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9.【黄昏の竜】の転落



 これはガンマが火山亀を一撃で倒すより、前の出来事。


 ガンマが元いたSランクパーティ【黄昏の竜】。


 そのリーダー、魔法剣士イジワルーは、冒険者ギルドのギルド長から直々に招集を受けていた。


「火山亀の討伐依頼だぁ?」


 ギルド長の前に、ふんぞりかえってすわる男、その名もイジワルー。

 長い金髪に、派手な鎧。鷲鼻に、意地の悪そうな目つき。


「その通りだ、イジワルー。ほかの冒険者から報告を受けた。王都からは少し離れるが、森で火山亀を……」


「おっとぉ、ギルド長さんよぉ?」

「なんだ?」


「イジワルー、さん、だろぉ?」


 ……完全に調子に乗っているイジワルー。

 ぴくっ、とギルド長がいらだったようにこめかみを動かす。


「……話の腰を折るな。緊急のクエストなのだぞ」

「だからなんですかぁ? 人に敬意を払えないようなやつの頼みは聞けないなぁ?」


 ぐっ……とギルド長が歯がみする。

 イジワルーのほうが年下である。

 だが彼の方が実績がある。

 たくさんの難敵を撃破してきた、という実績が。


「ここでおれの機嫌を損ねていいのかなぁ? 今、王都にいる最強の冒険者はだれだ? そう! このおれだよなぁ?」


「…………」


「あーあー、なーんかやる気失せるなぁ。かえっちまおっかなぁ?」


 ギルド長はぐっと歯がみする。こんな態度の悪いガキになぜ頭を下げねばならないのかと。


 だが今王都に住む人たちの命は、イジワルーにかかっているといえる。


 タイミングの悪いことに、今夜は国王主催のパーティが開かれる。

 各国から要人が王都に集まってくる。


 そんなときを【狙ったかのように】、凶悪なモンスターの出現。

 ここで対処できなければ、諸外国にまで被害が及ぶ。

 王国のメンツも丸つぶれだ。


「……お願いします、イジワルーさん。どうか、お助けくださいませ」


 深々と、ギルド長が頭を下げる。

 その様子に自尊心を満たされたのか、イジワルーは満足そうにうなずく。


「しっかたねえなぁ! 受けてやってもいいぜぇ? ま、もっともぉ? 報酬ははずんでもらうぜぇ? たんまりとなぁ!」


「……わかっている。だが金を払う以上、必ず火山亀を討伐してきてくれ。失敗は許されんぞ」


 イジワルーの眉間にしわが寄る。

 ぶべっ、とギルド長に向かって彼はつばを吐いた。


 ありえない暴挙であるが、彼は自分がこんな態度をとってもいいことを知っている。

 知ってる上で、横柄な態度をとる。


「うっせーたこ! 誰に物言ってるんだ? 天下のイジワルーさまが、Sランクモンスターごときに後れを取る分けねえだろぼけが!」


 イジワルーがそう言うと、後ろで控えていた取り巻き(パーティメンバー)たちが、「そうだそうだ」と追従笑いを浮かべる。


「亀ごときおれが余裕でぶっ殺してきてやんよ。失敗なんてありえない。てめえはちゃっちゃと報酬用意しておけよおっさん」


 そう、自信満々にイジワルーが答えるのだった。


    ★


 イジワルーたちは王都を出て、近郊の森へと向かった。


 だが……。


「ぜえ……はあ……ぜえ……な、なんだ? どうなってるんだぁ……? 今日は異様に、雑魚敵と遭遇しやがる……」


 イジワルーは異常事態に首をかしげていた。

 スライム、ゴブリン、白狼そのほか諸々……。


 街道を歩いていると、【次から次へ】、【異様なくらい】、モンスターと遭遇したのだ。


