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第1話 出会い

「ミラくん、ここがその、えっと……。そうそれ! リバーサイド! 大丈夫、それくらいのこと忘れてないよ!」


 道行く人のほとんどは、街の門前で立ち止まってそんなことを言っている少年を連れ合いと話しているのだろうと気にも留めていなかったが、勘のいい者は、少年と話をする相手の声が聞こえていないことに気が付き、彼の方を振り向いた。


 少年は、ぼろぼろのローブを頭から被り、背中にはその体に釣り合わないほど大きな大剣を背負っていた。その異様な出で立ちを見て、振り向いた者は目を丸くした。門を通る人がほとんど通り過ぎ、少年一人になっても、誰かと会話するような口調で話し続けていた。流石に周りの人たちも少年の異様さに気が付き始めた。


「いやいやミラくん。そもそも君は僕を……って、あ! そうだね!」


 周りからの奇異の視線に気が付いたのか、辺りをキョロキョロと見回すと門衛に通行料を慌てて払い、門を通過した。



 少年は目を輝かせながらリバーサイドの街の街道を歩く。確かにこの街は美しい川のほとりに作られた街で、川辺は観光地になるほどの景色が広がっているのだが、ここは街道。目を輝かせて歩くようなものなど無い。実際そんな目で歩く者など少年以外には居なかった。


 そんな少年にガラの悪い男が近づいてきた。肩がぶつかりそうになるところを少年は避けたつもりだったが、男の方からぶつかってきた。


「あ……、ごめんなさい」

「ごめんじゃねェよ! お前今、肩ぶつけてきただろ」

「え? でも、ぶつかってきたのはお兄さんの方……」

「何だと? 言いがかりつけるのかよ? ……とりあえず、こっち来い」


 街道の真ん中だと目立つと思ったのか、男は辺りを見回すと近くの路地裏の方へ少年を引っ張って連れ込んだ。そこは小綺麗な表通りに比べ、高い建物の間にあるからか薄暗く男が蓋をするように表通りの側へ立つと男が影になり、少年の姿は街道の方から見えなくなってしまった。


「な、何ですか? こんな所に連れ込んで……。え! ミラくん! こんな時にそういう冗談はやめてよ! ……冗談だよね?」

「あ? 誰と話してやがる。いや、待てよ」


 この世界には言葉を話す武器があるという噂を男は聞いたことがあった。何でも、とても希少な素材で作られているらしく、その素材のおかげで喋るらしい。使い手を選ぶとも聞いたことがある。自分に声が聞こえないのはそのためか、と考えるもこんなガキが武器に選ばれて自分はそうでないということかと腹立たしく感じた。


「おいガキ、その背中の大剣は喋る武器ってやつか? そいつと話してンのか?」


「え? はい。そうですけど……。ミラジェンくんって言うんですよ」


 えへへ……。と照れくさそうに笑う少年を見て男は呆れた。どうやら自分が今どういう立場にいるのかが分かっていないらしい。少年が背負う大剣の柄を持つと、取り上げた。剣は大きさもあるのか、素材のせいか見た目よりも重く、こんなガキがよくこんなものを背負えるなと思った。


「あ! 何するんです! ミラくんを返してください!」

「慰謝料だよ。この剣が本当に喋る武器なら高値で売れるだろ?」

「ええ! ミラくんを売るだなんて、そんなことはやめてください!」

「それとも力づくで取り返すか?」


 剣はこちらの手にあり、体格差もある自分に少年が挑んでくるとは男は思っていない。万が一挑んできたとしても負けることはないと男は思っている。


「そ、そうだ! ミラくんと離れるくらいなら、僕も一緒に売っていいですから……。ミラくんと離さないでください……」

「……は?」


 なんだこいつはと男は思った。あきらめてこの場を去るなり、自分にしがみつくなりするのなら分かる。そうでないにしろ、挑んでくるのはまだ分かる。だが、自分も一緒に売ってくれなどと言うとは思いもしなかった。


 確かにこの国には奴隷制度があり、自らを売りに出すことも、その金を指定した人間に渡すこともできる。だがそれを見ず知らずの人間に?と考えたところであることが思い浮かんだ。


「さてはお前食い扶持に困っているな?」


 奴隷は基本的に最低限の生活は保障されている。食い扶持に困って奴隷に身を落とすもの、それを嫌って盗賊になるものがいることを男は知っていた。


「はい、確かにお金はあまり無いですけど……え? そういうことじゃない? じゃあどういうこと? ミラくん」

「いちいちこいつと会話するんじゃねえ! いいか? お前がその気ならこの剣ごと奴隷商に売ってやってもいい。だから余計なことは言うなよ?」

「余計なことって何ですか?」

「この剣と無駄に話したり、俺が奴隷商と交渉している時に口をはさむなって事だ。分かったか?」

「それでミラくんと離れないで済むなら……分かりました!」


 こうして男はこの得体の知れない少年を連れて行くことになった。これくらいの少年を売れば少なくともお気に入りの女の子のいる店で遊べるなくらいにしか考えてなかった。

なろうに向けて初めて書きました。感想などあればお待ちしています。

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