所に戻せ。……それだけ守ってくれればいい。」


陽翔は言葉の重さに少し圧倒され、声を弱める。

「お、おう……」

(なんか堅い人だな……)


さらに視線を動かすと、窓際に立つもう一人の少年が振り返った。

髪の一房が揺れ、冷たい視線をこちらに向ける。


「俺は黒瀬颯真(くろせそうま)。」

わずかな間を置いて、低い声が部屋に響いた。

「……あんたが何しようと勝手だが、足だけは引っ張るな。」


陽翔は思わず身を固くした。第一印象は、最悪だった。


「おいおい、颯真、そういう言い方はどうなんだ?」

隼人がすぐに割って入る。少しあわてた様子だ。

「せっかくの新入りがビビるだろ?」


「ビビるなら、その程度ってことだ。」

颯真の声は変わらず冷静で、わずかに眉をひそめる。


「言い争うな。」

蓮がたしなめるように言う。

「初日から騒がしくしてどうする。」


隼人はふっと息を吐き、くすっと笑った。

「お前が一番静かにしてるから、俺らがうるさく見えるだけだってさ。」


陽翔は思わず苦笑しながら荷物を床に下ろす。

三人のそれぞれ異なる空気が混ざり合い、どこか奇妙な調和を感じた。

(……なんだ、このバラバラなメンバーは。これからやっていけるのか?)


そんな不安をよそに、隼人が陽翔の肩を軽く叩き、にっこり笑った。


「ま、細けぇことは後だ。これからよろしくな、陽翔!」


その笑顔に、陽翔は少しだけ安心感を覚えた。

こうして、彼の新しい日々が静かに始まった。


寮の共有スペースで、陽翔は新たに出会った仲間たちと軽く会話を交わしていた。

自己紹介を終え、まだぎこちない空気が漂う中、隼人が軽く笑った。


「明日はついに授業が始まるな。ちゃんと寝ておけよ、黒崎教官は厳しいって噂だからな」


陽翔は拳をぎゅっと握りしめ、力強く頷いた。

「そうだな……やるしかない。」


夜は静かに更けていき、翌朝、教室には新入生たちのざわめきが満ちていた。


教室の扉が静かに開き、黒い制服をきっちりと着こなした男性教官が教壇に立つ。


「おはよう、諸君。私はこの訓練学校の教官、黒崎一樹(くろさきかずき)だ。これから君たちの指導に当たる。」


教官の低く確かな声が教室に響き渡る。


「この世界は決して優しくはない。君たちが学ぶのは命を、そして他者を守る方法だ」


教官は一人一人の目を見て確かめるように話を続ける。


「その覚悟を持って、この時間を大切にしてほしい。」


「ではまず、名前と目指すものを簡潔に話してもらおう。」


数人が順に話し終え、教官の視線は陽翔に向けられた。


陽翔は深呼吸し、緊張しながらも真っ直ぐに前を見据えて答えた。


「朝倉陽翔です。みんなを守りたい。そのためにここに来ました。よろしくお願いします。」


教室は一瞬静まり返った後、小さなざわめきが広がった。


黒崎は満足そうに微笑み、


「よし、それでは授業を始めよう。」

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

第一話ということで、まだ世界やキャラクターの全貌は見えていませんが、これから少しずつ明らかになっていきます。


今回の執筆で「もっとこう描きたいな」という課題もたくさん見つかりましたが、それも含めて成長していけたらと思います。

コメント等頂けたら幸いです。

次回も、ぜひお付き合いください。

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