表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/242

8.初仕事、護衛任務



 帝国軍の部隊、胡桃くるみ隊に入隊した俺。


 翌日、俺は胡桃くるみ隊の詰め所へと訪れていた。


「おーう、ガンマ。早いじゃあねえか」

「マリク隊長。おはようございます」


 壁際には、1匹のリスが座っている。

 この人が胡桃くるみ隊の隊長、マリク・ウォールナット隊長だ。


 サングラスをかけたリスが、テーブル上に広げていた新聞から目を上げて、にかっと笑う。


「軍服、似合ってるぜ。サイズはどうだ?」


「はい、ばっちしでした。寮といい、隊服といい、用意してくれてありがとうございます」


「気にするな。それらは軍人ならもらって当然の権利だ。いちいち礼なんていらねえよ」


 俺が袖を通しているのは、濃いめの青色の軍服だ。


 ズボンにジャケット。黒い軍靴。

 そして黒いコートというもの。


「もっと着崩しても、アレンジしてもいいんだぜ?」


「そういえばメイベルもシャーロットさんも、それぞれ色違いのマントだったり、少し改造してたりしますよね」


 メイベルは赤いマント、シャーロットさんはスカートにタイツを着てる(女子はズボンとスカートどちらでもいいらしい)。


 ちなみに、我が隊の隊長は、ジャケット+マント、そして軍帽という格好だ。


 ……これ、下半身まるだし……いや、深く考えるのはやめとこ。


「ほかの連中が来るまでまだちょい時間があるな」


「え、今8時ですけど」


「うちは出勤9時だ。まあ1時間くらいの遅刻はOKとしてる。実質10時スタートだな」


「おそ……。朝そんなゆっくりでいいんですね」


「おうよ。ちゃんと伝えてなくって悪かったな」


 しかし9時出勤、遅刻オッケーって……。

 最高じゃないか。朝ゆっくりできるのうれしすぎる。


 前の職場だと、遅刻厳禁。誰よりも早く集合しないといけなかったからなぁ。


「ほかの連中が来る前に、軽く仕事の説明しとくか。まあ、座れや。自分のデスクに」


 胡桃くるみ隊には隊員ごとにデスクが置かれている。


 まだ何も置かれていない、きれいな机だ。


 ぴょんっ、とマリク隊長がデスクの上に乗っかる。


胡桃くるみ隊の仕事を説明するぜ? つっても、うちの仕事は大きく3種類だ。①皇女からの依頼、②住民からの依頼、③討伐任務」


「アルテミスから、住民からの依頼……。討伐っていうのは?」


「ま、文字通り敵の討伐。簡単な【害虫駆除】さ。そこはおいおい説明するよ」


「がいちゅうくじょ……?」


 虫なんて出るんだろうか。

 田舎町って感じじゃないのに。


「①皇女からの依頼は、文字通りアルテミス関連の依頼だな。公務で出かける時の護衛が大半だ」


「皇女のボディガードみたいなもんですかね」


「そうだ。続いて②住民からの依頼。アルテミスは皇族だが、住民からの相談をよく受ける。あいつかわいいし愛想がいいし優しいから、ま、当然っちゃ当然だわな」


 アルテミス様を経由して、住民から来た苦情に対処するって感じだろうか。


「②には帝都の巡回も含まれる。シフト制だ。あとでスケジュールに目を通しておけよ」


「わかりました。……結構、軍人っぽくないですね」


「ま、皇女直属、私設部隊だからな。組織に向かない、細々とした仕事が多いんだよ。例外である③討伐依頼もあるけどな」


 討伐依頼……何を倒すのだろうか。

 単純に考えるとモンスターだろう。

 だがそれなら冒険者がやるだろうし、わざわざ軍人がやる仕事じゃないような……。


「ガンマ、今回の任務は①皇女アルテミスの護衛任務だ。王国で開催されるパーティに彼女が参加する。そこに俺ら胡桃くるみ隊は護衛として全員参加する」


「六人全員で参加ですか?」


「ああ、他国からも大勢参加する大きなパーティだ。当然もめ事は起きるだろう。テロリストがくるかもしれん」


「て、テロリストですか……」


「ま、滅多にないことだからそこまで気張らなくていいが、念のためそういうケースもあることは頭に入れておけよ」


「初仕事でそんな大事絶対起きないでほしいんですが……」


「大丈夫大大丈夫、滅多にないから。こねえってテロリストなんて。だから緊張すんなって」


 だといいんだけど……。


    ★


 朝のミーティングを終えて、俺は初仕事、パーティに参加する皇女の護衛任務につくことになった。


 帝都から、俺が元いた王都へと、馬車に乗って移動する。


 馬車のなかには、アルテミスがいて、その護衛として銃手ガンナーオスカーと軍医リフィル先生がそばについてる。


 残りのメンツは、馬車を囲うようにして付き従う。


「どう、ガンマ? きんちょーしてる?」


「メイベル……。まあ、多少」


 かぽかぽと馬を操ってメイベルが近づいてきた。


 俺たちの乗っているのは、普通の馬じゃない。


 錬金の天才、メイベルが作った魔導人形ゴーレムの馬だ。


 こちらが手綱を握ってあやつらずとも、自動運転してくれるらしい。なんと楽。


「大丈夫! だって、ガンマがいるもん!」


「いや俺がいても、トラブルは起きるだろ?」


 パシュッ。


「でもでも、ガンマがいれば敵の不意打ちぜーんぶ防げるし!」


「そりゃまあ多少目がいいから、不意打ちには気づけるけど……護衛任務なんて初めてだからなぁ」


 パシュッ。パシュッ。


「そうなの? 冒険者時代は護衛とかしなかったの?」


「そうだな。リーダーの方針で目立つ仕事優先しててさ、誰かを守ることに専念する仕事ってやったことなくってさぁ」


 パパパパパパパパパパッ……!


