73.夢
……夢を見ていた。
幼い頃の夢だ。
俺は妹と一緒に人外魔境の大地で狩りをしていた。
でかいドラゴンと遭遇した。
そのときの俺はまだ未熟で、弓でドラゴンを倒せるほど強くはなかった。
妹はおびえてその場にへたり込んでしまった。
俺は妹を守るために、弓矢で応戦した。
けれど俺の矢は竜の堅いうろこを突き破ることはできなかった。
竜が襲いかかる。
俺は妹を押し倒し攻撃をかわした。
けれど俺の背中にはかなりのダメージが入った。
どくどくと血が流れる。痛みで気を失いそうだ。
俺は必死になって意識を保とうとした。
ここで気絶したら、妹が死んでしまう。
……守らなきゃ。
俺の大事な妹を、守らないと!
……そこから記憶が曖昧だ。
気づけば、ドラゴンが俺の前で倒れていた。
『ガンマ! 大丈夫か!?』
俺たちを心配して、探しに来てくれたじーさんと狩人のみんながそこに居た。
そして……土手っ腹に大きな穴を開け、ぶっ倒れているドラゴンがいた。
じーさんたちが倒してくれたんだ。
ああ、これでもう安心だ。
そう思った俺は安堵し、緊張の糸が切れたのか、そのまま倒れ込んだ。
――もしも、それが自分のやったことだとしたら?
振り返るとそこには、もう一人の俺がいた。
ただし、髪の毛が真っ白の、俺だ。
誰だよ、おまえ……?
――俺はおまえだ。見ろ、そこのドラゴンを。
村の大人たちが倒したドラゴン。
これが、なんだってんだ?
――いいや、違うね。倒したのはおまえだガンマ。
白い髪をした俺が笑う。
左腕が、黒い甲冑のようなものに覆われていた。
それは、俺の左腕にも同じものが装着してあった。
剥がそうとしても、剥がれない。まるで皮膚の一部かのようだ。
――ガンマ。おまえは特別だ。いや、異端児といってもいい。
……異端?
――ああ、そうさ。おまえは人とは違う、じゃない。おまえは人じゃない。
……人じゃないだと? ふざけるな、俺は人間だ!
――いいや違う。どこの世界に、こんなちび助の腕力で、分厚いドラゴンの肉を貫く一撃が放てるって言うんだ?
白い俺が指を指す先には、俺が仮に使っている小さな矢が、地面に突き刺さっていた。
――おまえは人じゃない。
違う! 俺は……。
――いずれわかる。いずれ、な。