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23話:黄金の自由、メッキにまみれた学園

「覚悟しろ、デバフ野郎!」


復学二日目――の魔法歴史学の授業中のことである。いきなり同級生が俺に杖を向けてきたのだ。俺は隣の席で刀の柄に手をかけるレーネに制止するよう目配せし、その生徒に自制を促す。


「落ち着けよ、ミスター・ヘルレ。子爵家の次男ともあろう者が、授業中に杖を抜くなんてお行儀悪いマネしないでくれ? 私闘なら全然受けるけど、時と場所はわきまえて――」

「つべこべうるせぇンだよ! 俺はお前みたいなカス魔法使いが一緒に授業を受けていることが許せねぇンだよ! あと名前呼ぶな、気色悪ぃ!」

「おうおう、激昂していらっしゃる」


折角、クラス全員の名前と身分まで覚えて、これから仲良くやってこうと思った矢先にこれだ。先生の方に縋るような視線を送るも、オタオタするばかりで我関せずだ。


「さっさと抜けよ! じゃないと俺が不意打ちするような卑怯者になっちまうだろ!」


あくまで決闘の体裁に拘るあたり、貴族の矜持を感じさせる。


「はぁ……。付き合ってやるか、仕方がないなぁ」


俺は渋々席を立ち、ヘルレと向かい合う。そして魔杖を巻く布を取り、構える。


「いくぞォ!! ファ――」「『忘却せよ(オブリビオン)』」


 俺に杖を向けて息巻いていた男子生徒だったが、呪文を唱えようと開いた口は二の句を紡がずに、ただパクパクと意味なく開閉するだけだった。彼の顔から怒りも自信も消えて、ただ当惑だけが浮かぶ。


「あれ……? 俺は今、何の呪文を唱えようとしていたんだ?」

「ファイアボールだろ? 摂氏300度以上の高温でホッカホカにした火球でさ、眼の前のいけ好かないヤツの制服をジュワッと燃やして一泡吹かせたい、だろ? わかるぜ」

「そうだ……! ファイアボール……! ファイアボールだ!」


 ファイアボールはバーウィックで最初に習う基礎中の基礎の魔法だ。最も簡単な攻撃魔法だが確かな攻撃手段でもあり、魔法入門だけでなく、戦場でも使われている。


「へっ! 手前は何も唱えないで相手に魔法を教えるなんて、とんだマヌケだぜ!」


 ヘルレは杖を構え直して、詠唱を始める――はずだった。だが彼はまたもや何も言えず、焦燥にかられたようにこめかみを押さえる。


「……ファイアボールってどうやって唱えるんだっけ? 呪文が、呪文がわからない……! そもそもファイアボールってなんだっけ?」

「他になにか思い出せる魔法はあるか?」


 人間相手に使うのは初めてだから、効き目がどれほどか聞いておきたい。


「他の呪文もそうだ! 魔法が何一つ思い出せない! くそっ! 何で何も思い出せないんだ! 頼む、誰か思い出すのを助けてくれ!」

「安心しな、この授業が終わる頃に思い出すだろうさ」


ヘルレはすっかり錯乱しており、決闘どころでなかったので、俺は彼を保健室に連れて行かせた。まあ、記憶を制御しているのは俺だけど。

『忘却』を使って、魔法に関する知識に限定して全て忘却させた。魔法を思い出せない者とで、どうして決闘が成立しようか? 


「というわけで、私闘などなかった。先生、授業を続けてもらえますか?」


 生徒たちと同じく呆気にとられる先生にそう促すと、先生は慌てて板書を再開する。

俺はただ、授業を受けたかっただけなのになぁ……。ほら、クラスメイトの皆がすっかり怯えている。


「――先程お話した通り、魔法の軍事利用の歴史は長く、遠距離攻撃手段として用いられてきました」


 先生は萎縮した空気を元通りにしようと、何もなかったかのように授業を再開させる。


「単純に魔法攻撃だけではありませんよ。火魔法はやはり火刑や放火に用いられますね。風魔法は矢を遠くまで飛ばす、または相手の矢を妨害するなどや、船の動きを操作、または妨害、などに用いられる。土魔法は陣地構築や、坑道掘削、騎兵の妨害に使われます。水魔法は――水も戦場によっては、重要な補給物資ですからね。重宝しています。それに氷魔法や雷魔法――」


攻城戦も籠城戦も魔法兵の数が、勝敗の鍵と言われていた。魔法兵は戦争の一部となって久しいのだ。


「しかし、アールガッハ帝国がマスケット銃やファルコネット砲と言った銃火器を量産すると、魔法を使えない一般人でも魔法と同等の威力・射程を揃えることができるようになりました。一方で戦場での魔法の価値は更に上がりました。なぜかわかりますか?」


