3 田中の日常
何故俺はこんなことをしているのだろうか。
せっせと風圧により飛ばされたゴミを集める。
ゴミと言ってもどうやら普通のゴミではないらしい。
パッと見た感じは塵や何かの燃えカス、プラスチックゴミなどに見えるが、普通の人には見えないようで。はたまた何故俺は見えるのかは謎であるが。
放っておくと後で本当にめんどくさいことになるそうなのでこうやって出たすぐに拾い集めているわけだ。
傍から見ればボランティアの人か何かである。まあ、間違いではないけど。
俺、田中翔平。たぶん何処にでもいる高校2年生。
去年同じクラスだった子が少し気になっていたのだが、なんと彼氏持ちだということがついこの間発覚してまだ傷心中の俺だ。
容姿も成績も平凡。良いところと言ったらアホみたいに運動ばっかしているからか元気がありあまりすぎて、クラスのムードメーカーだということだろうか。自分で言うくらいなので本当に大したことない。
が、ある日を境にそんなドがいくつもつくような平凡男子高校生、田中翔平に平凡とは程遠いまさに美の権化であるような人達と接することが増えた。
今俺を好きなように扱き使っている表裏の顔を持つ腹黒男(ただ男の俺でも目が潰れそうなほどの顔力を持っている)社凛人と、もう超清楚、美人、男子全員の理想を具現化した人と言っても過言ではない美少女、神楽綾さんの二人。
同じ人間だということとクラスメイトという以外に共通点などあるのだろうかと思うほど。しかしその同じ人間であるという項目は覆されようとしているが……ま、そこはいいだろう。
ひょんなことからこうして一緒に仕事? ほぼ雑用だが、、をすることになったのだ。
始まってから1時間くらいがたった。目の前の二人が先程からやっているゴミをペッとほっている作業が終わる。
「んんん……!! これで一通りは終わったかな。あとはあいつに連絡入れるだけだな。これで当分は仕事ないはず」
「そうだね。結構疲れるからあんまりやりたくないんだけど……。私達って休憩目的で日本に連れてきてもらったんじゃなかったっけ? あ、田中くん今日も手伝いありがとう」
こうしたよくわからない会話を聞くのも慣れたものだ。本人たちは他の人たちの前では隠しているみたいだけど、俺の前では諦めたらしい。打ち解けられたと喜んでいいのか、田中だからいいかと思われていると考えて悲しんでいいのかよく分からないのが正直なところ。
「そういやこの集めたゴミはどうしてんだ? 普通にゴミ箱とかに捨ててるわけでもなさそうだが……」
純粋な疑問である。一応ゴミ袋には詰められていることが俺等には分かるが、他の人が見てもただの空気が入った袋にしか見えないらしい。だから業者は回収してくれないと思ったのだ。そもそもほっとくと危ないゴミを公共の収集車に回収させてもいいのかという話なのだが。
「ああ、あいつに押し付けるんだよ。一応あいつの仕事を俺達が手伝ってやってるだけなんだから。少しは仕事しろ」
「あいつって?」
「あれ? 言ってなかったっけ。神様のこと。この世界のな」
いやいやいや。初耳すぎるんだが。ていうか神様って存在するんだ。いやいや、神の存在を否定しているわけでは決してないのだけれど、ラノベの中だけの存在だと思っていた。こうやってさも当たり前のように言われると混乱する。
しかも何だよこの世界のって。他にも神様いるのかい。てか他の世界がそもそもあるのかい。
ツッコミどころが多すぎる。もういいや、ツッコむの。
「まあ詳しいことはいいでしょう。たぶん田中くん、これから私達といる機会増えるからそのうち神様とも会うことになるよ」
あ、俺神様と会えるんだ。もっと非日常に近づいてんな。
ていうか普通は精神異常者だぞ。こんなことをなんの気なく言ってるのって。だがまあ俺は見てしまったから否定できないし、凛人と綾さんが言ってることは全部本当なんだって分かるけど。
「さて、一通り作業も終わったし、田中くん。今日家でご飯食べてく? 凛人に何か教えてもらう予定なんでしょ? 田中くんの家が大丈夫なら家はいつまででも大丈夫だよ」
「え、マジで!? じゃあお邪魔させてもらおう。家もたぶん補導されるまで遅くならなかったらいつでも大丈夫だと思うし」
これもびっくりなんだが凛人と綾さんは一緒に住んでいるらしい。もう夫婦と言っても過言ではないし、何なら熟練夫婦の雰囲気を感じる。
お互いファンが多いからこれ知ったらなく人多いだろうなー。ま、たぶん誰も文句言えないだろうけど。
そんなことを考えながら凛人と綾さんの家へお邪魔させてもらう。一応親には夜ご飯はいらないとだけ連絡しておこう。
これが俺、田中翔平の日常(非日常ではあるが、すでに日常と化してしまっている)である。
唯一常識人の田中くん。
私の一番好きなキャラ。