63.集結
ガンマ達は人外魔境の地にて、超巨大蟲と相対していた。
リフィルたちの健闘むなしく、ジョージ・ジョカリの作った卵はふ化してしまった。
フェリサたちは実験施設のあった巨大樹から脱出し、楽園の森へと出てきた。
『おいおいおい! なんやあのデカすぎるバケもんは……!』
巨大樹を超えてなおも膨張し続ける蟲……。
一言で言うのなら、巨大な黒い芋虫だった。
超巨大蟲はむしゃむしゃ巨大樹をむさぼり食っていく。
どくん、どくんと脈打ちにながらさらに体を膨張させていた。
『! しもうた! 仲間達があの中に!』
「どこへ行くんですかぁ」
リヒターが妖精リコリスを掴んで止める。
『姐さん離してぇな! あんなかには、とらわれの仲間達がおんねん!』
ジョージにとらわれた楽園の妖精たちを、取り返してほしいというのがそもそものリコリスからの依頼だったのだ。
今もなお食われている巨大樹に向かって、リコリスが飛ぼうとする。
「今行って食われておわるだけですよぉ……」
『けど!』
「大丈夫! あたしが取ってきた!」
そのとき、上空から何かが降りてくる。
それは遠目に見ると、巨大な鳥のようなゴーレムだった。
1対の翼があるものの、羽ばたいていなかった。
代わりに風がごぉおおお! と噴出されている。
鳥の背中には魔法バイクのようなハンドルがついており、それを握っていたのは……赤い髪の魔法使いメイベル・アッカーマンだ。
「メイベルちゃん!」
「先生……!」
メイベルは降りると、リフィル達に駆け寄る。
「大丈夫、怪我ない!?」
「ええ、大丈夫よ……」
ほっ、とメイベルが安堵の息をつく。
「メイベルちゃん、どうやって? 帝国からここって、かなり距離があるはずなのに……」
「魔法飛行機を使ったの!」
「まな……ばーど?」
メイベルが指さすのは、鳥のようなゴーレムだ。
「おれの発明した、小型の飛行移動装置だぜえ」
「マリク隊長!」
メイベルの影から出てきたのは、マリクをはじめとした胡桃隊のメンバー達……。
「ガンマちゃん……!!!!」
リフィルは誰よりも早くガンマの元へ駆けつける。
彼は包帯でぐるぐる巻きになって、なおかつオスカーに肩を借りている状態ではあった物の……。
しかし、生きていた。
リフィルは自分を止められることができず、彼に強く抱きついた。
「良かった……ガンマちゃん……生きてた……」
「はい。だいじょう……いたたた、いたいです先生……」
「! ご、ごめんなさい、つい……」
リフィルにとってガンマはもう、かけがえのない存在になっていた。
あと一歩のところで、フェリサを死なせてしまうという状況下、彼の言葉がヒントになって……解決に導けた。
まるで暗闇を照らす太陽のようだ、とリフィルは思った。
それくらいガンマは大切で……そして……。
「うぉっほん! 先生、ガンマが痛がってるようだがね?」
「あ、ご、ごめんなさい……すぐ直すわ……」
リフィルは治癒魔法を使う。
折れた骨が瞬時に戻っていく。
「ありがとうございます……いてて……」
「先生の治癒でも完治できないのかね……! ヴィクターとかいう魔族は、それほどまでにガンマに強いダメージを負わせていたってことかね……」
戦慄するオスカー。
リフィルは悔しい思いをしている。
「ごめんなさい……フェリサちゃんの治療で、もう結構魔力を使っちゃってて……」
「いや、動けるようにはなりました。ありがとうございます」
「うん……それと……」
フェリサをあと一歩で死なせるところだったと、謝ろうとした。
けれどガンマはまるで彼女の心を読んだみたいに、首を振る。
「今は、あれをなんとかするのが先決でしょう?」
「ガンマちゃん……」
ああ、だめだ……とリフィルは彼への思いで胸がいっぱいになる。
好き……思わず気持ちが口を突こうとする。
だが、今は緊急時。彼が言うとおり、あれをどうにかしないと、自分たちは死んでしまう。
「しっかしあのデカい蟲……どうするかね?」
「ここで食いとめんぞ。幸いこの人外魔境の地には人がほとんど住んでねえ……」
サングラスをしたリスこと、マリク隊長が巨大蟲を見上げて言う。
たしかに、人外魔境は一面荒野だ。
しかし……裏を返せば、この荒野を突破されると敵が人里に降りて……大変なことになる。
「やんぞ、てめえら……気合い入れろよ!」
胡桃隊のメンツがうなずく。
そこへ先行していたゴーレムが巨大樹から帰ってくる。
『みんな! 無事やったんやな!』
ゴーレムが連れてきた妖精と、リコリスが再会する。
彼らは再び会えたことを喜び合う。
『ありがとう、兄さんたち! わいら妖精も……力貸すで……!』
今この場にいるのは、胡桃隊のフルメンバー。
フェリサ、そして妖精達が数名。
これで巨大樹を超えるほどの、でかい化け物を討伐しないといけない。
だが……誰一人として窮地に体を震わせてはいなかった。
「ガンマ。わかってると思うが、おめーが頼りだ」
「はい。任せてください」
あの恐ろしい魔王軍直属の護衛軍を一人で相手取った、最強の軍人、ガンマ・スナイプの存在。それが彼らに自信と勇気を与えている。
「しかし……君、武器はすべて失ったんだろう?」
「ああ、けど大丈夫だ。ガンコジーさんが、新しい弓を届けてくれる」
「となると……僕らは足止めだね。任せときたまえ!」
この場のみんなの意思が統一される。
ガンマにラストアタックを任せる。それまでの時間を稼ぐ。実にシンプルな作戦だ。
「いくぞ、状況開始だ!」
「「「おう……!」」」