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このアマはプリーステス  作者: 川口大介
第二章 宗教団体が、いろいろと、企んでる。
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「止まれ! でないとこのカズー……うおっ!」

 カズートスを人質に取ろうとしたジュンだったが、影が放った二本のナイフに阻まれ、跳び退いた。カズートスも自分の立場を思い出し、慌てて下がってジュンと距離を取る。

 走る速度を全く緩めずに恐るべき正確さと速さで投げられたナイフ。なるほど、カズートスが教団の交渉担当なら、こいつが用心棒ってところかとジュンは考える。そしてそんなことを考えた時にはもう、影は滑り込むように目的地に到着していた。カズートスを背に庇い、ジュンと油断無く向かい合う。

「お怪我はありませんか、カズートス様」

「ああ」

 人影の正体は予想通り、ルークスと同系統の、女の子と見紛うばかりの美少年であった。少し大人びた顔からして、歳はルークスより少しだけ上のようだ。

 ヘルメットでも被って固めたような真ん丸い髪型が、思わずぽわぽわと触りたくなる可愛らしさだ。それに劣らず真ん丸い目は、まるで仔犬のように澄みきって、真っ直ぐに見つめられたら邪心を見抜かれそう。鼻も口も小ぶりで、摘んで食べたくなる可憐っぷりである。

 が、そんな愛らしい容貌ながら、体に纏っているのは武闘着だ。夜の闇に溶け込む暗い色合いの、薄く軽そうな素材で織られている。肘や膝などには攻防両面で役に立ちそうな小型の防具が装着され、余計な装飾は無く実用性だけをしっかりと備えた出で立ちである。

 そしてその装備一式の使い込まれ具合と、今のナイフ投擲や走る速度から、この少年がかなりの使い手であることを、ジュンは読み取った。 

「助かったぞソウキ」

 カズートスはほっとした様子で、やってきた少年、ソウキの小さな背を見ている。

 ソウキはジュンに対して油断無く構えをとりながら、答えた。

「こんなことをするのなら、なぜ僕に言ってくれなかったのです」 

「すまん。だがお前は、任務以外は可能な限り外へ出るなとシャンジル様が仰せだろう。お前の身に万一のことあれば……現にこの者、予想以上の強さだ。だからここは一旦、」

「負けませんよ僕は」

 強い意志を瞳に込めて、ソウキはジュンを睨みつけて言った。

「犠牲になっている人たちの為にも、僕は決して負けません。お金目当てで僕らのジャマをしようとする奴なんかには」

「って、ちょっと待てよ。黙って聞いてりゃ随分だなオイ」

 ジュンが、ソウキの言葉に異議を唱えた。

「金目当てのインチキ宗教団体で、犠牲者出しまくりなのはそっちだろ。治療できたってことから解ってるだろうが、こっちはお前らの商売のカラクリ、完全に見抜いてるんだ。この期に及んで、こんなところでカッコつけても無意味だぞ」

「……」

 ソウキは黙り込んだ。

 だがジュンも、自分で言っておきながら、その自分の言葉に違和感を抱いていた。  

 信者を騙す為に、綺麗ごとを並べるのは当然だ。だが仕掛けを見抜き、治療をして見せて、それを材料に教団を強請ろうとしたジュンに対して、綺麗ごとを並べてどうなる? そんなのはジュン自身が言った通り、無意味だ。する必要が無い。では、このソウキという少年が言っている言葉にはどういう意味がある?

 ジュンの中で少しずつ、疑いの気持ちが浮かんできた。最初に思っていた、アルヴェダーユを騙るだけの単純なインチキ宗教団体ではないのかも、と。しかしそれでも、どう考えても、あの古代神アルヴェダーユがこんなことに手を貸すとは考えられない。本当にアルヴェダーユの力が動いているのなら、こいつらこそバチが当たって然るべきなのだから。

