64.新兵器
ふ化してしまった超巨大蟲。
俺たち胡桃隊と妖精達で、こいつをなんとしても人外魔境にいる間に駆除する必要があった。
「ガンマ君はこれを使ってくださぁい」
リヒター隊長から細長い筒を受け取る。
「それは狙撃銃ですぅ、弓と比べたら物足りないでしょうがぁ、ないよりましかと」
「狙撃銃……なるほど、銃なんですね」
帝国が開発した銃は、優秀な武器だ。
誰でも一定の火力を持った兵士にすることができる。
……だが、裏を返すと一定のパワーしか発揮できない。
俺の思うとおりの遠隔攻撃をするためには、やはり、弓が必要だった。
だが今は贅沢言ってはいられない。
じーさんが俺のために、新しい黒弓を作ってくれる。それが届くまではこれでしのぐ。
よし、とリスのマリク隊長がうなずく。
「メイベルは銃で武装したゴーレムを使って弾幕を張れ。妖精たちも魔法で援護しろ」
「了解!」『らじゃーやで!』
メイベルが黒い杖を振るう。
地面からぼこぉ……と大量のゴーレムが現れる。
「メイベル、その杖は……?」
「これはマリク隊長が新しく作った魔道具! おねえちゃんの影魔法が付与されてるんだ!」
アイリスの影魔法は、自分の影の中に物を収納できるらしい。
なるほど、事前にゴーレムを作っておき影からゴーレムを取り出したのか。
人型のゴーレムの手には、2丁の拳銃が握られている。
かなりデカい銃で、明らかに人間が扱うことを想定されていない。
「いっちゃえゴーレムちゃんたちー!」
メイベルの指揮で一気に動き出す。
超巨大蟲のもとへむかって、恐れなくまっすぐに突っ込んで、そして銃をぶっ放す。
ばごぉおおおん! と、離れたこっちからでも銃声が聞こえるほどの威力だ。
反動でゴーレムの腕が吹っ飛んでいる。
超巨大蟲の体の一部分が削れる。
次々とメイベルのゴーレムが発砲しては、虫の体を削っていった。
『わいらも意地みせるで!!!!』
『『『煉獄業火球』』』
妖精達が放つ高火力の極大魔法。
近くにいたゴーレムすらも粉々に砕いていく。
「効いてる……! よーし、ガンガンいっちゃえー!」
ゴーレムは次から次へと湧き出て、同じ行動を繰り返す。
これがゴーレムの強みだ。
腕が吹っ飛ぼうが体が粉々になろうが、関係なく敵の懐のうちで、自爆特攻ができる。
さらに火力を集中させても味方からの攻撃を受けても平然としている。
やっぱり、ゴーレムはすごい。
けど一番すげえのは、あの数のゴーレムを手足のように操るメイベルだ。
「ふっ……メイベルばかり目立っても困るね。僕も新兵器をお披露目といこうか!」
オスカーの手には1本の槍が握られている。
「そうだおまえ……銃はどうしたんだよ? 拳銃と格闘術がおまえのスタイルじゃなかったか? 槍なんて……」
「ふっ、これもまた銃のひとつさ。これは銃槍!」
「銃槍……」
「その名の通り、銃と槍を組み合わせた特殊な武器さ」
オスカーが銃槍を構えて立つ。
「シャーロット、オスカー、そしてフェリサは遊撃だ。側面および背面から攻撃。ただしあまり敵の気を引きすぎるな。あくまでもこれは時間稼ぎだからな」
「「了解!」」「……!」
火力の高い三人が散開。
一番先に敵にたどり着いたのは、足の速いオスカーだった。
森の木をかけあがって、そのまま突っ込む。
「これが銃槍の威力……さ!」
超巨大蟲の側面に槍が突き刺さる。
オスカーが引き金を引いた瞬間……どがぁああああん! と内部から虫の体が吹っ飛ぶ。
「あれが銃槍……」
「そうだ。おれが開発した。槍の先端に特殊な火薬がこめられてる。内側に槍を突き刺して、内部から化学反応で爆破させるのさ。ま、蟲の固いボディから作られた槍と、あいつのたぐいまれな体術センスがなきゃ、反動で大ダメージ食らうのはあいつなんだがな」
銃を放つ反動を使って、オスカーは背後にジャンプしていた。
あいつじゃなきゃできない芸当だ。
シャーロット副隊長とフェリサもおのおのが武器で大ダメージを与える。
「ガンマはそれで、敵のヘイトを管理してくれ」
「はい……」
まだ体は痛むが、狙撃銃を使っての攻撃なら体に負担はかからない。
……だが、ヘイト管理。つまり攻撃じゃなくて、敵が気を散らさないように引き留める役割だ。
敵にダメージを与えられてない……。
「なに、おまえは秘密兵器だ。今はリフィルの支援を受けながら、そうしてチクチクつついてんだな」
リフィル先生がずっと俺に治癒をかけてる。
魔力量に限界が近いだろうに、魔力回復のポーションを飲みながら、俺に治癒術をかけている。
「みんな与えられた役割を、その通りこなしてる。おまえもだガンマ。だからおまえは……しっかり体を休ませとけ」
俺の隣でリヒター隊長がうなずく。
「ぼくはあいつの解析を行ってますぅ……君も君の責務を果たしてくださぁい……」
そうだ、そうだよな。
もう一人で戦わなくていいんだ。
俺たちはチームで、俺は組織を回す歯車の一つ。
それで、いいんだ。
「わかりました、狙撃します」
俺は腹ばいになって、狙撃銃で超巨大蟲に一撃入れる。
淡々と、役割をこなす。それが今できる最大限だから。