 そのたびに全部戦ってきた彼ら。

 というより主にイジワルー。


 彼は自分が目立つために、自分が倒すといって、無駄な戦いを繰り返していた。

 結果、彼は無駄な力を使いすぎて、かなり体力を消耗していた。


「くっそ……こんなに体力使う冒険は初めてだぜ……」


 それは当然だ。

 雑魚は全部、ガンマによって、出会う前に倒されてきたのだ。


 彼の陰ながらの支援があったからこそ、体力を温存できていた。

 ……しかし、今はもう彼がいない。


「イジワルーさん。もしかして……ガンマがいなくなったからじゃないですか?」


「ああ!? てめ口答えする気か!?」


「い、いえ……! ただ……ガンマがいなくなった日を境に、急にモンスターと戦う回数が増えた気がしたので……」


 ガンマ追放から今日まで、ほかにも依頼を受けていた。


 イジワルーは気づいていなかったようだが、仲間のひとりは、戦闘回数の増加に疑問を覚えてたようである。


 それが、今回のことと加わり、ガンマがいなくなったから雑魚戦が増えたという結論に至ったのだ。しかし……。


「うるせえ! 今日はたまたまだ! 別にガンマの野郎がいようがいまいが、関係ないんだよ!」


 仲間を罵倒し、殴り飛ばす。

 殴られた彼は頭を下げる。


「今度口答えしたらてめえも追放だぞ!」


 と、そのときだった。


「イジワルーさん! あれを! 火山亀です!」


 森の中を動く巨大な何かを見かけた。

 最初は山かと、勘違いした。だがそれは動く巨大な亀だったのだ。


 仲間たちは巨大な敵を前に完全に萎縮していた。


「はっ! びびってんじゃねえよてめえら。おれがいる……この最強魔法剣士イジワルー様がいりゃ、どんな敵も楽勝よ!」


「そ、そうだ!」「ぼくらにはイジワルーさんがいる!」「頼みます、イジワルーさん!」


「はっ! 見とけよ雑魚ども! おれの華麗なる剣を……ぶべええ!」


 ペラペラとくっちゃべっていると、大木が落ちてきて、イジワルーに落下したのだ。


 火山亀が一歩足を踏み出した衝撃で、森の木々が吹き飛ばされていたのだ。


 その一つが自由落下してきたのである。


「いっつぅ……!」

「だ、大丈夫ですかイジワルーさん!?」

 

 魔力で体を強化していたので、イジワルーの体には大ダメージが入らなかった。

 とはいえ……。


「馬鹿野郎! なんで言わない! 何かが落ちてくるとか、アブねえとかって!」


「いやおれたちも気づいてなかったし……」


「言い訳するな! くそ! おれがこんな初歩的なミスするなんて……生まれて初めてだぞくそ……!」


 だが、それは間違いだ。

 本当は今まで、同じようなイージーミスは起こっていたのだ。


 たとえば、崖上から岩が落下してきたとき。


 イジワルーはそのときもおしゃべりしてて気づかなかったが、ガンマがそれにいち早く気づき、狙撃で対処していたのである。


 脇の甘いイジワルーを、陰からサポートしていたのは、ガンマ。


 そのことにイジワルーは全く気づいていない。


「ちっ……! 出鼻くじかれちまった!」


 イジワルーは大木を手でどける。

 魔力で強化した腕力なら、大木くらい簡単に持ち上げられるのだ。


「だが……ショーはこれからだ! くらぇ!」


 イジワルーは魔法剣を片手に、火山亀へと特攻。


「ちぇえすとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 大上段からの、大ぶりな一撃。


 だが……。


 がきぃいん!