「ソウキって言ったな。お前ら、一体何なんだ?」

「……カズートス様、離れていて下さい」

「あ、ああ」

 ソウキの真剣な言葉に従い、カズートスは少し怯えた顔で後ろに下がる。

 そんなカズートスを、ジュンはもう意識から切り離した。ソウキだけに集中する。でないと、危険だと察したからだ。

「問答無用ってことか」

「教団の障害となる者に容赦はしない。どうせ、本物の古代神アルヴェダーユ様の下で働いているんだと言っても信用しないだろ?」

「当たり前だ」

「だったら、お喋りはここまでだっ!」

 ソウキが来た。人間とも魔物とも戦い慣れたジュンでさえ、一瞬焦ってしまう速さだ。矢のような、なんてものではない。明らかに、普通の弓矢では出せない速度である。

 辛うじてジュンは身をかわし、素早く距離を取った。ジュンのいた空間を、鋭い蹴りが薙ぎ払う。間髪入れず、ソウキは体の向きを変えて追撃に来た。

 が、今度はジュンが迎撃する番だ。瞬時に魔力を高めて操り凝縮し、掌の上に燃え盛る火の玉を一つ、作り出す。 

「お前んとこの奴らのと、見た目は同じだが一緒にするなよ!」

 腕を振り回して、ジュンは火の玉を撃ち出した。たった今目の前で見たソウキの踏み込みには劣るものの、それでも常人ではほぼ回避不可能の速さだ。ましてや今、ソウキはジュンに向かって真っ直ぐ疾走している最中。急な軌道変更をすれば、まず間違いなく体勢を崩す。それを防ぐには、大幅に速度を落とさざるを得ない。そこには隙が生まれる。

 あるいはジュンの想像を絶するような、とんでもない高等技術を駆使して、速度を落とさず最小限の動きで紙一重でかわしたとしても、問題ない。

『気絶はするだろうが、尋問に耐えられるぐらいの体力は残してやるよ』

 ジュンは右手の、指の先を脱力して重ね合わせた。ここからパチンと鳴らしてやれば、その音と同時に火の玉は爆発する。ソウキの高等回避技術が紙一重であればあるほど、至近距離でその爆発を喰らってしまうというわけだ。

 火の玉が飛ぶ。ソウキに向かっていく。ソウキは走る。一直線に走る。進路を変更する様子はない。一切無い。速度を緩めることなく、走る走る。

 ソウキの目の前、手を伸ばせば、いや伸ばさなくても届く場所まで火の玉が達してから、ソウキは動かした。足ではなく手、拳を。

「ハアッ!」

 一瞬、ソウキの拳が輝いた。そしてその輝く拳が、ジュンの放った火の玉を叩く。

 ジュンが手元の操作で起爆させるか、あるいは何かにぶつかった場合、この火の玉は爆発する。そういう術だ。今のケースは後者に当たり、拳の接触により火の玉は爆発する。……はずであった。

 が、そうはならなかった。輝く拳に打たれた魔術の火の玉は、さながらガラス細工のように脆く細かく砕け散り、そして霧のように散って消えてしまったのだ。

「何ぃ!?」

 ジュンは目をむいた。あまりにも意外、意表を突かれ過ぎて、体が固まってしまう。

 だが同時に、思い当たることもあった。最初に、極小火の玉を打ち消された時、全く魔術の気配がしなかったのも、今思えばこの術を使用したのではないか。

 などと考えている余裕は無い、ソウキは既に眼前だ。もう逃げることはできない。

 唸りを上げて繰り出されたソウキの回し蹴りを、ジュンは両腕を交差させてガードする。格闘戦の心得・経験もあるジュンだが、この蹴りは予想を大幅に上回る重さだった。

「ぐぁっ……!」

 二階から落とされたベッドを受け止めたらこんなもんか、と思うほどの衝撃が、ジュンの両腕を襲う。そこに、痺れと熱さが発生した。思うように動かせない、感覚がろくに行き渡らない、そのくせ熱だけが元気良くどんどん生まれ、腕の骨の髄から腕の外へと放射されていく。まるで腕が暖炉になったようだ。

 そこへ、ソウキは更なる打撃を加えんと襲って来る。

「命までは取らない! けど、二度と僕らの邪魔をしようなどと思わないよう、徹底的に痛めつけさせてもら……っ?」

 ソウキが急に動きを止めた。のみならず片膝をついて、息を荒くしている。全く唐突に。 

 何が起こったのか、すぐ目の前で見ていたジュンにもさっぱり解らない。離れて見ているカズートスも同様らしく、困惑している(それでも助けには来ないようだ)。

 だが当のソウキだけは、表情を歪めながらも自分の状態について見当をつけていた。

「これは……まさか、僕に気づかれずに……だが、そうとしか……あ、あの尼僧……っ!」

「え? 尼僧って」

 そう言われて、ジュンに思い浮かぶ人物は一人しかいない。

 はたして、片膝をつくソウキの後方から、その人物が歩いてきた。黒い僧衣に身を包み、手には長い杖を持って、しずしずと。


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