6.同僚との決闘
胡桃隊に無事、入隊を果たした俺。
隊長、副隊長と挨拶を終えた後、オスカーとか言う男隊員に絡まれた。
『決闘だ!』
だとさ。いや、意味わからんし……。
だが、俺はなぜか、教練室にいた。
帝国は実力主義を掲げている。
隊員たちは日々、己の腕を磨いてるそうだ。
教練室は、軍に所属する人間なら誰でも利用可能な施設らしい。
ちょっと広めの、コロシアムを彷彿とさせる、楕円形のホール。
中央には俺と、そして緑の長髪男、オスカー・ワイルダーがたっている。
「なんでこんなことに……」
「ま、悪いなガンマ」
「マリク隊長……」
いつの間にか、俺の肩には1匹のリスが座っていた。
マリク・ウォールナット。この胡桃隊の隊長だ。なぜかしゃべるリスである。なぜしゃべるのか、俺にはわからない……。
「馬鹿につきあってやってくれ」
まあ部隊の隊長の頼みなら、断れないんだが……。
しかし別に狩りでも任務でもないのに、力をひけらかすのはちょっとな。
マリク隊長は俺の気持ちを察してくれたのか、苦笑しながら言う。
「頼むよ。ガンマの実力を正確に把握しておきたいんだ」
「なるほど、これから一緒に働く仲間の力は、はかっておかないとですからね」
「そういうこった。あ、勝ったら【いいとこ】つれてってやるから、手ぇ抜かないようにな!」
いいとこってなんだよ……。
まあ、興味がないわけじゃないけど。俺も男だし? でも……ううん。
「さっさと始めてしまおうじゃあないか。といっても、決闘はボクの圧勝だろうけどね」
「やけに余裕そうじゃないか、おまえ」
「当然! なぜならボクの得物は……これだからね!」
オスカーは腰についてる【それ】を、手に取る。
「それって……たしか、拳銃、だったか」
最近発明された武器だ。
筒のなかに金属の弾が入っており、火薬の爆発による推進力で、弾を前に飛ばすという。
「そう! ここ帝国では、兵士たちには銃が標準装備として配られている。どういうことか、わかるかい?」
「いや、さっぱり」
「無知なる君に、この優しいボクが教えてあげよう! いいかい、弓なんて武器は、この帝国では時代遅れの得物なんだよ!」
びしっ、とオスカーが銃口を、俺の持つ弓に向ける。
「弓と違ってこの銃という武器は、誰でも簡単に一定以上の殺傷能力を得る。この銃さえあれば、魔物の脳天を正確に打ち抜き、危険な敵を素早く倒せる」
「まあ、そりゃそうだ」
「一方! 弓は次の矢を打つために、たくさんの動作を必要とする。矢筒から矢を取り出す、かまえる、ひく、放つ。なーんてやってる間に敵から反撃を食らうし、モンスターの腹のなかさ」
「まあ、否定はしないけど。何が言いたいんだ?」
「つまり! そんな骨董品を使う、前時代的な狙撃手に、この天才【銃手】オスカー・ワイルダーは負けぬ! ということさ!」
いや自分を天才って……。
どんだけ自分に自信があるんだよ。
「それでも戦うかい? そうか! 戦うのか! まあ仕方ない、教えてやろう、格の違いってやつをね……!」
「まだ何も言ってないだろ……」
話聞かねえなこの緑男……。
てか俺に戦わせたいのか、あきらめさせたいのか、どっちなんだこいつ……?
「おしゃべりはそれくらいにしろ、オスカー。ガンマも今日は移動で疲れてるんだ、早く寮に案内してやりたい」
マリクのおっさんが、ちょっと離れた位置からそういう。
このおっさん、割と気遣いできるよな。うれしい……。俺の上司、基本パワハラだったからなぁ。
「ふん、そうかい。まあリクエスト通り、早く終わらせてあげるよ」
ちゃきっ、とオスカーが手に持った拳銃を俺に向ける。
「これには実弾ではなく、訓練用のゴム弾が入ってる。だが、訓練用とはいえ当たると痛い! しかーし、案ずることなかれ、ボクの精密な射撃は、相手に痛みを与えることなく気を失わせることができる!」
「たいそうな自信だな」
「一発だ! 一発で君をノックアウトしてあげよう! そしたら胡桃隊から出て行き給え! あそこはボクのボクによるボクのためのハーレム部隊なのだからね!」
「……御託はいいから、さっさとかかって来いよ」
こいつが銃の腕に自信があるのは確かなんだろう。こんだけ前説を述べてるんだからな。
だが、別に俺は怖いともなんとも思っていない。
これは命の取り合いじゃないからな。
「それじゃ……いくぞおまえら。準備はいいな?」
俺も今回は魔法矢ではなく、やじりにゴムのついた、訓練用の矢を借りている。
魔法矢以外を使うのは久しぶりだが、問題ない。魔法矢を学園で習う前は、これを使っていたんだからな。
「それじゃ……はじめ!」
「はっはー! 先手必勝! ぐっばい!」
ドドゥ……!
