7.歓迎会
俺の所属する隊の男、オスカーとの決闘に勝利した。
その日の夜、俺は帝都カーターにある、飲食店を訪れていた。
「今日は新人の歓迎会だっ。じゃんじゃん食って、じゃんじゃん飲んでくれよー!」
俺たちがいるのは普通の飲食店じゃない。
テーブルの上に鉄の【網】がおいてる。
網の下には炭が敷き詰められていた。
そして網の上には、一口大にカットされた肉がおいてある。
「メイベル、なんだ……これ?」
俺はマリク隊長とそのほか部隊のメンバーたちとともに、このお店に来ている。
卓を囲む、俺の隣には旧友メイベルが座っていた。
「焼き肉だよ! 帝都で最近流行ってるの。こうやってカットしたお肉を網の上で焼いて、みんなでわいわいしながら食べるんだ!」
「ふぅん……変わった食い方するんだな」
肉っていや棒に刺して食べるのが普通だからな。
丸焼きとか。カットした肉も確かに食べるっていえば食べるけど、それも薪にあぶってみたいな食い方だ。
隊長はいいとこにつれてってくれるって、決闘前に言っていたけど、なるほど、ここのことだったんだな。
「おれのおごりだから遠慮せず食えよ、ガンマ!」
「ありがとうございます、隊長。遠慮なくいただきます」
そうこうしてると肉がじゅうじゅうと音を立てながら焼けていく。
薄くカットしてあるから肉はすぐに焼ける。
「ま、まだですか隊長! なんかすごいいい匂いするんですけど!」
「まーまてガンマ。今日はもう一人、うちの隊の最後のメンバーがそろそろ来るからよ」
今日この場にいるのは、所属することになった部隊、胡桃隊のメンバー。
構成員は6名。
隊長のマリクのおっさん。
副隊長のシャーロットさん。
隊員のメイベル、オスカー、そして俺。
最後に、軍医が一人いるって言っていたな。
ちなみに今日、俺をスカウトした皇女アルテミスはこの場にいない。
とても行きたがっていたが、家族との食事会があるんだとさ。皇女さまも大変だな。
と、そのときである。
「ハァイ、みんなお待たせー♡」
「うひょぉおお! 【リフィル】ぅううううう! 待ってたぞぉおおおおおおおおお!」
テーブルの上に乗っていたリス(隊長)がびょんっ、と飛び上がって、現れた人物の胸に飛び込む。
ど、どでかい……。
やばい、でかい……。そんな感想しかでてこないくらい、その人の胸は大きかった。
そして……エロい。
開襟シャツのボタンを上から4つめまで開けている。もう胸が完全に見えそうだ!
性別は、女。身長は160センチ後半くらいだろうか。
ふわっとした髪質の、紫色のロングヘア。
口元には口紅がひかれていた。
軍服ではなく、白衣に袖を通しており、タイトスカートからは黒タイツにつつまれた、長いおみあしが伸びている。
「あらあら♡ 隊長さんったら、いけない子♡ そんなにお姉さんのおっぱいがいいの?」
「はーい! ぼくちん【リフィル】先生のおっぱいだいしゅきーーーーー!」
「ふふ♡ 正直で結構。でもいいの、シャーロットちゃんが見てるけど?」
副隊長のシャーロットさんが、死んだ獣を見るような目で、おっさんリスを見つめている。
「だいじょーぶだいじょーぶ! わはは! これは隊員との立派なコミュニケーションだから! セクハラじゃないから許される! な、シャーロッ……」
サクッ……!
マリクのおっさんの額に、いつの間にか氷のナイフが突き刺さっていた。
え、ええ!?
誰がやった……てか、何が起きたの!?
慌てる俺に、メイベルが苦笑しながら言う。
「落ち着いてガンマ。いつものことだから」
「いやいつものって……」
「隊長が馬鹿やって、副隊長がそれをいさめる。それが、うちの日常!」
なるほど……さっきの氷ナイフは、シャーロット副隊長がやったのか。
てか、いつの間に取り出したんだ?
