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5.入隊、そして決闘



 パーティを追放された俺だったが、旧友のメイベルの手引きで、帝国軍に所属することになった。


 盗賊たちを無力化したあと、メイベルの魔導人形ゴーレムを使って、やつらを帝都まで運ぶ。


 ほどなくして帝都が見えてきた。


 赤毛の旧友、メイベルが窓の外を指さしながら言う。


「あれが帝都カーター! このマデューカス帝国の中心地だよ!」


「おー……結構新しい感じの都市だな」


 俺がこないだまでいた、ゲータ・ニィガ王国の王都と比べると、やや小さいような感じがした。


 城門入り口は一カ所のみらしい。ここも、ゲータ・ニィガとは違う。あっちは4つの入り口があった。


 門の入り口では軍服を着た兵士が人の入りをチェックしている。


 といってもそんなに待たず、すんなり入れた。


「なんかあっさり入れたな。ちゃんと検問してるのか?」


「してるよ。【探知機スキャナ】っていう魔道具を使って、馬車の中を一瞬で調べることができるの!」


「探知機。へえ……魔道具使ってるのか?」


 メイベルの代わりにアルテミスがうなずく。


「このマデューカス帝国は、王国と比べて歴史が浅いです。ですが、軍事力、そして技術力では王国には負けないと自負しております」


「皇帝陛下が新しい技術だろうと、暮らしが便利になるならがんがんつかってこーぜって方針なんだ!」


 なるほど……。魔道具なんて王国の検問所じゃ使われてなかったな。


 手作業で馬車の中を調べてたから、門の中に入るのに時間かかったし。


 馬車が門をくぐっていく。やはり王国よりは狭い印象を受けた。けれど……。


「な、なんか建物が、縦に長いな」


「土地が狭いですからね。横よりも、縦に建物が伸びていくんです」


 建物がぎっちり詰まっている一方で、道路はかなり幅を取っていた。


 舗装もしっかりされており馬車が全然揺れない。


 王国は歴史があるって言えば聞こえがいいが、補修が行き届いていないところのほうがおおい。

 

 こっちの道路のほうが走りやすく、歩きやすそうだ。


「これが帝国の、帝都カーターか」

「きれーなとこでしょー!」


「ああ。機能美っていうのかな。この整ってる感がいいな」


「でしょー! えへへっ。さすがガンマ、目の付け所がいいねっ」


 そっか。メイベルは帝国民だったな。国を褒められてうれしいのだろう。


 アルテミスもまたうれしそうだ。


「で、こっからどうするんだ? メイベル」


「まずは帝城にご招待! そこで我らが胡桃くるみ隊の、ウォールナット隊長に挨拶。そこで入隊の手続きって感じかな」


「隊長に挨拶……って面接ってことか?」


「ま、そんなとこだと思うよ、多分きっと」


「……な、なんか不安になってきたな。大丈夫かな、俺、前の職場首になってるけど」


「だいっじょーぶ!」


 にかっ、とメイベルが笑って、俺にぎゅっとハグしてくる!


 ち、近い……! 距離が!

 そんで胸がぐにって!


「ガンマは男前だし、腕も確かだし、大丈夫! 隊長も歓迎してくれるよ!」


「そ、そうかな……」


「そうだよ! だからほら、そんな不安そうな顔しちゃだめっ。ね? 元気出してこっ!」


 ……メイベルのやつ、俺の緊張をほぐしてくれてたのか。


 だからくっついてきたのか。……なんかその気遣いが……うれしい……うう……。


「な、泣くことないだろー?」

「そ、そうだな……すまん。俺、頑張るよ、面接」


「おうさ! そのいきだよ! 大丈夫、だめだったときはあたしが養ってやっから!」


「え、養うって……」

「ふ、深い意味はないよ! ほらその……あれだその……あー! もう帝城が! ほらほら切り替えてこー!」


 雑なごまかしっぷりだな……。


 しかし元気は出たぜ。うん、頑張ろう。

「随分と、ナカガヨロシイデスネー」


 アルテミスさんが笑いながら言う。笑ってるのに、目が笑ってないよ……。


 え、何怒ってるんだ?

 わからん……。


    ★


 帝城に到着した俺たち。

 ここもやっぱり、縦に長い城だった。

 城って言うか塔みたいな。


 俺たちが向かったのは塔の地下。

 建物は上へ向かって伸びてるので、地下を訪れる人はすくなさそうだ。


 広めの地下室が【胡桃くるみ隊】の詰め所らしい。


「よぉ、よく来たな。おれが胡桃くるみ隊の隊長、マリク・ウォールナットだ」


「…………」


「メイベルから聞いてるぜ。腕の立つ弓使いなんだってな。期待してるぜ?」


「…………」


「ん? どうしたガンマ?」


「あ、え……っとぉ、あ、あなたが……その、隊長?」


「そうだ。見てわかるだろ?」


「……見てわからないから聞いたんですが……」


 胡桃くるみ隊の隊長と呼ばれる【そいつ】は、俺の目の前にいる。


 机の【上】に、座っている。


 俺は彼を、見下ろしている。


「あのぉ……ウォールナット隊長?」


「マリクでかまわんよ」

「はあ……じゃあ、マリク、隊長?」

「どうした、ガンマ? 質問か? なに気遅れするな。ガンガン聞いていけ? ん? 何がわからない?」


 わからない。

 そう、わからない……。


「なんで、【栗鼠リス】がしゃべってるんですか?」


 そう……俺の目の前にいる、胡桃くるみ隊の隊長とやらは……。


 明らかに、リスだったのだ!

 あの小さくて、茶色の小動物!


