表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/242

42.野営の準備



 ソノイの村を出発して、半日くらいが経過。


 朝早くに出発して、今は日が暮れている。


 俺たち一行は野営することにした。

 近くにあった大岩に、俺は【竜の矢(レーザー・ショット)】をぶち込む。


 大岩に穴を開け、そこで野営することにした。


「……ガンマちゃん。相変わらずすごいわ……すごいけど……すごいけども……」


「どうしたんですか、リフィル先生?」


 軍医のリフィル先生が、ぐったりした調子で言う。


「隊を離れて改めて思うけど……ガンマちゃんってなんというか、いろいろずれてるのね……」


「え、え? ず、ずれてますかね……俺……?」


 先生からそんな意外な言葉が飛んできた。そ、そんな……ず、ずれてるだと……?


 大人の先生が冗談で、そんな事いうとは思えない。これはマジなんだろう。え、え、うそ……。


「お、オスカーや隊長と比べたらまともだと自負してたんですが……」


「まあバカとエロとくらべたら、大分ましよ。ただ……はあ。ガンマちゃんも、変わり者集まるこの隊に、来るべくして来た、変わり者だったのね」


 話、え、それで終わり?

 もうちょっとわかるように言って欲しい!


 俺も同類ってことか……。オスカーや隊長と? いや、別にあの人達が嫌いって訳じゃないけど、同じグループでくくられると、すごい不服なんだが……。


「今夜はここで一泊ですかねえ。みなさん、ご飯作れる人はぁ?」


 俺が手を上げる前に、フェリサが両腕をババッ……! と上げる。


 ふすふすと鼻息を荒くしながら、自分が炊事当番をすると主張してきた。


「フェリサちゃんがご飯作ってくれるの?」


「…………」こくん!


「わーたのし……み……」


 一瞬にして、先生の顔色が青くなる。何かに気づいたようだ。


「ふぇ、フェリサちゃん……もしかしてだけど、お夕飯って……虫?」


「…………」こくん!


 まあうちの民族料理と言えば昆虫食だしな。フェリサも食材(むし)を持ち込んでいたし。


 地竜に結びつけていた鞄をおろして、中からムカデを「ちょーーーーーーーーーーーーーーーーっとまったぁ!」


 先生がフェリサを後ろから抱きかかえる。


 何するの? と妹が先生を見上げて無言で尋ねる。


 先生はぶるぶるぶる! と強く首を横に振る。


「フェリサちゃん、今日は疲れてるでしょ? 戦闘で。お、お姉さんが作ってあげるわっ!」


 おお、先生の手料理か……!

 確かにフェリサは今日頑張ったしな。気を遣ってくれてありがたい。

 

 それに先生の料理がどんなものか気になるからな。大人の先生のことだ、さぞ、美味しい料理が出てくるだろう。


「あれぇ? 確かリフィル先生ってぇ……」


 とリヒター隊長は何事かをつぶやこうとする。


 先生は隊長の口を押さえて、真顔で首を振った。


「朝昼晩と虫は……さすがにお姉さんも無理」

「もが……そうですかぁ。慣れるとおいしいですよぉ?」


「かもしれないけど虫ばっかりじゃ栄養が偏ってしまうでしょ。だからほらね、ね、ね……!?」


「そ、そうですねぇ……」


 いつも大人の余裕を見せる先生が、鬼気迫る表情で隊長を組み伏せていた。


 そんなに料理番をやりたかったのだろうか。


 ……たぶん、俺たち兄妹にばかり戦わせて、自分は戦闘に寄与してなかったことを、気にしてるのかもしれない。


 そんなの気にしなくていいのに、優しい人だ。


 先生が料理の準備をしている間、俺たちは今後の方針を、隊長と話し合う。


「ちょうど半分くらいまできましたねぇ。ここから円卓山テーブルマウンテンに入るわけですがぁ、内部の情報ってどれくらい把握してますかぁ?」


「山の麓くらいまでは。山頂は入ったことないですね」


「おやぁ? 狩猟民族さんたちもですかぁ?」


 俺とフェリサはそろってうなずく。


「あの山って、山頂がテーブル……つまり平たいんですけど、そこは神聖な領域って言われてて、俺たち部族は入ったことがないんですよ」


「なるほどぉ……ですが、人の眼につかない場所は怪しいですねぇ。そこに魔蟲族が巣を作ってたとしたら……」

 

 ……十分にあり得る話だ。

 今まで魔蟲族の魔の字も、俺が十数年居て見かけなかったんだ。


 俺たち部族の眼に止まらない場所は、十分怪しいと言える。


「ガンマ君達は麓で待機してもらいますかねぇ」


「まあ、俺は集落を抜けて帝国軍人になったんで、入っていい……んじゃないかと。フェリサは無理ですけど」


 確証は持てないけど、俺はもう軍に所属してる。部族じゃない。


 まあへりくつだとは俺も思ってる。けれどここで魔蟲族を放っておくほうのリスクの方が大きい。


 ……脳裏によぎるのは、リヒター隊長の兄、ジョージ・ジョカリが見せた、あの大量の改造人間達。


 あのイカレタ科学者が魔蟲族のやつらと手を組んでるとなると、時間が経てば経つほど、奴らは厄介に進化していくと思われた。


 改造人間なんていう、おぞましい生物兵器を短時間で開発してしまうんだから。

「まあガンマ君のおじいさんに怒られたら、ボクに命令されたってことにしておきましょー」


「……いいんですか?」


 確かに軍人なら、上の命令は絶対だ。それに逆らえなかったと言えば、責任は半減する。


 というか、隊長に迷惑がかかるんじゃ……。


 にこっ、とリヒター隊長は笑って俺の頭をなでる。


「矢面に立って部下を守るのは、上司の給料サラリーの一部ですからぁ。気にしなくていいんですよぉ」


「隊長……」


 彼女の表情からは悪意を感じられない。部下を思いやる温かみを思わす笑みだった。


 ……ジョージ・ジョカリ。兄貴はあんななのに、リヒターさんはこんなにも優しい。


 彼はどこで、道を間違えてしまったのだろうか。


「しかし問題がありますねぇ。円卓山テーブルマウンテンまでの道のりはわかっても、現地の、とりわけ山頂部の地図はわからないんですかぁ」


「そこは俺のスキルと、隊長のドローンでなんとかするしかないですね」


「ですかねぇ。まあ一人くらい、現地のガイドがいると助かるんですけどねぇ」


 と、そのときだ。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……! と大岩全体が揺れ出したのである。


「なっ、なにかしらっ!?」


 鍋を持ったリフィル先生が慌てて周囲を見渡す。


 鳳の矢フェニックス・ショットが反応してる。


「敵です」

「みたいですねぇ。ドローンで様子を……って、なんですかこれはぁ……」


 タブレットを見ている隊長が、困惑している。


『た、たすけてやー!』


 外から男の悲鳴が聞こえてきた。


「フェリサ、いくぞ!」

「…………」こくん!


 俺たちは武器を手に、洞窟の外へと出るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