狐の嫁入り
2話目 天気雨
「不思議だね。晴れているのに、雨が降ってるよ。」
「天気雨だな。狐の嫁入りという。」
俺がそういうと、ハリーは興味深げに俺に聞いてきた。
「狐?フォックスのことだよね。」
「ああ。さっき見てきた稲荷神社があるだろ?あそこの神の使いが狐なんだよ。」
「へえ~。」
ハリーが目を見張る。雨を見ながら、何度もうなずいた。
「じゃあこの雨は神のお使いの婚礼の合図みたいなものなのかい?」
ハリーの問いに、俺は頷いた。
「ああ、狐の花嫁行列が通っているということなんだよ。だから、天気雨の日は気を付けるように言われていたよ。狐の嫁入りを見たら、命を落とすと言われているんだ。」
「日本の神様も怖いねぇ。」
ハリーはそういって肩をすくめた。
「まあ、そういう言い伝えだということだ。」
「あ、そろそろ晴れたね。行こうか?」
ハリーの言葉に俺もうなずいて、椅子から立ち上がった。重い荷物を持って、再び熱い外に歩き出す。少し歩いたところで、再び細かい雨が降り注ぐ。
「うわっ!」
「あの木の陰でやり過ごそう。」
機材を濡らしたくないので、大きな樹の下に二人で避難した。
「やれやれ…。」
機材がさほど濡れなかったことにホッとした時、ハリーが俺の肩をつついた。
「おい。あれは何だ?」
シャン…シャン…という鈴の音とともに、紋付き袴の男性や留袖の女性がゆっくりとした歩調で歩き、一人が馬の手綱を引いている。その上には、花嫁衣装を着た女性。
花嫁行列は華やかに過ぎ去っていく。
「…狐の嫁入りだ。」
俺は顔が真っ青になった。ハリーは興味津々に様子を見ている。
そんな時、行列に緊張が走った。