99.山猫のミーシャ
神聖皇国の聖騎士リューウェンから、バディとなる女の子を探してと依頼された。
妹のフェリサの耳を使って、俺たちは目的の人物だろう少女を見つけた。
……だが、その子は商店の店先で問題を起こしていた。
「こらぁ……! 降りてきなさい!」
「へっ! やーなこった!」
店主が店の天井を見上げている。
そこには、赤い髪をした女の子がいた。
ボサボサの赤い髪をポニーテールにしている。
服装はシャツに短パンとかなりラフな格好だ。
首からぶらさげている、十字架に蛇のペンダントから、リューウェンのおっさんの仲間だと思う。
「店主さん、何かあったんですか?」
「おお! 軍人さんですか!」
帝国軍の軍服を見た店主が、俺に安堵の表情を見せる。
トラブっているのは確かだな。
「あの女がうちのリンゴを勝手にとって、食い逃げしようとしたんです!」
「あの赤い髪の子が……?」
女の子の片手にはリンゴが握られている。がしがし、と豪快に食べていく様は、とても女の子とは思えん。
「こらぁ! だから食べるな!」
「うるっせ! 外に置いてあったんだろ、なら別にたべてもいいんだろ?」
「よくない! 金払え!」
「はぁ!? 金なんてもってねーーし! なんであたしが払わないといけないんだし!」
どうにも金銭でのやりとりが身についていない様子。
俺も昔、王都に初めてきたときは驚いたな。
田舎だとまだ物々交換が主流な地域があるし。
しかしここは帝都。金がないやつが食べ物を勝手に食べたら、それは犯罪となる。
犯罪者を取り締まるのも、帝国軍人の仕事だ。
俺は皇帝陛下から安くない給料をもらっている。
相手が女の子で、ちょっと心苦しいけれど、任務はこなさないとだからな。
「そこの君、降りてきなさい」
「へんっ! やーだねっ!」
「抵抗するなら、発砲も辞さないぞ」
「はん! やってみろーってんだ!」
ぐぐっ、と女の子が身をかがめると、一瞬で、跳ぶ。
「き、消えた!?」
店主が驚いている。だが別に消えたわけじゃない。
敵(俺たち)の死角となるほうへ、跳躍したのだ。それがかなり早かったから、消えたように見えたのである。
……野生動物の動きだ、これは。相手の死角を突いてくる。
だが……。
ドサッ……!
「なっ!? 消えた女の子が、地面に落ちてきた!?」
「う、うごけ……ねえ……」
女の子が体をびくびくとけいれんさせている。
「ぐ、軍人さん……一体何を……?」
「麻酔矢です」
「いやだとしても、いつの間に……」
跳んで逃げた瞬間、錬金武装を展開して、蜂の矢を撃っただけだ。
「す、すごい早撃ちですね……さすが帝国軍人!」
「…………」んふー!
妹のフェリサがすごい得意げだった。俺が褒められてうれしいらしい。優しい子だな、ほんと。
フェリサの頭をなでつつ、俺は眼下の女の子を見下ろす。
「さて……と」
倒れ伏す女の子が俺をにらんでくる。
「ち、くしょぉ~……ハンターだな、おまぇえ……」
「え、ああ。よくわかったな」
「あたし……ハンター、嫌い。だいっきらい!」
ぐぐ、と無理矢理体を起こしてきた。
蜂の矢を、まともにくらったのに動けている。
こいつ……かなりやるな。
「ママを……ハンターは、ママを……だから……!」
「ミーシャ!」
背後から、すごい大きな声で、誰かが名前を呼ぶ。
フェリサがぐわんぐわん、と頭を揺らしている。耳が良い彼女は、今のはこたえただろう。
「リューウェンのおっさん……」
「すまない、ガンマ殿。ミーシャが迷惑をかけたな」