「おいガンマ、なにやってるんだおまえ?」


「あ、マリク隊長」


 気づけば俺の肩の上にリスが座っていた。いつの間に……。


「なんかさっきから変な音しねえか?」


「あ、すみません。うるさかったですか?」


「別にうるさくはないんだが、何の音だ」


「弓での狙撃音です」


 ぽかん……とマリク隊長が口を開く。


「そ、狙撃……? 弓なんて、おまえ撃ってるのか?」


「ええ」


「で、でもこう……弦を弾いて、矢を放つみたいな動作してなくないか?」


「してますよ」


 パシュッ!


「ね?」

「いや、ねって……。そうか。おまえの得意技は早撃ちだったな。銃弾よりも早く矢を撃つんだ。目で追えなくても当然か。やるじゃねえか」


「どうもです」


 やっぱりひとから褒められるとうれしいな。

 メイベルは俺を見てニコニコしている。


「うんうん、ガンマが褒められると、あたしも嬉しい!」

「スカウトしたのおまえだもんな。自分の評価に繋がるだろうし」


「そういうことじゃなくて。あたしはガンマがうれしそうなのが、うれしいの!」


「そ、そうか」


「うん!」


 メイベルの笑顔を見てると、ドキドキした。

 いや、いかんな。うん。向こうは単なる隊員と思ってるのに、俺だけ意識するのはキモイよな。うん、自重しよう。


 そんなこんなあって、その後も馬車は順調に進んでいき、王都にはあっさりと到着した。


「って、ちょっと待てや!!!」


 肩の上のマリク隊長がツッコミを入れてくる。


「めちゃくちゃあっさり到着してるじゃあないか! どうなってるんだ!」


「いや、どうなってるって言われましても……」


「外はモンスターがうろついてるのが当たり前なんだぞ。 馬車での移動とはすなわち、敵との遭遇とイコールだ。だのに! 今日は一度も敵と出会わなかった!」


「まあ、俺が倒してたからな。馬の上から、狙撃して」


「全部?」


「はい、全部。弓を使った狙撃に加えて、俺には【鳳の矢フェニックス・ショット】って言って、自動で敵を迎撃する魔法矢がありますし。射程に入った敵は全部倒しました」


「な、なるほど……改めておまえの狙撃、すごすぎるってことがわかったよ……」


 と、そのときである。


 ずずぅうん……ずずぅうん……と規則正しい地面の揺れが発生する。


「隊長、これ……地震かな?」

「いや、生き物の足音くさいな。ガンマ、鷹の目で見れるか?」


 隊長からの命令で、俺はスキル鷹の目を発動。


 離れたところの景色が俺の脳内に入ってくる。


「確認できました。山のように大きな亀が、王都へと進撃してます」


「火山亀だなそりゃ……Sランクのやっかいな敵だ」


 馬の頭の上で、マリク隊長がううむとうなる。


「早めに対処した方がいいな。みな、集合! これより敵・火山亀を迎撃するぞ」


「いや、必要ないよ。ね、ガンマ?」


 メイベルに言われて、俺はうなずく。

 俺は馬の上にたち、弓を構える。


 ごごお……と赤い光の矢が出現。


「なっ!? なんだよこの高出力の魔力は!」


「【竜の矢(レーザー・ショット)】!」


 矢を放つと同時に、前方めがけて熱線が照射される。


 地面をえぐりながら超スピードで、レーザーの矢が飛んでいく。


 ぼっ……! と矢は火山亀の体の中央をくりぬいた。


 そのまま大きな音を立てて火山亀が倒れる。


「ふぅ……」


 きちんと射線上には誰もいないことは確認してたし、竜の矢による被害もゼロ。

「お、おまえ……何したんだ……今の?」


 隊長が馬の上で腰を抜かしていた。


 俺は彼を手のひらにのせて説明する。


「こっから狙撃して倒しました」


「か、火山亀を? Sランクを、矢の一発で!?」


 俺がうなずいてみせると、隊長は愕然とした表情になる。


 馬車から降りてきたメンツには、メイベルがそのことを説明した。


 皇女アルテミスが微笑むと、俺のそばまでやってきて、頭を下げる。


「ありがとう、ガンマ。あなたのおかげで快適な旅程でした。やはり……あなたは素晴らしい狙撃手ですね」


「いやほんと、たいしたやつだ。すげえよ、ガンマ」


 隊長と皇女、そして隊のみんなからほめられて、俺はうれしかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 精密射撃から対物ライフル、散弾銃みたいなこともできる。加えて戦車砲並みの遠距離攻撃? これで矢の装填が目にも留まらない速さなら死角ゼロじゃないか。 そこらの魔王や勇者よりおっかねえ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