第8話
「右京さん。最近、体の調子が良くなっていませんか?」
ヒーラーのゆきが、まるで病院の先生?看護師?のように言った。
心当たりの無い右京が首をかしげていると、ゆきは寂しそうに笑った。
「フフッ。癖が抜けただけかもしれませんが、無くなるということは現実でも影響が出ていると思いますよ。」
右京には意味が分からなかったが、他の仲間は理解した。
「あぁ、アレか。」
「そういえば、最近やらなくなったわね。」
「やる……?一体、何のことだ?」
「フフッ。以前の右京さんは、走ると必ず『フゥ、フゥ』や『ヒィ、ヒィ』と声が漏れていましたよ?
調べてみたら、余分な脂肪が肺などの内臓にも影響を及ぼすのですね。
それに弾むお肉の重みに引っ張られて、強制的に呼吸音が大きくなったり、漏れてしまうみたいですね。」
ゆきは言葉を選んだつもりだったが、選びきれていなかった。
『現実の右京さんは太っているのでしょ?』
どう捉えても、そう言っていた。
驚きを隠せず、言葉すらも出なかった右京だったが、周りは違う。先ほど理解したように、死体蹴りし始めた。
「走り方も、なんだかとても重そうだものね。」
「足が上がっていないのが原因だろうな。」
「ウキョ。腕を振って、膝ももっと曲げるといいよ!あっ、でも余計疲れちゃう?」
助け船は欠航していた。
「だが、最近は声が漏れなくなったんだ。ということはリアルで改善されてるんじゃないか?」
「ええ。私もそう思いました。もうあの声が聴けないのかと思うと少し寂しいですが、右京さんの体にとっては良いことですからね。」
流れはもう変わらないのかと右京でさえ思った時、事態は思わぬ方向へ進んだ。
「そうだな。しかし、余分な肉が多いと動くのも大変だろうな……」
マックスはすらりとした右京の腹を見ながら、リアルな右京の姿を妄想した。
そして、ふと何かに気づいてしまったマックスは虎の尾を踏んだ。
「ん?余分な肉……?」
マックスはなんともなしに、右京の腹からシャルルの豊満な胸へ、視線を変えてしまった。
「マックスゥゥ!!」
「やっべぇ!」
「何がやばいのか言ってみなさいよ?マックス。ねぇ?ねぇ?ねぇ!?」
「いや、まだ何も言ってない!」
「『まだ』ですって?言いたいことがあるのね?ほら、言ってみなさい!ほら?ほら?ホラァァ~!?」
マックスの失言により、シャルルの説教という名の拷問へと移行し、右京のデブ疑惑はうやむやになった。
おっさん疑惑は頑なに否定する右京だが、デブ疑惑はさほど隠していなかったようで、後日検診を受けた時の数値が軒並み良くなったとウキウキ顔でゆきへ報告していた。