71.驚異
ガンマの上司マリク・ウォールナットは、今起きた現象を目撃した、ただ一人の人物だった。
「んだよ……今の……」
魔法飛行機から見た。
ガンマが、敵を仕留めるその姿を。
空中から落下しているというのに、彼は敵を確実に仕留めるために矢を複数放った。
そのどれもが、破邪顕正閃。
以前は1発打つだけでガンマの膂力に耐えきれず、弓が崩壊していた。
だが複数打っても、ガンマの新しい弓……魔蟲弓は壊れなかった。
そして、最後に放った一撃。
それはもう、レベルの違う攻撃だった。
放たれた黒い閃光は、周囲にあった全てを飲み込んでいた。
大地も空気も、あの矢に吸い込まれていた。
超巨大毒蛾はガンマの新しい全力の一撃を受けて、消滅した。
「ガンマ……は! ガンマ!」
魔法飛行機を操作して、ガンマの元へと急降下する。
彼は矢を打った後……気絶していた。
両手を広げて真っ逆さまに落ちていく。
「うぉおおおおおおおおおおおお!」
地上が見えてくるタイミングで、なんとかガンマを回収することに成功。
魔法飛行機の座席にぐったりともたれかかる。
「ったくよぉ……無茶しやがって……」
気絶しながらもガンマは笑っていた。
何かにとても満足してるような、そんな笑みだ。
「全エネルギーを使ったんだな……打った後に、おれが回収してくれるって信じてたのか……ったく」
あの化物を倒せたこと、そして部下が無事だったことに安堵しつつも……
マリクはこの先のことを思うと、素直に喜べなかった。
「あんな化物が、あと一歩のところで街にいくとこだった。ジョージ・ジョカリ……あいつがいるかぎり、今後もこういった危機は起きるだろう。となると、上もあいつを放置できない……か」
マリクは懐から葉巻を取り出して、火を付け一服吸う。
朝日が徐々に昇っていき、この荒野を照らす。
「…………」
ジョージは今回の件で完全に、上からマークされることだろう。
そうなると、今まで以上に本気であの男を始末しようと考えるはず。
リヒターは、ずいぶんと迷っているようだった。兄を倒すことに対して。
だが、やらねばならない。
今回の勝利は本当にギリギリだった。
ガンマが覚醒していなければ……帝国は滅んでいただろう。
「ガンマ・スナイプ……か」
彼の左手には、新しい魔蟲弓。
さっきと違って、ガンマの左腕は人間のそれに戻っていた。
しかし、最後に見せたあの黒い一撃。
あれは、もはや人間のレベルを超えた一撃だった。
そう……まるで……。
「魔蟲族……か」
新人の体には何か秘密がある。
天才魔道具師であるマリクの目には、そう映った。
「はっ! 関係ねえ……。こいつは部下で、おれは上司。おれが、守るべき物の一つさ。こいつが誰であろうとな」
マリクは葉巻を吸い終わると、魔法飛行機を操作し、仲間たちの待つもとへと戻るのだった。