銃――これは帝国が200年前に迷宮最深部の古代文明の遺跡から発掘・再現した技術だ。銃が人間社会に普及した今もその技術を独占していることが、帝国を大陸の覇権国家たらしめているのだ。


「はい、魔法による障壁が飛び道具に対して相性がよく、また、銃火器の発達が魔法使いの苦手とする、加護付き甲冑を着込み、騎馬する騎士階級を衰退させたからです」


 魔法兵は魔法耐性に物理的にも頑強な騎士に弱いという欠点があった。あとやはり、近接戦に弱い。


「その通りです! 銃と大砲は戦争の形態を大きく変えました。多くの加護を施した高価な武具を身にまとった一人一人高コストな騎士による戦いではなく、多くの平民階級が銃を手に参画する、傭兵や市民軍の戦いになったのです。またもとより飛び道具に対しては、魔法で障壁を作ることができるため相性がよく、相対的に魔法使いの価値が高まっています。皆さんの中にも卒業後の就職先として、軍隊へ入ることを考えている人も多いのではないですか? 実際引く手あまたですよ」


 銃兵は基本軽装であり、魔法の威力を発揮しやすい。さらに魔法と銃の射程はほぼ同等。なので相対したら飛び道具に対する防壁を持つ魔法使いに軍配が上がる。


「先生、もし銃を持った相手と相対した時は、どう対応すればいいでしょうか?」

「いい質問ですね。昨今はいかに銃撃を無力化するかが、魔法使いの命題とされています」


 興の乗った先生が、喜々として黒板に『対策』を書いていく。


「考えられる対策として、まずは各種魔法障壁を試してください、①風魔法で弾道を乱す。(タービンスウォール)②火魔法の高温で溶かす。(ファイアウォール)③屋外なら土魔法で胸壁を作る。(アースウォール)――などが挙げられます」


 「それに」と先生は天井を指差す。そこには誰でも発動できる簡易術式が描かれていた。


「うちの学校には『噴出消火術式(スプリンクラ―』があるじゃないですか? これは火災だけでなく、銃を持った襲撃者への対策ともなります。というのも④厚い水の障壁アクアウォールで弾丸の威力を減衰させることもでき、⑤氷魔法を組み合わせることで厚い氷の障壁アイスウォールを作ることもできます。⑥また銃は水や湿気に弱く、スプリンクラーの作動した屋内では不発になりやすい。⑦氷魔法でそもそも発火出来ないほど低温にすることも一つの選択肢ですね」


 先生は魔法で複数のチョークを操り、カツカツと黒板にそれぞれの魔法での対処法を書いていく。


「銃は一発撃つごとに約30秒ほどの装填動作が入ります。その隙にこちらから魔法を叩き込めばいいんですよ」

「でももし、遠くから狙撃されたらどうすれば……?」

「狙撃? まさか! 線条がライフリングされた銃でも精度は大したことないのに。まして世の中で主流の滑空銃じゃ、相手の黒目の見える距離で撃ってようやく、当たったり当たらなかったりする程度ですよ」

「…………」


 『銃なんてその程度』か。だがもし水に強く、一発ずつに装填の必要もなく、高精度で射程も魔法の届く範囲を圧倒的に上回る銃が相手なら?


 魔法使いは対抗できるのだろうか?


 神妙な顔をしているのは俺だけではなかった。教室が暗澹たる空気に包まれている。


「まあ、学生諸君の懸念はわかります。確かにわが校は現在、中立を宣言していますが、帝国と隣り合う形になり、彼の国の圧力を公然と受けているのは事実です」


 なんと、俺のいない間にバーウィックではそんな論争が巻き起こっていたのか!


「帝国領に編入して、実戦的な帝国式のカリキュラムを導入することで、卒業後、帝国軍の兵士となる契約を強いようとしている――なるほどそういう話もあるかもしれません」


確かに魔法使いは戦争においても重要な存在だ。人も亜人も魔族も見境なく、拡張戦争を繰り返す帝国とって、魔法兵を供給してくれるこの学校は喉から手が出るほど欲しい。


「学長{とその腰巾着の教頭}は帝国式カリキュラム誘致(その話)に乗り気なようですが、我々教師連盟や生徒会が反対する限り、通りはしませんよ。さらに言えば、先日の騒動で、彼の権威は地に落ちましたからね」


 先生も生徒たちも俺の方に視線を向ける。彼らの向ける目の色が俺の行いに対する複雑な評価を言外に伝えていた。


「これを攻撃材料に学長派を……、おっと、いけない。ここからは大人の話でしたね」


 教師たちはまた面倒な派閥争いをやっているのか。


「それにですよ。帝国といえどもわが校の教師も生徒も諸侯の貴族であり、魔法使いであり、そんな人材の集う学校を攻撃するはずはありませんよ」

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