早くて、俺の目でも追えない速度だった。なかなかあの人も、武闘派なんだな……。
後からやってきた軍医の先生が、ふと、俺を見やる。
「あら? きゃー♡ かわいい子がいるじゃなーい♡」
「ど、どうも……ガンマ・スナイプです」
「初めまして♡ アタシはリフィル。【リフィル・ベタリナリ】。よろしく~♡」
リフィル先生が身をかがめて、俺に手を伸ばしてくる。
たゆん……と胸が、揺れた。なんだこれ、でけえ……。
「あらあら♡ そんなに気になっちゃう?」
「あ、えと……すみません!」
「ふふ♡ いいのよ、若いんだし、お姉さんのおっぱいが気になっちゃうのはしょうがないわ♡ まあ、隊長さんみたいにいつまでもエロジジイじゃこまるけど」
胸とかじろじろ見ても全然動じない。
お、大人……。
「むぅ……」
「あらぁ、どうしたのメイベルちゃん? たこさんみたいにむくれちゃって」
「べつにっ。せんせーはボタンを首元まで閉めた方がいいよ! ふけんぜんだもん!」
「あらあら~♡ そういうこと……♡ ふふっ、楽しい職場になってきたわね」
リフィル先生が席に座る。
これで、胡桃隊の六人がそろったことになる。
「お、ちょうどいい感じにやけてるな! んじゃ今日は新メンバーの歓迎会だ! 腹が破裂するまで食えよおめえら!」
「「「おー!」」」
★
焼き肉はめっちゃ美味かった。
とてもいい肉を使っているらしい。脂が、甘い。
塩こしょうとかで味付けしてないのに、甘くて美味い! こんな肉食べたのは初めてだった。
俺はあまりに美味すぎて、最初のほうは会話に集中できなかった。
メンバーたちは、俺が食うのに集中できるように、ほかのメンバー同士で話していた。
ほどなくして、落ち着いてきたタイミングで、リフィル先生が声をかけてきた。
「聞いたわよガンマちゃん♡ オスカーちゃん倒したんですって? すごいじゃない!」
「どうもです」
「オスカーもこう見えてS級隊員なのに、それをあっさり倒しちゃうなんてすごいわぁ♡」
「S級隊員?」
初めて聞く単語だ。
するとオスカーが、ばっ、と立ち上がって説明する。
「マデューカス帝国軍は、隊員の強さに応じてランク付けがされているのだよ! 一番下はC、一番上はS!」
「へえ……じゃあオスカーは最高ランクの隊員だったのか?」
「その通りだよ兄弟!」
「きょ、兄弟ぃ……? 別に俺、あんたの兄でも弟でもないんだが」
オスカーが笑顔で俺の肩をたたき、そのまま首の後ろに腕を回してくる。
な、なんか急になれなれしいな……。
「ボクは基本的に男を認めていない。とりわけ自分より弱いものをね! しかーし! 君は特別さ! その強さ、尊敬するに値する! 素晴らしい動体視力と、射撃の腕だ! 感服したよ」
「ど、どうも……」
「これからもよろしく頼むよ兄弟!」
「兄弟はやめてくれ……」
しかし、そうか。こいつ、俺のこと認めてくれるんだな。
出会い方は悪かったが、意外といいやつなのかもしれない。
すると女性陣(メイベル、シャーロット、リフィル先生)が言う。
「さっきの戦いほんとすごかったよ!」
「……銃弾を打ち落とした手腕、お見事でした」
「こんな若いのにたいしたものねぇ♡ すごいすごい♡」
女子たちが口々にほめてくれる。
な、なんか照れくさいな……。
「あたしとしては、やーっとまともな男が入って、安心したーって感じかな。ガンマ頼りになるしっ」
「……確かに、うちの隊はエロと馬鹿しかいませんでしたからね。その点ガンマ君はとてもいい子で安心しました」
「強くて頼りになるうえに、かわいいし♡ お姉さんガンマちゃんが一番タイプかなー、なーんて♡」
それを聞いていたマリクのおっさんとオスカーが割って入る。
「おいおいエロってもしかしておれのことか?」
「馬鹿ってボクのことじゃあないよね?」
「「「あんたらのことだよ」」」
「「ぐぅ……」」
マリクのおっさんとオスカーがへこんでいる。
でも雰囲気が悪くなることはない。こういうやりとりもいつものことなのだろう。
「ま、とにかくうちに最高の新人が入ってくれて良かったよ」
「マリク隊長……」
「これからもよろしくな、ガンマ。期待してるぜ。頑張ったらそのたびにいいとこ連れてってやる! だから頑張れ! 適度にな」
……前の職場とは大違いだ。
あそこでは、俺が何をしても認められることはなかった。
Sランク冒険者パーティ【黄昏の竜】。あそこはリーダー・イジワルーのワンマンチームだから、イエスマン以外は認められなかったんだよな。
でも……ここは違う。きちんと俺を認めてくれる、必要としてくれる。
だから……。
「わかりました、俺は、ここで頑張ります! だからその……よろしくお願いします、皆さん!」