4.盗賊団も瞬殺
ここから新展開です。
俺、ガンマ・スナイプは、S級冒険者パーティ【黄昏の竜】を追放された。
その後、級友と再会した俺は、帝国軍にスカウトされた。
俺は馬車に乗って、級友のメイベル、そして第八皇女アルテミス=ディ=マデューカスとともに街道を進んでいた。
「そんでさ、これからの話なんだけどね」
俺の隣に座っているのは、赤毛ショートカットのロリ巨乳魔法使い、メイベル・アッカーマン。
「ガンマにはまず【帝都カーター】にあるマデューカス軍の司令部に行くことになるの。そこで正式な入隊の手続きをして、配属される部隊であるうちに行く感じ!」
「なるほど……そうだよな。まずは手続きだよな。あれ、もう配属先って決まってるの?」
「おうよ! 君は我が【胡桃隊】の隊員となるのだ!」
「くるみ、隊……?」
なんだか妙な部隊名だ。というか、俺ってそもそも、帝国軍の内部について何にも知らない。
組織図はどうなってるんだろうか?
「ま、それはおいおい説明するよ。とにかく君はあたしと同じ胡桃隊のメンバーとなるってこと覚えておいてね」
「わかった。部隊ってことは、メイベル以外にも隊員がいるんだよな?」
「うん! ウォールナット隊長に、副隊長。ひらの隊員があたしとガンマを入れて4人。合計で6人!」
ウォールナットってやつが胡桃隊の一番偉い人なのか。
ん?
「ろ、6人……? たったの、6人なのか、部隊なのに?」
「そう! うちは少数精鋭だから。なにせ皇女様の私設部隊だからね!」
「え!? 私設部隊って……あ、アルテミスの部隊なのか?」
「そーそー! ま、仕事内容とかはおいおい」
「おいおいばっかだな……」
「一度にぜーんぶ説明されてもわからないっしょ?」
「そりゃそうだ。ありがとな、メイベル。気遣ってくれて」
「なーになに気にすんな! これから一緒にやってく仲間じゃん? あたしら!」
仲間……か。黄昏の竜のやつらも、仲間だったのに、こっちに一切気遣ってくれなかったな。
一方で、メイベルはすごい気ぃ使ってくれる。何も知らない俺を、無知と嗤うことはしない。
理解できるように、与える情報量についても選んでくれている。
ほんと、いいやつだ。こいつと一緒に仕事できるなら、楽しくやれそうだ。
「むぅ……」
「な、んでしょう……アルテミス様?」
正面に座ってる、金髪の美少女皇女さまが、なんだかむくれていらっしゃる。
な、なにか俺、失礼なことしちゃっただろうか……?
「ずいぶんと、お二人は仲がよろしいのですね?」
にっこりとお上品に笑うアルテミス。
だが、なんだろう。笑ってるんだけど、口元がひくついてる……?
一方であんまそういうの気にしてないメイベルが、笑顔で俺の腕を取る。
もにゅっ、とメイベルのでかい乳が当たる……!
「そう! あたしたちまぶだちなんで! な! ガンマ!」
「あ、ああ……あの、メイベルさん? なんかアルテミス様が切れてらっしゃるような……」
「まさかまさか! アルテミスが怒るわけないよ。ねー?」
メイベルはアルテミスと気安い関係のようだ。
そりゃ、そうか。メイベルの所属する胡桃隊は、アルテミスの作った私設部隊。
今日までともに長い時間を過ごしてきたのだろう。だから、相手が皇女っていうより、友達みたいな感覚なんだろうな。
「ええ、怒ってないです。ただちょっと距離が近すぎないかなぁと思っています♡」
「そうかな? そんなことないっしょー! ねー! ガンマ?」
「近いですよね、ガンマ?」
え、ええー……なにこれ? どういう状況?
隣にはニコニコ笑顔のロリ巨乳が、ぴたりくっついてる。
そして正面には美しい皇女さまが、俺に顔を近づけて、凝視してくる。
ち、近い……いろいろ近い!
