フロウと金曜日の悪魔
「チッ、たく。シケてらァ」
路地裏で、男は巾着袋を覗いて吐き捨てるように言った。先ほど道端でとある男の懐から"スった"その巾着には、いくらかの銀貨と一枚の金貨しか入っていなかったからだ。
それを見て仲間の男がゲラゲラ笑う。
「ガハハ、お前はエモノを見る目がねェーんだよ!!もっと金を持ってそうなヤツを嗅ぎ分けれるようにならねェとよォ〜〜」
「ケケケ!!いかにも貧乏くさそうな顔だった!!俺でも分かったぜ!!」
「……チッ、また別のヤツ行くかぁ〜〜〜??」
三人が次のターゲットを決めるため、路地裏を出ようとしたとき、彼らの背後から迫り来る一つの影があった。
「ぐへェッッ!!??」
男の一人が吹き飛んだ。他二人がハッと振り返ると、そこには先ほど彼らがスった相手の男が立っていた。彼こそフロウである。
「誰の顔が貧乏顔だァ〜〜!!??」
「コイツ、さっきのヤツじゃねェか!!!」
「テ、テメェッ!!仲間に手出しておいて、タダじゃ済まねえぞコラァッッ!!!」
男の一人が懐からナイフを取り出しフロウに向ける。
「手を出す??先に俺のカネ盗ったのはテメェらだろうが、チンピラァ!!!そっちこそ覚悟出来てんだろうなァァ!!???ぬぅオラァァァッ!!!!!」
フロウは先ほど殴り飛ばした男を持ち上げ、ナイフ男の元へ思い切り投げ飛ばした。
「うおおお!!!ぐほあェッッ!!!!」
見事に命中し、二人は重なり倒れた。
こうして、フロウと最後に一人残された男が対峙することとなった。しかし、男はすでに彼の勢いに戦意喪失し、ブルブルと震えている。そして、彼が震えているのにはもう一つの理由があった。
「て、テメェ……なんで俺たちの場所がわかった……俺は能力で意識外の人間に対して気配を消すことができる。テメェから盗ったとき、俺の気配は完全に消えていたはずだ……なのになぜ……」
「俺の能力"追跡者"は、一度触れた対象を俺自身の感覚で追跡することができる。いくらお前が気配を消していようが、俺の財布を追跡すればお前らの位置なんか丸分かりだ」
「……ハハッ、なんだそりゃ。やっぱ、俺の見る目がねェッてよくわかったぜ……」
◆
「ひい、ふう、みい………」
フロウは男たちの金を数えていた。彼の前には顔をボコボコに膨れさせた三人の男たちが並べられている。
「チッ、お前らも大した額持ってねェじゃねぇか。これでよく人のこと貧乏顔とか言えたなァ、オイ」
「あい、ずびばぜん…………」
男たちが謝ると、フロウは深くため息をついた。
「これからお前らが人から金を巻き上げるようなマネをしたら、また俺がお前らから巻き上げる。これに懲りたら二度とこんなことすんな」
こうしてフロウはほんの少し膨らんだ巾着袋をぶら下げ、路地裏を後にするのだった。
◆
現在、フロウの滞在している街であるスワンタウンに彼が来たのはひと月ほど前のことであった。それから定職には就かずその日暮らしで小銭を稼ぎ、宿を転々として生きている。そして今日も街をフラついた後、フロウは町外れの酒場に足を運んでいた。
「おっちゃん、ビール」
「あいよ」
日もとうに暮れていて、普段ならちょうど酒場の賑わっていそうな時間なのだが、店内を見るとフロウ以外の客はほとんどいない。不思議に思ったフロウが主人に尋ねた。
「なあ、とっくに日も沈んでるってのに客の入りが少し悪くないか?」
主人はそれを聞くと、ため息をつきながらカウンターの上にあった新聞を一部、フロウのところへ投げてよこした。
「アンタ、コイツを知らないのかい?」
主人はフロウの前に広げられた新聞紙のある記事をトントンと指で叩きながらそう言った。見てみると、そこには"スワンタウン、金曜日の悪魔"とでかでかと書かれた見出しがあった。
「金曜日の悪魔?」
「ああそうだ。近頃、毎週金曜日になるとこの街で人が殺される事件が起こっている。たしか先週ので三人目だ。すでにここの自警団が調査を進めているが、犯人は未だ捕まってねえ」
「そいつは同一犯の犯行なのか?」
「ああ、ほぼ間違いねえ。殺された人間は全員、胸に十字の切り傷を刻まれて殺されているってよ。そんで、どれも金曜日ってところも気味が悪い……これはすべて俺がやったことだって見せつけてるみたいでよ」
なるほど。この事件の影響で、街の人間は夜間の外出を控え、客の入りが異様に少なくなっているわけだ。そして今日は水曜日、話の流れで行くと次の犯行は明後日の金曜日ということとなる。
「悪いことは言わねえから、アンタも早めに帰ったほうがいいぜ。今日が金曜日じゃねえといえど、事件に巻き込まれる可能性はゼロじゃねえんだ」
主人の言う通りだ。フロウもなるべく面倒ごとと関わらないようにするため、出されたビールを勢いよく飲み干し、そのまま勘定をしてから店を出ようと席を立とうとした。しかしそのとき、酒場の扉が勢いよく開き、大勢の男たちが流れこんできた。そして彼らによってフロウは何も分からぬままに取り囲まれたのであった。
「キサマ、そのまま手を上げろォォーーーッッ!!!我々、スワンタウン自警団の名の下にキサマを三件の殺人事件の容疑で逮捕するゥゥーーーッッ!!!」