 手のひらサイズのかわいいリス。

 しかしサングラスをかけていて、葉巻を咥えている。


「いい質問だ。だがガンマ、この世には知らなくていいことってもんがあるんだ。おれがリスなのはそれだ。まあ些細な問題だ」


「隊長がしゃべるリスなの些細で済ませられないんですが……」


 え、リスって……リスが隊長って、あ、あり得ないだろ……。


「まあここではこれくらい日常茶飯事だ。胡桃くるみ隊は少々変わった奴らが多いからな」


「代表格のあんたが言うと説得力ありますね……」


 隊長のデスクに座る、小動物(マリク隊長)に、アルテミスもメイベルも特に驚いた様子もない。


 本当にこのリスが隊長なのな……。


 困惑する俺をよそに、リスがテーブルの上の書類を読み上げる。


「ガンマ・スナイプ。今日からうちの胡桃くるみ隊に任命する。皇帝陛下からの任命書だ。受け取れ」


 苦労しながらリス……もとい、マリク隊長が書類を持ち上げようとする。

 

 だがいかんせんリスなので、苦労していた。


 そこへ……。


「……隊長。私がやります」


 マリク隊長のそばに、人形のようにたたずんでいた、どえらい美人がそういった。


 あまりに動かないから、人形かと思った……。


「おお、シャーロット。頼むわ」

「……承知いたしました」


 シャーロットと呼ばれた美人が、任命書を手に取る。


 青く長い髪に、めがね。レンズの向こうには、猛禽類のように鋭い瞳が覗いてる。


「こいつはシャーロット。おれの補佐を担当してる。ま、副隊長ってこったな」


「……シャーロット・オズウェルです。よろしく、スナイプさん」


 シャーロット副隊長は、クールな美人って感じだ。


 隊長から書類を受け取ろうとすると……。


「おっとパイタッチ」


「ちょっ……!? マリク隊長!?」


 リスが副隊長の胸に、その小さな手で触れたのだ。


「おっとすまんなぁシャーロット! 体がよろけちまってよぉ! がはは! ……ぐぇえええ!」


「……お気になさらずウォールナット隊長」


「死ぬ死ぬ中身でる! 中身でちゃうぅううううう!」


 一瞬で副隊長に捕まって、ものすごい力で握りつぶされてる。


 マリクのおっさん……堂々とシャーロット副隊長の胸触ってやがった。


 とんだセクハラリスだな……。


 副隊長に握りつぶされる隊長を見ながら、メイベルが言う。


「気をつけてねガンマ。あのリス、セクハラ親父だから。胸とか遠慮なく触ってくるから」


「男にセクハラなんてしねえよ……! ごめんってシャーロット離して死ぬってマジで死ぬ死にたくないたちゅけてぇえええ!」


 ややあって。


「さて晴れて君もこれで、胡桃くるみ隊の一員となったわけだ! おめでとう! 歓迎するぜ、ガンマ!」


「はあ……どうも……」


「んだよー、元気ないな。元気出しとく? パイタッチしとく? シャーロットに命令して触らせるか?」


「最低だなあんた!」


 にかっ、とマリク隊長が笑う。


「そうそう、そういうノリでいいんだよ。確かにここは軍隊だけど、ま、うちは特殊だからよ」


 ……ああ、このおっさんも、メイベルと一緒で緊張してる俺を気遣ってくれたのか。


 だから、わざと馬鹿やったわけか。

 意外といいおっさんなのかもしれないな。リスだけど。


「さて、手続きは完了したわけだ。んで、、お次は隊員の紹介……って行きたいとこだが。うちは後ふたりで全員なんだよな」


「そういえば六人なんでしたっけ、胡桃くるみ隊って」


「そう。隊長おれ副隊長シャーロット。隊員はメイベルとおまえと、もう一人。あとは軍医」


「軍医さんまでいるんですか」


「一人だけだがな。うちは少数精鋭なのさ。もうすぐオスカーのやつも帰ってくると思うけど……」


 と、そのときだった。


「やあやあ! このボクが帰ってきたよ!」


 ばーん! と詰め所の扉が開いて、中に入ってきたのは、さらさら髪の男だった。


 緑色の長髪に、すらりと長い手足。


「おお! 我が麗しのメイベル嬢! 帰ってきたのだね、ボクのために!」


「うげ……オスカー……」


 この緑髪の男が、胡桃くるみ隊の隊員か。


 メイベルは露骨にいやそうな顔してる……。


「はっは! そうさ、このボク、オスカー・ワイルダー! ただいま見回り任務から帰ってきたよ! む? むむ……!」


 オスカーが俺に気づくと、ずんずんと近づいてくる。


 ぎろっとにらんでくる。


「なんだよ」

「なんだよはこっちの台詞だよ。君……どうして男が、この部隊にいるのさ?」


「は?」

「ここはボクのハーレム部隊なのに! 男なんて不必要なのだよ!」


 ハーレム部隊ってなんだよ……


 あきれてる俺をよそに、メイベル、マリク隊長、そしてシャーロット副隊長が口をそろえて言う。


「ちがうよ」「ちげーよ」「……違います」


 てかマリクのおっさんがいる時点でハーレム部隊じゃないし。


 なんだったら女性陣は、オスカーにいやそうな顔を向けている。


「嫌われてんなおまえ」

「うるさい! むかつく新人だな……よし決めたよ!」


 びしっ、とオスカーが俺に指を指す。


「君、ボクと決闘だ!」

「は? 決闘……?」


「そう! ボクが勝ったら、この胡桃くるみ隊を出て行きたまえ!」

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[気になる点] 魔力を使う攻撃は、一瞬で標的に命中するのかな? [一言] 魔力使用の説明不足多くない?
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