78.五星将《ペンタゴン》
剛剣のヴィクターは王都の謁見を終えて、部屋を出る。
「…………」
王からの命令。護衛軍たちを、まとめ上げる役目。
正直、かなり気が進まない。
なにせ他の【4人】たちは、護衛軍とは名ばかりで、誰一人として王を守ろうとしないからだ。
「おやおや~。お疲れだねぇ♡ ヴィクター♡」
「……ジョーカー」
そこに、黒いタキシードに身を包んだ、紫色のかみをした男。
ちっ、と舌打ちをするヴィクター。
よりにもよって、一番苦手なやつと顔を合わせてしまった。
ヴィクターはじろりと、ジョーカーをにらみつける。
「ジョーカー。貴様、何をしている? 今日王を守るのは、貴様だろう?」
「いやいや、シフト変わってもらったんですよ♡」
するり、と肩をくんでくるジョーカー。
男とも女とも思えない、見た目。
蟲の面影を全く残しておらず、ともすれば人間にしか見えない。
それもまた、ヴィクターのかんに障る。
蟲としての矜持を持たぬ、この男に。
「他の、五星将たちはどこだ?」
「さぁ~ねえ?」
「……さぁ、ではない。集めろ。五星将、全員をだ」
五星将。それは、ヴィクター、ジョーカーを含めた、五人の魔蟲族たち。
全員が比類なき力を持っている。
王を守る最後の楯であり、剣。
だが問題児ばかりで、誰一人として言うことを聞きやしない。
「どうしてボクが君の言うことを聞かないといけないのかな♡」
微笑みをたたえたままのジョーカー。
笑っていても、しかし、感情が全くうかがえない。
「重要な会議だ。集めろ。30分以内だ」
「そしたらボクとやらせてくれるかい……♡ くく……♡」
ヴィクターがにらみつける。
ごぉ……! と覇気だけで城の床にひびが走る。
「おお、怖い怖い♡ わかったよ、ボクが他の五星将たちを集めてくる。会議室でいいかい?」
「ああ、早くしろ」
「はいはい♡ 愛してるよヴィクター♡」
ひらひらと手を振って、ジョーカーは出て行く。
深く、ヴィクターが息をつく。
今から、ジョーカーを含めた問題児達に命令を下し、王からの命令を守らさなければいけないからだ。