52.火急の知らせ
時は少し遡る。
場所は帝国、帝都カーター。
ガンマの所属する胡桃隊の魔法使いメイベルは倉庫にいた。
ここには胡桃隊の武装や、魔法バイクなどといった魔道具が保管されている。
メイベルは魔導人形の整備をしながら、しかし、考え事をしていた。
「メイベル。どうした?」
「…………」
「パイタッチ」
「あ、隊長」ぐしゃっ。
自分の胸にへばりついたリスを、整備していた魔導人形が捕獲する。
そのままぎゅうぅうう~と万力のごとく力を込めて、握りつぶそうとしていた。
「たしゅけてぇええええ! でりゅぅうううう! でちゃうぅううううううう!」
「はぁ……ガンマ……帰ってこないかなぁ……」
「黄昏れる前に助けてマジで死ぬってぎゃーーーーーーーーーーーー!」
ややあって。
胡桃隊の隊長、リスのおっさんことマリク・ウォールナットが、ため息交じりに言う。
「おまえなぁ……死ぬとこだったぞ?」
「ごめん。でも隊長も悪いよね? あたしの胸急に触るんだもん」
メイベルたちは倉庫の片隅にもうけた休憩スペースに居る。
廃品のソファに並んで座るメイベルとマリク。
ふたりともつなぎを着ていて、油で汚れていた。
魔導人形を整備するメイベルはもちろんのこと、マリクもまた機械いじりをしていたのだ。
マリク・ウォールナット。見かけはただのエロリスなのだが、その実、天才魔道具師という肩書きを持つ。
「ガンマたちのことが気がかりなのか?」
「うん……」
数日前にガンマは他の隊員たちとともに、西の果てにある人外魔境の土地へと、調査に向かったのだ。
「気持ちはわかる。人外魔境の土地の調査だもんな。でもあそこはガンマの生まれ故郷だし、それにあいつが魔蟲族に後れを取るわけねーだろ?」
「そうだけど……そうだけどさ」
それでも心配なのだ。
好きな人が、危険な場所に行って……そのまま帰ってこないんじゃないかと。
彼女たち帝国軍人は、人類じゃ太刀打ちできない凶悪極まる敵と日々死闘を繰り広げている。
いつ命を落としたって、おかしくはない。
普段は、そばにいるから、何かあったときにこの魔導人形を使って仲間を……思い人を守れる。
でも今は離れている。手の届かない場所に彼がいる。
何かあったときに何もできない。それが不安なのだ。
「やっぱ行けば良かったな、無理にでも……」
「…………」
マリクはメイベルの肩に乗って、そのもふもふの尻尾で頬をなでる。
「ま、大丈夫さ。ガンマだけじゃねえ、みんな強いやつらだ。何があっても、なんとかするさ」
「うん……」
「それに、いざとなったらよ、【あれ】を使ってひとっ飛びさ」
「あれって……?」
と、そのときだった。
パリンッ……!
「なんだ!? 敵襲か!?」
窓ガラスが割れ、何かがすさまじい早さで入ってきたのだ。
それはメイベル達の周りを旋回している。
「違う……ガンマの魔法矢だ! 燕の矢!」
「燕の矢……?」
「どれだけ離れてても、特定の場所に高速で手紙を届ける……たしか、矢文? とか言っていた!」
メイベルとガンマは同じ学園に通っていた。
そのときガンマの魔法矢については、色々と教えてもらったのである。
燕の矢には攻撃力はないが、遠隔地との情報発信を可能とする魔法矢である。
……嫌な予感が、脳裏をよぎった。
魔法で作られた燕が旋回すると、メイベルの手の中に収まる。
白い燕は便せんへと変形する。
「!」
「白紙じゃねえか……。って、まさか!」
ガンマから届いた白紙の矢文。
それは……緊急メッセージだと二人ともが同時に悟った。
矢文を何も書かずに出したのではない、【書く暇がないほど】の、緊急事態が起きているのだ。
「おいメイベル! どこいくんだ!」
倉庫から出ようとしたメイベルをマリクが呼び止める。
「きまってるよ! ガンマを助けにいくの!」
メイベルの顔から血の気が引いていた。
ガンマはいつだって冷静で、そして強い。
彼は一人で何でも背負い込む悪癖がある。
彼の規格外の狙撃をもって、あらゆる敵を未然に倒す。誰も傷付かないように、誰にも頼らず、倒す。
そんな彼が人を頼ってきた。それほどまでに、厄介な相手と戦っている、または危険な状況に居るのだ。
「落ち着けメイベル。あのガンマが救援を求めてることが、どんだけやばい事態なのかはおれにもわかる」
「じゃあ!」
「だが冷静になれ。こっから人外魔境に普通に行ったら、何日もかかる」
燕の矢はすさまじい早さで手紙を届けることができる魔法矢だ。
それは人間じゃないからできる芸当。
現状の一番速い乗り物である、魔法バイクを使ったところで、人外魔境にはすぐに到着しない。
ついてるころには、ガンマは死んでいるだろう。
「じゃあどうするの!? 隊長は、ガンマを見殺しにするの!?」
「バカ言え。大事な部下にそんなことするわけねーだろ。ついてこい、メイベル」
マリクのあとに、メイベルがついて行く。
倉庫の片隅には防水シートをかぶせた、何かがあった。
「この試作機の出番だな」
「しさくき……?」
ばさっ、とマリクがシートを取りはらう。
【それ】を見てメイベルが驚愕した。
「なに……これ?」
「仲間の危機に誰よりも速く駆けつけられるよう、おれが開発した【翼】だ」
ぺちぺち、とマリクが【翼】と称した、魔道具に触れる。
「だがおれじゃサイズが合わなくて乗れねえ。メイベル、おまえがこれに乗るんだ。もっとも危険も多い。それでも……」
「乗る! 乗るよ! 当たり前じゃん! 仲間がピンチなんだもん!」
メイベルは躊躇なくうなずく。
マリクはその答えを予想したかのように、不適に笑った。
「よっしゃ、いくぞ! 運転の仕方はおれが指示する!」
「うん! 待ってて、ガンマ……! 今度は……あたしが助けるから!」
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