93.妹とお風呂
錬金武装を隊長からもらった、その日の夜。
軍の寮にて。
「ふぅ……」
ここは寮にある風呂場だ。
驚くことに、このマデューカス帝国の軍人寮には、それぞれ個室の風呂がついているのである。
王国の宿屋では、風呂がそもそもついていないのがざらなのに、帝国は独自の風呂技術を開発してるため、どこへ行っても風呂がついてるんだと。
「…………」
風呂につかりながら考えるのは、隊長から言われたこと。
湯船に写る俺の瞳。
「魔蟲族の目……か」
そう言われても俺には違いがわからない。
気づいたらこの目をしていたんだ。
倒すべき敵と、同じ体の構造を持っている。
……だから、なんだと言われても……困る。
俺は別に魔蟲族に家族を殺されたわけでも何でも無い。
駆除の対象でしかない。
……俺が気にしてるのは、たとえ体の一部だったとしても、人間ではないと言われたこと。
みんなとは、仲間はずれだと……言われたこと。それが一番気にしてしまう。
「俺は人間だ……人間、だよな……」
誰かが答えてくれるわけではない。
風呂の水面に映る自分もまた……。
と、そのときだ。
ガラッ!
「…………!」てーん!
「フェリサ!?」
俺の妹……フェリサ・スナイプ。
故郷である人外魔境から最近、帝国に越してきて、一緒の部隊に入った。
……そして、なぜか妹と同じ部屋で暮らしている。
軍人には個室が与えられるというのに、妹がごねたのだ。
「…………!」
ばっ! と妹が全裸でジャンプ&浴槽にだいぶ!
「おま……何やってんだよ……一緒に風呂なんて入って……」
「…………?」
何か問題でも、とばかりに首をかしげるフェリサ。
問題って……。
「……ねえな」
「…………」でしょー。
妹と俺は兄妹なんだし、別に気にする必要も無かった。