銃口から火花がほとばしり、一直線にゴム弾がこちらに飛んでくる。
弾は一直線に、俺の眉間を貫こうとしている。
口だけ野郎ではないみたいだな。
俺は動きを目で追って、すっ、と半身をねじって、ゴム弾をよける。
「んなっ!? よ、避けただとぉお!?」
「何驚いてるんだよ?」
「馬鹿な! この距離で、実弾をよけることなんて不可能だろ!?」
この距離って……まあ、オスカーとは3メートルくらい離れてる。
避けられない距離じゃない。
「どうした? 一発で終わらせるんじゃないのか?」
「くっ……! 今のは……まぐれだ! そうに決まってる!」
オスカーが銃を構える。
ドドウ……! ドドウ……! ドドウ……!
今度は三連射。眉間、心臓、みぞおち。それら急所を正確に撃ってきた。
ああ、マジで腕のいい銃手なんだな。
すかっ、すかっ、すかっ。
「馬鹿なぁああああああああああああああああああ!?」
三発全部回避して見せた俺を、オスカーのやつが驚いて見やる。
「君! 今全部……目で追えていただろう!?」
「ああ。そうだな」
「そうだな!? け、拳銃の弾がどれくらいスピードがあると思ってる!?」
「そんなに速いか? 俺のいた故郷じゃ、もっと速い【鳥】いたぞ」
「いるわけないだろ! 銃弾より速く動く鳥なんてぇえええ!」
いや、普通にいるんだが……。サンダーバードって鳥。
まあ、俺のいた人外魔境って、珍しい鳥とか竜とか多かったからな。
「まだやるか?」
「当然だよ、……ふぅ」
オスカーが目を閉じて深呼吸をする。
目を開くと……さっきとは違った、真面目な表情で、俺をにらみつけてきた。
なるほど、今までのは嘗めていたってことか。
「どうやら本気を出す必要があるようだね。ボクにもう一丁を抜かせるなんて……やるじゃないか」
オスカーの両腕には、いつの間にか二丁の拳銃が握られる。
「ボクはこの二丁の拳銃に加えて、格闘技を組み合わせた特別な武技【ガンカタ】を使うのだ」
「ほぉ……。ガンカタね。接近戦もできるのか」
「ああ。君はやるようだから、本気で挑ませてもらうよ!」
だっ……! とオスカーがこちらに向かって突っ込んでくる。
なかなかのスピードだ。
接近しながらオスカーが撃ってくる。
ドドゥ! ドドゥ! ドドゥ! ドドゥ!
俺は最小限の動きで全部回避する。
だが回避してる間にオスカーが接近してきた。
なるほど、ガンカタ。
銃でけん制し、そのすきに近づいて、格闘術に持ち込む戦い方ってわけか。
「この至近距離なら、避けられないだろぉ!」
オスカーが拳銃を突き出す。
銃口を俺の眉間に押しつけて、発射する。
ドドゥ……!
パシッ……!
「そんなばかなぁあああああ!?」
「そんな驚くことか?」
「ありえないだろ! 君……銃弾を、指で摘まんだんだぞぉおおおお!?」
「見えてるからな、全部」
やつが引き金を引くタイミング、飛んでくる銃弾。
俺の目には、そのすべてが見える。
「す、スキルかそれは……!?」
「いや、生まれつきのもんだよ。俺は生来、目がいいんだ」
「目がいいってレベル超えてるよ君!」
「おまえしゃべってる余裕あるのか? おまえ。この距離なら、俺の攻撃も届くぞ」
俺の手が届く範囲にオスカーがいるからな。
すると彼はぐっ、と身をかがめて、一瞬で俺の前から消える。
「おお、なかなかの速さ」
一瞬で俺から距離を取って、オスカーが二丁拳銃を俺に向けてくる。
ドドゥ! ドドゥ! ドドゥ! ドドゥ! ドドゥ! ドドゥ!
さて、そろそろ終わらせるか。
俺は矢をつがえて、放つ。
びぃいんっ……!
「ば、馬鹿な……!? き、君! じゅ、銃弾を……矢で打ち落としただってぇ!?」
俺とオスカーの間には、ゴム弾が落ちてる。
ゴム弾の中心部には、俺の放った矢が全部刺さっていた。
空中で飛んできた銃弾めがけて、俺は矢を放ったのだ。
「な、なんで!? 銃弾は、六連射! 六連続の銃弾を、矢で全部打ち落とすなんて無理だろ! 矢は一本ずつしか撃てないんだぞ!?」
「ああ。だが簡単だよ。銃弾より速く矢をつがえて、放つ。それを六回やっただけだ」
「あり得ない……銃弾より速い矢なんて……あり得るわけがない……」
「ああ、すまんな」
「? がっ……!」
どさっ、とオスカーがその場に倒れる。
「矢は七本、放ってたわ」
六本は相手の銃弾を打ち落とし、最後の一本は、山なりに放っていた。
時間差で俺の放ったゴム矢が、オスカーの後頭部をなぐりつけたのである。
白目をむいて倒れるオスカーに、マリク隊長が近づいてくる。
気絶を確認した後、隊長は高らかに言う。
「オスカー、戦闘不能。よって勝者、ガンマ!」
わっ……! と観客席からメイベルと、アルテミス皇女が歓声を上げる。
「すっごいよガンマー!」
「銃の名手オスカーを倒してしまうなんて、さすがです、ガンマ!」
隊長がぴょん、と俺の肩に乗って、ニッと笑う。
「オスカーは馬鹿だがかなりの実力者だ。それを倒すなんて……やるじゃねえか、ガンマ」
なんとか力を示すことができた。
良かった、認めてもらえたようだ。
こうして決闘は俺の勝利で終わったのだった。