44.VS砂蟲
俺たちは道中、巨大なミミズの化け物、砂蟲と遭遇した。
それに追いかけられている様子の、妖精リコリス。
『あいつは獲物をずぅっと追いかけてくるで! かんっぺきに倒してや!』
追い払うのでなく、完璧に倒せか。
俺はフェリサとともに荒野をかける。
地中に潜ってる砂蟲。
「…………!」
耳のいいフェリサは敵の出現タイミングを探ることができる。
俺を捕食しようと、足下からやつが出現。
そのまま俺を食おうとしてくる。
だがフェリサからのアイコンタクトもあって、それを回避することに成功。
「【星の矢】!」
「…………!」
俺は右側面から、無数に分裂する魔法矢を放つ。
フェリサは鎖突きの手斧をブーメランのように投げて、砂蟲をズタズタに引き裂く。
魔法矢と斧で、相手を粉みじんにしたのだが……。
「グボロオォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
反対側から、また砂蟲が出現する。
蜘蛛の矢を近くの岩に貼り付け、その伸縮を使って俺は瞬間移動。
敵に食われることはなかった。
フェリサは斧を投げて追撃するものの、すぐにやつは地中に潜ってしまう。
今のやりとりを見ていたリヒター隊長が言う。
「どうやら砂蟲は再生能力を持つようですねぇ。片側の頭部が残っていれば、そこから新しい胴体が生えてくるようです」
……厄介この上ない。
ミミズのやつは、地中を移動している。
地上に顔を出すとき、もう片側の頭は地中だ。
いかに地上のミミズを粉々にしたとしても、地中の頭が残ってる限り、無限に再生してくる。
「やつを地中から地上へ追い出すのは、難しそうですね」
「ガンマ君の言うとおりですねぇ。捕縛して引っ張り出そうとしても、あの速さでは捕らえられませんねぇ」
「と、なると内部からの破壊でしょうか」
「それが妥当なところでしょーう」
フェリサの獲物は手斧。内部から一気に爆破するようなまねはできない。
となると俺がやつに食われて、中から爆裂系の魔法矢で狙撃するのがベストか。
「だめよガンマちゃん」
ぽん、とリフィル先生が俺の肩を叩く。
「それだと、中に居るガンマちゃんが火傷しちゃうわ」
「先生……でも、先生の治癒があれば、火傷はすぐ治りますよね?」
「ええ……でも、痛いのはいやでしょ? 誰でも」
「大丈夫です。狩りに怪我はつきものですし」
「だめ」
リフィル先生が、珍しく有無を言わさない感じで言う。
「あなたが大丈夫でも、周りはあなたが傷つくことで、心が傷ついてしまうわ」
「先生……」
確かに、独りよがりな意見だったかもしれない。
俺一人が痛みに耐えればいいと。
狩りするときはずっと一人だったから。
「ガンマちゃん。今は狩りじゃないわ。チームで戦ってるのよ」
「チーム……」
「そ。もうあなたは荒野を一人で駆ける狩猟民族じゃない。仲間のために戦う帝国軍人の一人でしょ」
「…………」
そうだ。そうだよ。俺はもう、違う場所に来たんだ。
くそ……なにやってんだ。俺は前のパーティで、独りよがりなプレイをした。
俺一人が黙々と仕事していればいいと。功績が目立たずとも、それが仲間のためになると思って、勝手に重荷を背負って……その結果、パーティを追われたじゃないか。
独りよがりになるんじゃない。自分だけを犠牲にするんじゃない。
仲間のために、仲間と戦う。それが軍人のあるべき姿じゃないか。
「すみません。リフィル先生。一人で突っ走るところでした。力貸してもらえますか?」
「もちろん♡ お姉さんに秘策ありよ♡」
先生が手短に作戦を説明する。
「そんなことができるんですか?」
「まーね。お姉さんは回復要員だけじゃないのよ」
それならいけるかもしれない。
「フェリサ! 聞こえてるな!」
離れた位置で、ひとりで敵を引きつけているフェリサに言う。
彼女は耳がいいので、先生の作戦が聞こえていたはずだ。
俺はフェリサと、砂蟲を挟撃する。
やり方は一緒。星の矢と手斧による、物量で推す作戦だ。
『あかんて! それじゃさっきと同じや! 地上の砂蟲をやっつけても意味ないやん!』
妖精リコリスからのツッコミ。そう、これは向こうにもそう思わせるための布石。
やつは片側が破壊されると、再生する時間を取るため、逆側に逃げる。
その習性を逆手に取る。
ちょうど逃げた先にリフィル先生が立っている。
やつはちょうどいい獲物がそこにいると思っただろう。
俺たちから離れてるし、武器を持ってる感じでもない。
砂蟲が大きな口を開けてリフィル先生を飲み込む。
『さっきのおっぱいお化け食われとんやん! 死んでもうたやんけーー!』
リコリスが叫ぶ。そう、向こうも思っただろう。
だが……。
ぼこっ! と砂蟲の胴体が膨らむ。
ぼこっ、ぼこっ、ぼこっ! と連続で砂蟲の体が膨れ上がっていく。
どばんっ! という音を立てて、砂蟲の体が内側から、爆発四散した。
衝撃によって地中にあった砂蟲の体も、地上へと飛び散る。
「蜘蛛の矢!」
俺は肉片の中からリフィル先生を見つけだし、蜘蛛の矢を貼り付ける。
そのままぐいっと引っ張ると、先生がこちらに飛んできた。
俺はそのままキャッチ。
「…………!」
フェリサはその間に手斧を投擲。
鎖で肉片をすべて一カ所に集めて縛り上げる。
先生が俺の体にしがみついている。
俺は魔法矢を構えて放つ。
「鳳の矢+竜の矢」
俺は魔法矢を二つ出現させる。
合成矢。ふたつの魔法矢を併せることで、より強い威力の魔法矢を作る技術。
「「爆竜の合成矢!」
青く輝く炎の矢が一直線に飛んでいく。
矢が砂蟲の肉塊にぶつかると同時に、すさまじい爆発を起こす。
爆風、そして熱波によって、砂蟲の細胞がボロボロと崩れていく。
爆竜の合成矢は、爆裂の魔矢。
高火力の魔法矢を併せることによる、周囲一帯の酸素をすべて消費させるほどの、異次元の火力を発揮する。
……たしかに、閉所でこれを使うのは自殺行為だ。爆風によるダメージを防げたとしても、後にやってくる酸欠によって俺は失神してたろう。
「狩りと、戦いは違う……か」
身をもって実感することができた。
「うん、よくできました♡」
ちゅっ、と先生が俺のほっぺにキスをしてきた。
彼女はずっと俺に抱きついたままだった。
「お、降りてください」
「やーよ♡」
ぎゅ~~~~~とくっついてくる先生。
一方で仲間達がぞろぞろと近づいてくる。
は、恥ずかしい……。
「…………」
フェリサはいらついていた。先生はニヤニヤと笑ってる。妖精のリコリスは唖然とした表情をしていた。
『信じられへん……砂蟲倒すなんて……ばけものか』
「いやぁお見事でしたねぇ」
「…………」げしげし。
まあ何はともあれ、敵を倒せて良かった。大事なことも学んだしな。