67.毒蛾
【★☆★読者の皆様へのお知らせ★☆★】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
円卓山にて、超巨大蟲と抗戦している俺たち胡桃隊。
罠にはめ、あと少しのところまで敵を追い詰めた。
しかし敵が羽化をしたのだ。
「……でかい、蛾? 超巨大蟲を見ていたから、少し小さく見えるね」
オスカーが蛾を見上げながら言う。
敵の表面は赤と黒のまだら模様をしている。
色がおかしい物の、しかし見た目はただの蛾……。
いや!
「まず……げほごほごほっ!」
「なん……がはっ……!」
い、息が……できない。
なんだ……これは……!
俺は立っていられなくてその場にしゃがみ込む。
オスカーはうつ伏せに倒れて、吐血していた。
「お……おす……げほげほ! だい……じょ……」
だめ……だ。呼吸するたび喉が焼ける。
熱湯? いやこれは……毒。
そう、毒だ。
体内に強毒を持つ獣……たとえば毒蛇などに噛まれたときの症状に似ている。
「毒……です……たいちょ……げほげほ!」
周囲を見渡してみると……。
その場で立っている人は、誰もいなかった。
オスカー、リフィル先生、シャーロット副隊長……そして。
「めい……べる……」
魔法飛行機のそばで赤髪の魔法使いが倒れている。
完全に気を失っており、口からはオスカー同様に血を吐いていた。
がくんっ、と体から、力が抜けるような思いがした。
毒の影響……? いや、違う……。
なんだ? この……喪失感は。
いやだ……メイベル……いやだ、失いたくない……。
「ガンマ君!」「しっかりしろ、ガンマ!」
ばちんっ、と誰かが俺の頬を叩く。
俺の目の前にはリス……マリク隊長がいた。
彼にビンタされたのだろうということに遅まきながら気づく。
「こっちはおれらに任せろ! おまえはやつに攻撃を!」
隊長達は無事のようだ。
リヒター隊長の顔面には、見たことのないゴツいマスクが装着されている。
「ガンマ君の警告のおかげでたすかりましたぁ……。このガスマスクの装着が遅れていたらどうなっていたことか……」
「おれは体が特別製なんでな」
マリク隊長……たしかに、特別製だ。なにせしゃべるリスだもんな。
「ガンマくん。どうやら敵は我々の使っていた毒を利用しているようです」
「毒を……? どういう?」
「進化したんですよ。毒沼を体内に取り込んで、毒を克服し……結果、それをも上回る毒の鱗粉を生み出すにいたったんです」
上空で羽ばたいている蛾からは、紫色の粉が降り注いでくる。
そうか、毒の鱗粉か。どうりで前触れもなく倒れると思った……。
「おれたちはできる限り隊員の治療を行う! 援護はできねえ! おまえは、フェリサとともにあの毒蛾をどうにか足止めしてくれ!」
「フェリサ……?」
蛾に注目してみると、その体は鎖でがんじがらめにされていた。
俺が戦意喪失している間、フェリサは戦っていたんだ……。
あの、病弱なフェリサが。
俺たちを守るために……。
「いけ、ガンマ! やつを足止めしろ!」
「敵は飛行能力を得ました。我らを排除したら、もう凄まじい早さで街へ降り立ってしまうでしょう。おねがいします、ガンマ君。どうかあの蟲を……駆除してください」
毒蛾は羽ばたきながら、この山の外を目指そうとしている。
フェリサは鎖付き手斧で敵を拘束し、つなひきのように、鎖を引っ張っている。
妹の踏ん張りがなければ、今頃は人里が大パニックになっていただろう。
妹への謝罪のことばは……しかし今は飲み込む。
「わかりました!」
俺は魔法狙撃銃を手に走る。
……本調子じゃないが、さっきよりは呼吸が苦しくなくなった。
俺はフェリサの元へ近づいて、隣に座り込む。
狙撃銃を使って敵の体に銃弾を打ち込む。
ドドゥ……!
銃弾は凄まじい早さでとんでいくと毒蛾の体へと襲いかかる。
カツーン……。
「……!?」
「弾かれたか……」
幼虫の体は狙撃銃の銃弾で撃ち抜くことができていた。
しかし今は身体に傷一つつけられない。
蛾の身体をよく見ると、毒で身体をコーティングされていることがわかる。
凝固した猛毒が攻撃を無力化していたのだ。
【GIGIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!】
毒蛾が強く羽ばたく。
すると鎖が引っ張られてフェリサの身体が飛び上がった。
「フェリサ……!」
俺は敵の目玉をライフル弾で打ち抜こうとする。
だが固い音とともにはじき返されてしまった。
「くそっ! 目玉すら硬いのかよ……!」
いや、違う。
この銃弾の威力が足りないんだ。
魔法矢なら、全力全開の一撃なら……。
悔いてる俺をよそに、フェリサが宙を舞っている。
びたん! と強くフェリサが大木にたたきつけられた。
「フェリサぁああああああああああ!」
再び毒蛾が舞い、妹がひっぱられそうになる。
俺は魔法狙撃銃で鎖を撃つ。
どうにかまた連れてかれそうになる前にフェリサを、鎖から解き放った。
上空から、真っ逆さまに落ちてくるフェリサ。
俺は間一髪で彼女を受け止めることに成功。
だが束縛の解かれた毒蛾は、猛スピードでその場を離れていった。
「……くそっ!」
フェリサが引き留めててくれたから、なんとかなっていたのだ。
でも今敵を縛り付ける物は何もない。
遠距離狙撃……は、銃なんかじゃできない!
弓が……弓が欲しい!
弓さえあれば、俺はどんなに遠く離れたときも、どんだけ早い獲物でも、討ち取ってみせるのに!
仲間は全滅。
俺もボロボロ……。
敵は逃亡して、人里へと向かっている……まさに、窮地。
「もうだめか……」
そのときだった。
「ガンマ! 遅くなってすまなかった……!!」
上空から、今一番聞きたい人の声がした。
大きな鷲に乗った、その人は……。
「ガンコジーさん!」
俺の育ての親で、武器職人のガンコジーさんがそこにいたのだ。
にっ、と笑うと、じーさんは俺めがけて何かを放つ。
「受け取れぇえええええええええい!」
彼が投げたそれを、俺はキャッチする。
「弓……間に合ったんだな、新兵器!」