65.罠
俺たちは超巨大蟲の相手をしている。
メイベルのゴーレムと妖精たちの魔法による弾幕と、前衛たちの高火力のアタックにより、敵はじりじりとその体を削られていた。
俺は魔法狙撃銃によって、遠隔から体を狙う。
どぉ! というすさまじい衝撃とともに、ぶっとい弾丸が飛んでいく。
超巨大蟲の組織を貫通し、背後の木々をも貫通していく。
通常なら申し分ない威力……だが。
「……だめだ」
「なんですって……?」
俺の隣で、ずっと治癒してくれているリフィル先生が首をかしげる。
「この銃じゃ、威力が足りないです」
「申し分ないと思うけど……」
「たしかに。でもそれは、火薬を爆発したときに生じるエネルギーしか伝わりません。俺の思い描くパワー、速度……そして着弾位置からはかなりずれます」
「期待値高すぎない……?」
「かもしれません……けど……やっぱり違和感は拭えないです」
弓は、いい。
俺の思い描く弾道で、俺の思うとおりの威力で、敵を倒せる。
狩人としての俺の得物は、やっぱり弓なんだなって改めて思う。
「ガンマちゃん、もう少しの辛抱よ。今はガンコジーさんの弓が届くのを待つしか無いわ」
「ああ、そうですね」
俺は狙撃に戻る。
だいぶ体を削れてきた……と思った矢先だ。
俺の目には、見えたのだ。
敵の動きが……いや、敵の感情の揺らぎが。
「距離をとれ……! 今すぐ!」
「総員撤退!」
マリク隊長が手に持ってた魔道具にそう叫ぶ。
これは遠くに居る人に声を届ける魔道具だ。
隊長からの声が、俺たちの装着しているイヤリング型の魔道具を通して聞こえる。
命令を受けた隊のみんなは、誰も躊躇することなく引く。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
すさまじい熱波と衝撃。
俺も思わず顔をしかめてしまう。
腹ばいになっていたからダメージはゼロだが……あれを至近距離で受けていたらと思うとぞっとする。
だが俺はアタッカーたちが無事なのをきちんと目視していた。
「なんだね!? 爆撃かい!?」
「……いえ、これは……」
シャーロット副隊長とオスカー、そしてフェリサが、大分離れた場所に着地。
メイベル・ゴーレムは今ので全部ぶっ飛んでいた。
爆発源を見ると……そこには1匹の巨大蟲。
「ガンマ、被害確認! リヒターは今の現象の分析を!」
「「了解……!」」
俺はスキル鷹の目を発動。
鳥瞰を可能にする狩人のスキルを使って、戦場を見渡す。
オスカーたちアタッカーは無事。妖精も問題なし。
ゴーレムは被害甚大。
俺は今見たことを隊長に伝える。
「良かった……今んところ損害なしか。助かったぜガンマ。おまえの目がなきゃ死んでた」
「いえ……ですが、今のはなんだったんでしょう? 巨大蟲が急に爆発したように見えましたけど」
すると双眼鏡のような魔道具を手に持ったリヒター隊長がつぶやく。
「そのとおりですよぉ。あの馬鹿でかい蟲の体がはじけ飛んだのですぅ」
「なに? どういうことだリヒター?」
「おそらくですが、あの蟲は成長速度が尋常じゃありませぇん。あれは爆発ではなく細胞の代謝……つまり、傷ついた細胞をきりすて、新しい細胞を生み出した。そのときのエネルギーを熱に変えて外部に照射したわけですぅ」
マリク隊長がうなる。
「……ようするに、あの馬鹿でかい蟲は、自分の意思で爆発を起こせる。そして、爆発を終えると細胞が再生してる……と?」
「ですねぇ。破壊と再生の能力、とでもいえばいいでしょうか」
「んだよそりゃ……いくらダメージを与えても意味ねえじゃねえか!」
たしかに超巨大蟲の傷口は完全に塞がっていた。
穴の開いた箇所は完全にふさがり、削った部位も元通りである。
「ちまちま攻撃しても無意味ってことかよ!」
「ですねぇ……やはり一撃で消し飛ばすしかないようです」
「よし! 作戦は変わらない! 引き続き持久戦だ! 各員深追いは絶対するな!」
マリク隊長が的確な指示を飛ばす。
「ガンマ。また次のあの爆発を起こそうとしたら言ってくれ」
「わかりました。もうプレモーションは盗みましたので、完璧に回避できると思います」
「よし……しかし、マジでやっかいな蟲だなありゃ……」
すると巨大蟲は体をふるえさせると、ずずず……と体を動かし出した。
「敵が前進を開始しました」
俺の方向に、くそっ、とマリク隊長が悪態をつく。
「メイベル! 準備はいいな!?」
『もっちろんだよ隊長! 誘導よろしく!』
マリク隊長がうなずいてまたも指示を出す。
「指定するポイントまで獲物を誘導するぞ! メイベルが罠を張って待っててくれてる!」
「「「了解!」」」
俺たちは移動しながら、銃や武器でちくちく削りつつ、敵の動きを望む方向へと導く。
痛みを与えると、それを嫌がるように、逆サイドへと進んでいく。
「リヒター隊長、おそらくですがあの蟲は知能が高くないと推察します。生まれたばかりだからでしょう」
「なるほど……ガンマ君の言う通りかもですねえ。あまりに動きが素直すぎますし……」
俺たちの考えを、隊長が魔道具を使って情報拡散。
敵が裏をかくような攻撃がないと知ると、ガンガンと敵をつついて動かす。
やがて……。
ずずぅううううううん……と、超巨大蟲が地面に沈んでいった。
「どうだ! メイベルさん特製の落とし穴じゃい!」
魔法飛行機を使って空を飛んでいたメイベルが、勝ち誇ったように叫ぶ。
彼女は錬金の魔法を得意とする。
この円卓山の一角を底なし沼に代えて、落とし穴にしたわけか!
「よし! 敵が罠に落ちた! やつをここから抜け出させるな!」
「「「了解……!!!」」」