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48.山登り



 俺たちは妖精リコリスとともに、敵の本拠地である円卓山テーブルマウンテンへと向かった。

 魔法バイクを飛ばし、明け方前には山の麓に到着したのだが……。


「これは……どうやって登ればいいのかしらね……?」


 リフィル先生が見上げながら尋ねる。俺たちの前には、そびえ立つ自然の壁がある。

 表面がボコボコしてはいるが、しかしどう見てもただの岩壁だ。山道なんてものは見当たらない。


『ここが円卓山テーブルマウンテンや。これは一枚岩でできとる。人間が登ることを想定されとらんから、頂上への道はあらへんな』

「となると、この岩壁を登っていく必要がありますねぇ……」

 

 リヒター隊長がドローンを飛ばしながら言う。

 

「大体高さは500メートルくらいでしょうかねぇ」

「さ、さすがに500メートル登るのは……お姉さん無理ね」

「奇遇ですねぇ、ボクもですよぉ。見たところ岩壁に窪地などの休むところなんてありませんし。ロッククライミング500メートルなんて、インドアなボクやリフィル先生には無理ですよぅ」


 俺と妹のフェリサなら、簡単に登れるだろう。だが先生達は地上に残すことになる。

 二手に分かれるか? いや、本番は山頂に着いてからだ。もしも魔蟲族の作ってる、その巨大蟲とやらが物理的手段で破壊できないとしたら、隊長の力が必要となる。


「つまりこの山を、どうにかして全員で登る必要がありますね」

『人間は不便やなぁ。翅がないなんて』


 裏を返せば、妖精や魔蟲達はこの岩壁を易々と踏破できると言うことだ。


「……便利な翅がないから、人間は道具を作るんですよぉ」


 リヒター隊長が小さく……けれど、はっきりと言う。

 そこには強いこだわりというか、意思のような物を覚えた。


「高いところにいる獲物を獲りたいから弓が開発されましたぁ。そりゃ、人であることを捨て、鳥に生まれ変われば高いところの餌を取れるでしょうけど」


 ぎゅっ、とリヒター隊長がこぶしを強く握る。


「ボクは、人である可能性を捨てたくないですねぇ……。死して賢者に転生するより、たとえ背中に翅がなくとも、空の飛び方を模索する愚者で有り続けたいです」


「隊長……」


 まるで何か、別のことについて言及しているように思えた。

 

