75.感謝を君に
俺はしばらく帝都大学病院で入院を余儀なくされた。
ある日の午後。
「おっす、ガンマ。お見舞いにきてやったぞー」
赤い髪のかわいらしい魔法使い少女が、俺の元へとやってくる。
「メイベル。お疲れ。仕事は?」
「ゆーきゅー! ガンマにおやつ買ってきたよ!」
有給か。うちってそういう制度があるんだよな。
ほんと冒険者と違うことだらけだ。
「じゃじゃーん! ちまたで大流行、【エクレーア】です!」
メイベルが俺の病室のテーブルにおやつをのっける。
なんか細長い、パンみたいなお菓子だった。
上にチョコレートがかかっていて実に美味しそう。
「帝都は旨そうなもんおいてるんだな」
「そうだよ! ここは最先端科学の街だからねー! 一緒に食べよー!」
めっちゃ美味かった。
一口食べるごとに、中からとろっとしたクリームが出てきて、ほんとまじでうますぎた。
ややあって。
「メイベル。その……ありがとな」
「ん? なにが?」
メイベルが食後のコーヒーをすすりながら、こてんと首をかしげる。
……その表情を見てると、自然と口の端がつり上がるのだが、なんでだろうか。
「あ、えっと……俺の矢文に気づいてくれただろ? そんで、みんなを連れて駆けつけてくれたじゃんか。ありがとう」
ヴィクターとの戦いの時、俺はギリギリだった。
あのときに援軍が来なかったら、たぶん俺はその場で死んでいただろう。
みんなに……そして、みんなを連れてきてくれたメイベルには、深く感謝してるのだ。
その謝意を、ちゃんと伝えておかない取って思ったんだ。
「気にしないで。仲間じゃん、あたしら」
「あ……」
……なんだろう。
なんだか、胸が痛んだ。
どうしてだ? メイベルは、仲間だから助けてくれたんだぞ。
そう……仲間のために……。
「……仲間だから、なのか?」
「え?」
知らず、不満げな言い方になってしまった。
きょとんとするメイベル。
だが……かぁ……とメイベルが顔を赤くしてうつむいてしまった。
「……ほんとはね、違うよ。仲間なのは、まあそうなんだけど、さ」
もじもじと身をよじりながら、彼女は前髪をいじる。
「ガンマが死んじゃうかもって知ったとき……あたし、もう居て立ってもいられなかった。あなたを失ったら、身体の半分がいなくなっちゃうような……そんな感じがして……」
「それって……」
メイベルが俺と目を合わせると、ふにゃりと笑う。
照れくさそうなその姿を見て……俺は、なんだか直視できなかった。
鼓動が早くなる。なんだこれは……なんだ……。