第9話
「すみません。少し遅くなりました……って、あれ?まだシャルさんだけですか?」
パタパタと急ぎ足でゆきは集合場所へ向かうも、そこにはシャルルしかまだ居なかった。
これから冒険の始まり。楽しい楽しい狩りの時間のはずなのに。
「あら?ゆき、連絡したのだけれど?あぁ、遅れを取り戻そうと慌てて見てないのね。
ミクがもう少し遅れるみたいよ?後、十分程じゃないかしら。」
「そうだったのですね。
すみません。いつも連絡係を率先してくれて……。」
「良いのよ。私はこの時間なら余裕があるから。
それに、私が一番乗りでもないからね。」
シャルルはココに居ない男組を思い、微笑んだ。
「では、リーダーと右京さんは……」
「ええ。いつものアレよ。」
シャルル達がログインしているこのダイブ型VRゲーム……他も同じだが、特に最近のダイブ型VRゲームはほとんとが自身の能力に依存している。
ログインする対象者の体の運動・反射能力、脳の反応速度など、全てが現実を基に反映されていた。
その上で、若干のステータス上昇効果、スキルによるサポート、設定による様々な状態変化を可能としていた。対象者の現実能力にかけ離れない程度だが。
しかし、その程度がほんの少しだけだったとしても、違いがある。
現実で体を動かす時と、ダイブして体を動かす時に、明確な差が出るのだ。
モンスターと戦うようなRPGで、この差をしっかり把握しないと全く話にならなかった。
だから、マックスと右京は集合時間よりも早めにログインして、ゲーム上での動作に慣れる為の準備をしていたのだった。
これは何もマックス達が特別ではなく、誰もがやっていることだった。
「私達は後衛ですからそこまで活発に動きませんが、リーダーや右京さんは前衛の近接系ですからね。」
「リアルでは『女は準備に時間がかかる。』なんて言われているけど、ココでは真逆で良い気味だわ。
とは言え、右京は少し早すぎると思うわね。」
「一般的にはリーダーの十五分程度ですよね。確か右京さんは三十分以上も時間をかけているのでしたっけ?」
「そうね。マックスが言うには、ただでさえ人よりも長い慣らしが終わったとしても、更にストレッチが始まるみたいだわ。
仕方が無いわね。顔も体型すらも全然違う見た目にしているのだもの。
それに年齢もあるから、いきなり戦闘……急に動くのは、とても怖いでしょうね。」
「確か遊び終わってから、右京さんが一番先にログアウトするのも、リアルで同じことをしているからと聞きました。」
「当然よね。リアルからゲームでそこまで差を感じるなら、ゲームからリアルも一緒よ。
ホント、なんて面倒な見た目にしちゃったのかしらね。」
「フフッ。でもそのお陰で少しずつ痩せてきたと喜んでましたから、良いのではないでしょうか?」
「ほぼ毎日ゲーム終わりに、みっちりストレッチしてれば、絶対に痩せるでしょ。
ま、年齢だけはどうしようもないのだけれどね。」
「フフッ。それは言わないであげてください。」
「ウフフッ。楽しいから勿論言わないわよ?」
「ええ。私も本当に楽しいです。」
シャルルとゆきは本当に楽しそうに笑い、会話を弾ませた。
遅れてくるミク、そしてミクが来るだろう時間の少し前に準備を終わらせたマックスと右京が合流するまで。