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このアマはプリーステス  作者: 川口大介
第五章 みんなで、力を合わせて……!
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 もう一度、エイユンの声がした。と、肩に重みが掛かり、背中には心地よい温もりが。

 エイユンが、ジュンの背後からおぶさるような形で、抱きついてきたのだ。

 視覚的には、黒い絵の具を塗っただけの素肌、裸と言っても過言ではない、薄い薄い全身タイツ姿のエイユン。そして今のジュンにとっては触覚的にも、その「過言ではない」状態になっている。

 大きな果実のような、重みも厚みもある丸い感触が二つ。エイユンがジュンの首に抱きつくことで、その丸みがジュンの背中で押し潰されている。押し潰されるのに従って容易に形を変えてしまう柔らかさと、そこから元の形に戻ろうと押し返す弾力。そんな、二つの相反する感触が、エイユンの体温による温もりを伴って、ジュンの背中に伝わってくる。 

 そして耳元には、疲労とダメージで乱れた、熱い吐息混じりのエイユンの声が。

「私に薬を飲ませた時。私のことを、俺主演の物語のヒロイン、と言ってくれたな。その気持ち、涙が出るほど嬉しいぞ。なぜなら、それは私も同じだから。私主演の物語の中では、君こそが、世界中のどんなに壮大な物語の主人公も上回る、最高のヒーローだ」

「……エイユン」

「だから。ここは私に、ヒロインさせてくれ。ヒーロー様に、力を……」

 後ろからジュンに抱き着いているエイユンが、すうぅっと息を吸い込んだ。そして、ジュンと接触している部分から気光を放射させる。

 首に回している腕と、背中に密着させている胸と……頬にそっと触れさせた、唇と。

「ぁ……」

 ジュンの口から、小さな声が漏れた。

 気光による回復効果はあるだろう。この状況だ、エイユンだって全身全霊を込めて回復させてくれているのだろう。実際、ジュンは体力の回復も傷の治癒も実感している。

 だがだがだがだが。明らかに、気光によるものとは違う、しかしそれに劣らぬものを、同時に強烈に、ジュンは感じた。

 ジュンの頬から唇を離したエイユンが、

「傷つき消耗した君の気を、可能な限り元に戻したつもりだ。【元気】に……なったか?」

 腕の力を緩めて、ジュンから離れる。

 ジュンは言葉で答える代わりに、行動で応えた。

「うぅおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 真正面、アルヴェダーユに向かって猛然と突進! アルヴェダーユは薙ぎ払うように拳を繰り出して来たが、ジュンはそれを跳躍してかわし、その拳を蹴って更に上へと飛び、ガルナスの剣を逆手に持ち替えて、

「これでどうだああああぁぁ!」

 もはや、拳一つ分くらいの長さしかない刃を、アルヴェダーユの眉間に突き立てた。そこから、残り僅かな魔力を流し込み、少しでも伸びろと念じながら、自分の全体重をかけ、剣にぶら下がるようにしてそのまま降下する。突き立てた眉間から鼻、口、喉、胸、腹、股間へと、縦一直線にアルヴェダーユを斬り裂く。

 アルヴェダーユの苦悶の咆哮を聞きながら着地したジュンは、跳び退って見上げた。

 その手の剣は、着地と同時に消滅している。今の攻撃で倒しきれていなければ、もう……

「……くっ!」

 足りなかった。眉間に刺した刃は後頭部まで突き抜けておらず、胸や腹を裂いた斬撃は背中まで達しておらず。深めの傷口ではあるが、真っ二つというにはほど遠い。

 例えるなら魚の腹を割いて、内臓を取り出そうとしているような状態だ。だがその状態の魚は放っておいても絶命するが、古代神アルヴェターユはそうはいかない。

「どうやら、最後の賭けに敗れたようだなああああぁぁぁぁはははははははは!」

 上と下と右と左、四つになった唇をビラつかせて、アルヴェダーユはけたたましく、勝ち誇った笑い声を上げた。

 笑いながら、法術を発動させる。するとみるみる傷口が塞がっ……

「光おおおおぉぉぉぉ!」

 ジュンの肩を踏み台にして、エイユンが跳んだ。

 上に伸ばした右手をアルヴェダーユの頭に、下に伸ばした左手をアルヴェダーユの胸に向け、その縦一直線を直径とした気光の円を出現させて、  

「波ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 ジュンが斬り裂いた傷口に、最後の気光を振り絞って叩き込んだ!

