72.最高傑作
ガンマが新兵器で、超巨大毒蛾を消滅させた……一方。
その様子を遠くの丘から眺める、一人の男がいた。
「ふふ……面白い。実に、面白いよガンマ君」
リヒターの兄、ジョージ・ジョカリ。
人外魔境の丘から、彼はガンマの狙撃を目撃していた。
「魔蟲弓と一体化しての一撃……。あれはまさしく、魔蟲族のそれだった。やはり私の目に狂いはなかった。ガンマ・スナイプ。彼こそが、私の求める理想の【最強種】の姿……!」
思い人に恋い焦がれる乙女のように、ジョージは自分の体を抱きしめる。
「あれが自然にできたとしたら、相当の奇跡だ……。が、私はそうは思わない。あれは作られるべくして作られた、生物兵器。つまり、あれを計画した人物がよそにいるはず……」
表情を一転させ、悔しそうに歯がみする。
「私の理想を実現させた科学者がよそにいたってことか……実に気に食わないね。しかし……今はまだ、未完の傑作。完結させない作品なんて意味が無い」
ジョージは笑う。
「私が完成させて見せよう。ガンマ・スナイプ。君という最高傑作を! この手で! 何を犠牲にしても、何を裏切ってでも!」
もはや魔蟲族側に与する理由はないのだが、しかし兵器を進化させるため必要なのは強敵。
人は、争いの中で進化し続けてきた。
種は、厳しい生存競争の中に、新たなる種族を生み出してきた。
「せいぜい利用させてもらうよ、魔蟲族。私の傑作くんを作り上げるための、最高の当て馬としてね」
ジョージは高笑いしながらその場を後にする。
すでに彼の中では、ガンマをいかに強く育てるかということしかないらしい。
彼を最後まで心配していた不出来な妹のことなど……もうすっかり忘れているようであった。