「ま、そーゆーわけで。我々の手札を使って、山頂までいこうじゃないですかぁ」

『そうは言うてもな、姉ちゃん。そないひょろい腕でこの大岩を登るのは不可能やで?』

「ええ、ですからボクは、自力で登るようなことはしませんよぉ」

『じゃあどないすんねん?』

「自力で無理なら、他に頼ります」

『ほかってなんやねんな?』


 リヒター隊長は鞄から、ポーション瓶を取り出す。



「困難な事態に直面したときに、諦める以外の選択肢を作る。そのために道具はあるんですからねぇ……」


 隊長はそう言って笑うと、俺たちに作戦を伝える。


    ★


 リヒター隊長からの作戦を聞いて、俺たちはその通り実行する。


「じゃ、いってきます」

「ガンマちゃん、無理しないでね」


 円卓山テーブルマウンテンのふもと、俺はフェリサと一緒に立っている。

 ただし、フェリサは俺の体に赤ん坊のようにしがみついていた。


「フェリサちゃんも、怪我しないようにね」

「…………」むふー。


 フェリサが満足そうに鼻を鳴らしていた。どうやらこの格好がお気に入りのようだ。

 くっついてるのがいいのだろか。


「じゃ、ガンマ君。手はず通りに」

「はい。それじゃ」


 俺は黒弓を山なりに構える。


「【蜘蛛の矢キャプチャー・ショット】」


 白い魔法矢が一直線上に飛んでいき、岩壁に張り付く。

 この魔法矢は接着性と弾力を持つ。矢で当てた部分と黒弓の間に1本の、文字通り蜘蛛の糸が伸びているような状態だ。

 これは命綱であると同時に、長い長いゴムのようなもの。


『なんや、兄さん。なにすんねん?』

「リコリス。俺に捕まってないとおいてくぞ」


 魔法矢の伸縮性はこちらで調整できる。 俺は魔法矢の伸びる力を解除する。すると、限界まで伸びたゴムのように、魔法矢が勢いよく縮む。


 ぐんっ! と俺たちの体は頭上へとひっぱられ、まるで魔法矢のように飛んでいく。


『うひぃいいいいいいいいいいいいいい! 逆バンジーぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』


 リコリスが謎のワードを発していた。ぎゃくばんじー?

 彼はしっかりと俺の肩につかまっていたので、振り落とされることはなかった。

 俺たちはゴムの縮む力を利用して、蜘蛛の矢キャプチャー・ショットの着弾点まで一瞬で距離を詰めた。

 まだまだ、山頂には到着しない。


 岩壁にくっついた魔法矢を命綱として、岩壁にぶらさがってるような態勢だ。


『こ、このあとどーすんねん……?』

「簡単だよ。後はこれを繰り返す」

『ちょっ!? またあれ繰り返すん!? 結構体に負担が……』


 俺は岩壁に足をつけて、弓を構える。


 すぐさま蜘蛛の矢キャプチャー・ショットを山なりに撃つ。

 あとは撃つ、引っ張られるを繰り返しながら……。


 ものすごい短時間で、俺たちは山頂までたどり着いた。


『ぜえ……はあ……に、兄さん……やばいな……。あない不安定な足場で、正確に狙撃をするなんて』

「そんなすごいか? 空中でもよく狙撃とかするぞ」

『普通、自分が動いてる状態で矢を当てるのは難しいんやで……しかも一歩間違えれば二人とも地面に頭から真っ逆さまって状況で、この冷静さ。すごすぎやで……』


 動きながらの狙撃も、危険な状況での狩りもどちらも幼い頃から経験してることだ。

 だから、特別なことに思えなかった。


『ほんで兄さんたちは山頂ついたけど、地上の二人はどないすんねん? まさか蜘蛛の矢キャプチャー・ショットで引っ張り上げるんか? 体にかなり負担かかるけど?』

「そんなことはしないよ」


 俺は隊長からもらっておいた、1つのポーション瓶を取り出す。中には黒い液体が入っていた。


『なんやそれ?』

「魔法ポーションだ。この液体の中に特定の魔法を閉じ込めておける」


 俺は自分の影に向かって、ポーション瓶を落とす。

 ぱりんという音ともに、俺の影がうごめく。 


 ずずず……と影の中から隊長達が現れた。


『んなっ!? て、転移魔法やとぉお!? そない高度な魔法の使い手がここにおるのか!?』

「違いますよぉ。それはアイリス隊長……メイベル君のお姉さんの魔法です」


 アイリス隊長は影呪法かげじゅほうという、影を使った特別な魔法を使える。

 魔法ポーションに入っていたのは隊長の影呪法。


 彼女の影呪法には、影と影とをつなげて、転移するという術が存在する。


「まず俺たちが先んじて山を登り、影呪法を使って、隊長達は俺の影にめがけて転移するって作戦だったのさ。」

『な、なるほど……持ってる手札を使って、見事この岩壁をのぼりきったわけやな。にんげんは……すごいなぁ……』


 ちなみにフェリサをなんでおんぶしていたかというと、もし山を登っている最中、敵に襲われた際に戦ってもらうためだ。

 俺が登るのに集中していて、敵にまで手が回らないからな。まあ、空中で敵に襲われることはなかったけどな。


「ほらフェリサ。もう降りなさい」

「…………」ぷいっ。

「フェリサ? 降りろって」

「…………」ぶんぶんぶん! ぎゅー!


 しばらく妹は俺の背中から降りようとしなかったのだった。

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[一言] ファリサちゃんをほじくり倒してぇなぁ〜
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