 反動で吹き飛び落ちてきたエイユンをジュンが受け止める。エイユンも消耗しきっていたので、前にこの技を使った時のように注ぎ込み続けることはできず、塊を一発撃てただけだった。

 だがその一発は、傷口からアルヴェダーユの体内に、深く深く食い込んだ。

「ギェアアアアアアアアァァァァァァァァッ!」

 エイユンが読み取った通り、ジェスビィにもアルヴェダーユにも、【気】はある。気光として、技術として使えなくとも、【気】はあらゆる存在が宿しているのだ。

 今エイユンは、己の気をアルヴェダーユの奥深くに突き刺した。それはアルヴェダーユ、というよりアルヴェダーユの【気】にとっては異物、いわば毒のようなもの。

 エイユンの技によって高められ、強められた毒が、アルヴェダーユの体内を駆け巡る。正面から武器として叩きつけたのでは弾かれるものでも、このように大きな傷口から体内へ、直接注入させれば別だ。

 血液と同じように、体内を循環することで生命活動を支える【気】の流れ。アルヴェダーユは今それを、徹底的に狂わされ、体内各所で次々と破壊されている。

 それでも、アルヴェダーユが完全であればその毒を、エイユンの気光を強引に抉り出すこともできただろう。だが今のアルヴェダーユは完全ではない。

「ガアアァァァァ! ァガ……グ……ウ!」

 アルヴェダーユは両手で傷口を押さえ、法術で治癒しようとする。が、体内深くを暴れ廻っているエイユンの気光には届かない。そしてダメージが深くなるにつれ、法術自体もどんどん弱まっていく。

 体を縦に裂いた傷口から、まるで木漏れ日のように気光の輝きを溢れさせながら、アルヴェダーユはよろめいて、ジュンとエイユンを見る。

「なぜ……なぜ、私が……この私が、古代神、が……」

「それもまた、当然のことだ」

 アルヴェダーユに劣らずふらつきながら、それでもエイユンはしっかりと断じる。

「ルークスが街の人々の祈りを集めて得た、神の力。ジュンがガルナスと命を賭けて戦って得た、魔の力。そしてこの私の気光、人の力。神・魔・人が団結した私たちに、単独であるお前が勝てる道理などない」

「……グ……ァ…………ッ」

 アルヴェダーユの体内の気が、破壊され尽くした。

 アルヴェダーユの目から生気が消え、彫像のように動きが止まる。

 アルヴェダーユの全身が、元々灰のような色だったのが灰そのものとなった。

 アルヴェダーユが、ザラザラと音を立てて崩れていく。

「か……勝った?」

 ジュンが見ている前で、かつて古代神だったものは、一山の灰となった。

 そして風に吹かれ、空へ散っていく。

「勝った? 勝った、のか、俺たち?」

「ああ」

 エイユンが笑顔で頷く。ジュンは、やったぁぁ! と勝利の雄叫びを上げようとしたが、

「ぐっ?」

 両手で胸を押さえ、そのまま地面に頭突きを喰らわせた。

「ジュンっ!」

「だ、だいじょ、ぶ、だ」

 ジュンは、ぜぃぜぃと呼吸を荒げてはいるが、その呼吸を何とかかんとか、強引に整えていく。胸に当てていた手を放して、その手で地面を押して、体を起こした。

「ちょっ、と、無理した、からな。流石に、古代魔王、の、武器を、ああも、連続使用、するのは、俺には、荷が、重かっ、た……お、驚かせて悪かった、もう、平気だ」

「その顔色でその姿で、平気と言われてもな」

 今のジュンは冷たい汗に塗れた真っ白な顔と、全身ズタズタで血まみれという姿を晒している。何とかしてあげたいが、エイユンだってもう、体力気力ともに限界だ。気光での治癒はできない。

 と、いうわけで。


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