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77.王直属護衛軍



 ガンマが超巨大毒蛾を討伐してから、しばらくたったある日のこと。


 マデューカス帝国の北端に位置する、妖精郷アルフヘイム

 ここは魔蟲たちのねぐらであり、異形の蟲を生む巣でもある。


 護衛軍が一人……剛剣のヴィクターは、彼が仕える王のもとへ馳せ参じていた。


「王よ」

『おお、ヴィクター。久しいな』


 ヴィクター。甲虫を思わせる黒い鎧を着込んだ、武人のようなフォルム。

 かつて存在した魔族に近い見た目をしているが、彼もまた魔蟲族のひとりだ。


 魔蟲族。

 かつて魔王の四天王の生き残り、ベルゼバブがつくりし異形の蟲集団。


 人間、モンスターを遙かに凌駕する力を持ち、森の緑を蹂躙していく様はまさに怪物。

 そんな怪物が進化し、人間に近い姿になった彼らが、魔蟲族。


 ヴィクターは魔蟲達の生みの親、女王ベルゼバブを守護する【護衛軍】のひとりだ


「ご健勝であられますこと、お慶び申し上げます」

『うむ。我が子も大きくなってきてな。時折腹を蹴飛ばしてくるのじゃ……ふふ』


 女王が愛おしげに、自分の膨らんだ腹をなでる。

 ベルゼバブ。その見た目は、人間と言うより化け物に近い。


 魔蟲族が人間に近いフォルムである一方、このベルゼバブは巨大な蠅という、化け物染みた見た目をしている。

 だがそれをヴィクターはおぞましいなどとは思わない。


「それはよいことでございますな」


 微笑みながらヴィクターが言う。

 彼は自分を生んでくれた親でもある、ベルゼバブに対して深い感謝と、そして忠誠心を捧げているのだ。


『いずれこの子も生まれよう。そのときは、ヴィクター。我が子を頼むな』

「……承知いたしました。ですが、我はお子も、あなた様もお守りする所存」


 だが、女王は諦めたように首を振る。


『よいのじゃ。妾は、所詮新なる王を生むための道具』

「そんなことはありません! あなた様も、我らの大事な王の一人!」

『ふ……そう熱くなるな。ヴィクター。腹の子に響く』

「も、申し訳ございません!」


 ヴィクターが飛ばした怒気は、彼らが住まう大樹を揺らした。

 それほどまでの激情は、ひとえに女王の身を案じているからこそ。


『妾はこの子を出産するのに全身全霊をかけている。文字通り、妾のすべてをこの子に捧げよう。ゆえに……生み終わった後、妾の命の灯火は、たやすく吹き消えよう』

「…………」


 自分たち配下の兵隊を生むのと、次代の王を生むのとでは、話が違うのだ。

 あの憎たらしい、狂った科学者が言うには、息子の出産は自分の肉体と魂を切り分ける作業に等しいという。


 だから、生んだ後死ぬというのは、本当であり、女王の予感は的中しているのだ。

 ……それでも。


「我の思いは変わりませぬ。我は、王のため、この身を捧げます。あなた様たち、親子を」


 暗に、生きてくれと強く願うヴィクター。

 そんな部下の優しさに、女王は微笑む。


『そなたのような、誠の忠臣を持てたこと、心からうれしく思うぞ』

「あ、ありがたき幸せ……!」

『……ゆえに、ヴィクター。頼む。妾になにかあったときは、我が子を守ってやってくれ』


 それは、末期の言葉に聞こえなくない。

 本当は、了承したくなかった。それを認めることはつまり、女王の死を受け入れること。


 ……だが、それで出産への憂いが少しでも晴れるのならば。


「……この剛剣のヴィクター。その王命、しかとうけたわりました」

『うむ……。頼むぞヴィクター。妾は、【ほかの】護衛軍たちは、どうにも信用がおけなくてな』


 そう……王直属の護衛軍は、なにもヴィクターひとりではないのだ。

 彼のほかにも、まだ、強者はそろっている。


 だが女王が懸念するとおり、彼らはヴィクターほど女王に忠誠を捧げていないのだ。


「我にお任せくだされ。あやつらの手綱は、我がしかと握っておきますゆえ」


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