80.快気祝い
メイベルとデートの約束を取り付けた……。
退院し、俺は軍の寮へと戻る。
「……デート、か」
考えてみれば、今日までそんなことしたことなかった。
学園時代は魔法矢を鍛えるので夢中だったし、冒険者になってからはそんな暇なかった。
けれど、今は違う。
ある程度生活に余裕ができた。金銭的にも、時間的にも。
なら……なら、次を考えないといけないのか?
つまり、結婚……とか。
「……飛躍しすぎか」
俺の部屋まで戻ってきた。
人外魔境いってから今日まで、結構な間、部屋を使っていなかったな。
帝都に戻ってきてからは入院していたわけだし。
だから……すごい懐かしい……。
「…………」
俺はドアノブに触れて、ドアを押す。
だが中には入らない……。
パンパンパン!
「「ガンマ君退院おめでー……あれ?」」
部屋の中にはオスカー、そしてマリク隊長がいた。
クラッカーを持って、出入り口に向かって発射していた。
けれど俺が中に入らなかったので、空砲に終わる。
そのまま入ってたらクラッカーから出てきた紙吹雪をもろに受けていただろう。
「おいおい我が友ガンマよ。なぜよけてしまうのだい?」
このきざったらしい男が、俺の同僚、オスカー・ワイルダー。
二丁拳銃の使い手で、こないだの戦いの時にはガンランスという珍しい武器を持っていた。近接戦闘のスペシャリストである。
「あのまま入ってたら髪に紙がくっついてたろ」
「お、紙と髪をかけただじゃれか~? 親父ギャグ言うやつはもてねーぞぉ」
オスカーの肩に止まってるリス、これがうちの部隊の隊長……マリク・ウォールナットさんだ。
見た目完全にリスなのだが、しゃべる。なぜか。
「親父ギャグじゃあありません」
「なんでえ。というかおまえさん、どうして中に人が居るって気づいたんだ?」
「微妙にドアノブが下がってたので」
ここのドアノブ、一度下げると、元通りにもどらないのである。
だから出掛けるときは毎回上まで戻していた。
けれど帰宅したら、下がっていた。だから誰か入ってると思ったのだ。
「相変わらず君は目が良いね」
「狩人だからな。それで、あんたらは俺の部屋で何をやってるんだ?」
にやっ、とオスカーたちが笑うと……。
「「快気祝い!」」