「なっ!? そんな馬鹿なぁ!? お、おれの無敵の魔法剣が通じないだとぉお!」


 イジワルーの攻撃は火山亀の足をきりつけたつもりだったのだが、外皮にはじかれてしまったのである。


「なんでだよ! こんな……くそ! くそ!」


 かんかんかんっ! と魔法剣で火山亀の外皮を斬りかかるが、全部はじかれる。

 ……だが、これにも理由があった。


「お、おいバフ! 支援魔法はどうした!? いつもかけてるだろ!?」


 イジワルーが仲間の魔法使いに、そういう。


 支援魔法。文字通り、かけた相手の腕力や素早さを向上させる補助魔法だ。


 しかし……。


「な、何言ってるんですか……? 支援魔法なんてぼく、使えないですよ?」


「はぁああああああああ!? んだよそれぇえええええ!?」


 イジワルーは、てっきり仲間の魔法使いが支援魔法を使ってるのだと思っていた。


 何も言わずとも、優秀な魔法使いは、リーダーである自分にバフをかけていたと。


 彼はワンマンで、しかも自分が目立つこと、自分の功績しか興味なかった。


 だから、仲間がどんな力を持っているのか、知らなかったのだ。

 支援されても感謝しないし、その情報を仲間内で共有することもない。だから、今回のような認識の齟齬が起きたのである。


「じゃ、じゃあ……おれにバフかけてたのは、一体だれなんだよ!?」


「さ、さあ……?」「も、もしかして……ガンマじゃね?」


 仲間の一人が気づく。

 魔法使い以外は、支援魔法はおろか、初歩の魔法すら使えない。


 だとすれば、もう消去法でガンマしか残っていないのだ。


 ……正解である。ガンマは支援魔法が使える。


 正確に言えば、【力の矢(パワー・ショット)】。魔法矢の一つだ。


 矢を当てた相手を支援し、力を向上させる能力を持つ。


 確かにガンマは、イジワルーの言いつけを守り、彼が敵を倒す邪魔はしてこなかった。


 だが、何もせずぼうっとしていたのではない。魔法矢での支援を、行っていたのである。


「ふ、ふざけんな! ガンマがそんな器用なまねできるわけ……」


「イジワルーさん! 前! 前!」


 ぐぉ……! と火山亀の巨大な足が、イジワルーめがけて近づいてくる。


 火山亀の蹴りが、見事に、イジワルーの体に激突。


「ほぎゃぁああああああああああああ!」


 まるでピンボールのように吹っ飛んでいくイジワルー。


 くるくると空を舞って、ぐしゃりと顔から撃墜。


「ひいぃ……いてえ……いてぇえよぉお……」


 全身を強打したイジワルーは、無様に地面に這いつくばる。


 仲間たちは絶望していた。自分たちの絶対的エースが、今まで負けなしのリーダーが、あっさりとやられていたのだ。


 イジワルーのワンマンチームである黄昏の竜に、火山亀と対抗できるものはいない。


 彼がやられたら終わり。そういうチームなのだ。


「お、おしまいだ……」「イジワルーさんでも太刀打ちできないなんて……」「もう……おわった……」


 火山亀が足を持ち上げて、イジワルーを踏み潰そうとする。


「ひぎぃいいいい! 助けてぇえええええええええええええええええ!」


 と、そのときだ。


 ごぉお……! とすさまじい勢いで、熱線が通り過ぎたのは。


 それは遠く離れた場所から放たれた、ガンマの魔法矢【竜の矢(レーザー・ショット)】。


 レーザーの矢は森の木々を、そして一直線上にいた火山亀の硬い体を、貫いたのだ。


 一瞬の静寂の後、火山亀があっさりと倒れる。


 イジワルーは呆然と、死体となった火山亀を見つめる。


「な、んだ……なにが、起きた? 誰かが、やったのか? これ……誰、が……?」


 周囲を見渡すも、しかし倒した人間の姿は見えない。


 どれだけ待っても、討伐者がこちらにやってこない。


 そんな中で、仲間がぽつりと言う。


「まさか……ガンマ?」

「なんで、そうなるんだよ!」


「いや……だって、こいつ倒したやつが、全然姿現さないじゃないですか……」


「やったのがほかの冒険者かもしれないだろ!?」

「だったらなおさら、おかしいですよ。おれら冒険者は、倒した証に、モンスターの一部を回収するじゃないですか?」


 確かにそうだった。


 倒したのに、討伐の証がなければクエスト達成とならない。


 となると冒険者じゃない。では誰が……と考えたとき、彼らの脳裏に、天啓の如く、ガンマの姿がよぎったのだ。


「ば、馬鹿言うな! あ、ああ、あいつがこんな……こんなこと、できるわけねえだろぉおお!」


 イジワルーは認めなかった。否、認めたくなかった。


 火山亀。自分が全く刃がたたなかった相手を、易々と、一撃で倒したのが……。

 自分が無能と断じて、追放した男なんて……。


「認められるわけないだろ! くそ! くそぉおお!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王道のざまぁ!
[気になる点] ひらがな多すぎません?逆にちょっとよみづらいというか・・・
[気になる点] たまにあるよね。主人公が過保護な能力持ってるせいでざまぁされる側の成長阻害したからこうなったんじゃねって作品。主人公に出会ったせいで不幸になっててざまぁって言えないやつ あと起用な真…
2022/08/11 12:54 退会済み
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