と、そのときだった。
「メイベル。こっちに近づいてるやつらがいる」
俺はすぐさま、狩人モードへと意識を移行する。
メイベルも頭を切り替えたのか、手に杖を持つ。
「敵?」
「感じからして、敵だろうな。まだ距離があるが、こっちにまっすぐ近づいてくる」
アルテミスが目を丸くしながら言う。
「なぜ、わかったのですか?」
「ん? ああ。俺はいつも【鳳の矢】って言って、上空に偵察用の魔法矢を飛ばしてるんだ」
鳳の矢はモンスターを無条件で攻撃する。
裏を返すと、モンスター以外には自動での追尾が行われない。
人間の場合は、一定範囲内に入ってきて、かつ怪しい動きをしているとき、俺に警告が入るようになっている。
俺がそれを説明すると、アルテミスがキラキラした目を俺に向けてくる。
「すごいです……魔法矢にそんな使い道があるなんて……」
「いやガンマは特殊だよ。普通の魔法矢はこんな使い方できない。狩人としての才能と、ガンマの努力が……魔法矢を極めた結果、こんな規格外な使い方ができるだけだよ。ま、すごいことには変わりないけどね!」
メイベルもまた俺を褒めてくれる。
うれしい……。女の子にほめてもらうのって、こんなに気持ちいいことなんだなぁ……。
「っと、メイベル。いちおう護衛用のゴーレム出しとけ」
「ほいほい。【創造魔導人形】! 出でよ、【ぶりきん】!」
俺はスキル【鷹の目】を発動。周囲を鳥瞰できるようになる。
メイベルが念じると同時に、俺たちの乗る馬車の周囲に、鉄でできた人形が10体出現する。
「あいかわらず、【錬金】で魔導人形を作る早さはピカイチだな。さすが、【錬金のメイベル】」
「へっへーん! どんなもんじゃい!」
メイベルの家、アッカーマン家は代々、優秀な土の魔法使いを輩出している。
錬金、つまり、鉱物を自在に錬成する魔法だ。
メイベルが得意とするのは、錬金で魔導人形を作り、それを手足のように操ること。
「どうする? あたしがぶっ殺す?」
「いや、攻撃するふりをして、やつらの気を引いてくれればいい。俺がやる」
「おけまる!」
俺は馬車の窓からおりて、屋根の上に乗る。
スキル【鷹の目】を発動させたままだ。
「身なりからして盗賊の類いだろうな」
メイベルの魔導人形にびびって馬を止めている。
数は……20ってところか。
俺は自分の弓、妖精弓エルブンボウを構える。
弦をひいて、矢をつがえる構えを取る。
ばりばり、と黄色い光を放つ矢が出現する。
「【蜂の矢】」
構えて、うつ。
距離にして5キロ。余裕過ぎる。
針のように細い矢が、野盗の首筋に当たる。
ぐったりと力を抜いて馬から落ちる。
残り19人。俺は遠距離から狙撃。
やつらからしたら、ほんの一瞬で意識を失ったことだろう。
俺は敵が動かなくなったことを鷹の目で確認した後、窓のなかに戻る。
「終わった」
「本当ですか!? まだ1分もたってないのに……」
「ああ。まあ野盗が20人くらいだったし、そんなもんでしょ」
「に、20人を!? 1分にも満たない時間で全滅させたのですか!?」
「ああ。これくらい当然だろ?」
ぽかんとするアルテミスをよそに、メイベルは魔導人形を動かす。
倒れている野盗どもを回収しているようだ。
「けど相変わらず正確な狙撃だね! 5キロ先の野盗の首筋に、ピンポイントで麻酔の矢を打ち込むなんて」
「ご……!?」
絶句するアルテミス。
何に驚いているのかわからない。
「え、これくらいできるだろ?」
「な、なにをおっしゃってるんですか!? 五キロ先に矢を当てるなんて、普通できませんよ!」
「まあ、できるよ。小さい頃から弓の訓練してたらさ」
「できませんよっ……!」
まあ何はともあれ、皇女さまに近づく不埒ものを撃退できた俺だった。